ベビコン4話 ほんばん! -2-
「あはぁ……つい身が入り過ぎてしまいました」
普段着部門が終わり、ウクリネスが現世へ戻ってきた。
こいつ、遙か高みに至りかけてなかったか、さっき。
極楽浄土へ気易く行き来するんじゃねぇぞ。
「基本的には、デザインの善し悪しで決めるしかなさそうですね」
「縫い目まで一つ一つ見ていくわけにもいかないからね」
衣服のコンテストなのだから、裁縫の腕も審査するべきなのだろうが、さすがに全数チェックは出来ない。
裁縫の腕は、また別の機会に競ってもらうとしよう。
「一応、最低限の強度があることを確認するために、子供たちにはステージ上を元気に動き回ってもらっているけどね」
あぁ、それで、やたらとガキどもが走り回ってたのか。
それでほつれたり破れたりするようなら、服として落第点。大きな減点対象となるだろう。
「でも、参加者のほとんどが裁縫上手で、しっかりとした服ばかりだったよ。……まぁ、一部にちょっと不安なものもあったけどね」
コンテストに出す前に、給仕たちが一応全数チェックを行ったらしい。
服を着てステージに上がったらそこで破れてすっぽんぽん――そんな大惨事は事前に回避しないといけないしな。
「しかし、デザインのみの勝負となると、どれも似たり寄ったりになるよなぁ。ずば抜けてすごいものがあるわけでもないし……完全に好みの問題になるぞ、これ」
「いえいえ、ヤシロちゃん。中に数点、ずば抜けて奇抜で画期的な、とてもグレードの高いデザインがあったではありませんか」
「そうか?」
「あぁ、出たよ……ヤシロの『自分が持ち込んだ物は評価が極端に低くなる現象』。これ、何か名前を付けて周知した方がいいかもね。きっと、今後も頻発するだろうし」
「何を言ってるのか分かんないが、エステラ、横乳が見当たらないぞ」
「何を言ってるのか分からないのは君だよ! 何を言っているのさ!?」
いや、だって、ずっと探してたんだけど一向に見つからなくてさ。
そもそも、俺の考えた服だって、「こういうのもあるぞ」っていう提案の域を出ないありふれたものだ。
特段優れているというわけではない。
「ちなみに、ヤシロはどの服がよかった? 印象に残っているものとかある?」
「今聞くのかよ? エントリーシートにいろいろ書き込んだんだが?」
「まぁまぁ。審査には関係ない、雑談だと思ってさ」
本当か?
俺の意見を参考にしようとしてんじゃないだろうな?
「それに、たぶん優勝はもう決まっているしね」
妙に自信満々なエステラ。
分かんないだろうが。
ウクリネスやエステラと違って、一般審査員はどういう服がいいのかとか分かってないかもしれないぞ。
お前らがいいと思ったものが、一般人にはウケない可能性だって十分考えられる。
「ウッセはきっと、一番露出の多いものを推してくるぞ」
「そんなわけねーだろ、ヤシロ!」
なんか、遠くで筋肉が吠えていた。
格好つけるなよ、エロオヤジ。
肌色多めが大好きなんだろ、お前も。
分かる。
分かるぞ。
「で、君のお気に入りは?」
「ん~……白のワンピースで花の付いた帽子を被ってたヤツかな」
「あぁ、教会の寮母さんが作った服だね」
だから、情報を漏らすなよ。
匿名って言葉の意味、知ってる?
けど、まぁ。
「言われてみれば、ベルティーナやジネットに似合いそうな服だったな」
「確かにね。ジネットちゃんが着ていても違和感はないだろうね」
「よし、じゃあ帰ったら着てもらおう!」
「無理だよ!? 子供サイズの服は着られないから!」
「はみ出せばいいじゃん☆」
「はみ出すどころのレベルじゃなく、さらけ出すことになっちゃうよ!?」
「よし、さらけ出そう!」
「懺悔してくださぁーい!」
なんか、遠くからお叱りの声が飛んできた。
そうだった。この辺、控え室の窓から見えるんだった。
「おかしい……今日はジネットもベルティーナも控え室にこもるから、何をしても懺悔を喰らうことはないと思っていたのに……」
「そう都合よくはいかないということだよ。精霊神様は、いつでも君の行動を見守っているんだよ」
ちっ!
んだよ!
こっち見んなよ、精霊神!
拝観料取るぞ!
「皆様。投票用紙をこちらの箱に入れてください」
給仕が、選挙の時に使いそうな木箱を持ってやって来る。
四角い箱の上部に、折りたたんだ紙を入れるための細長い穴が空いている。
そこへ、自分が推したい服トップ3のエントリーナンバーを書いて投票する。
一位が5ポイント。
二位が3ポイント。
三位が1ポイント。
獲得ポイントが最も高いものが優勝となる。
俺は……そうだなぁ……
ジネット・カンパニュラ・テレサチームのヤツと、マグダ・ロレッタチームのヤツと、ネフェリー・パウラコンビのヤツでいいか。
「君さ、ボクに贔屓しないようにとか言っておいて、自分は完全に制作者で選んでいるよね?」
「バカ、見んなよ!」
「まぁいいけどね。トップ3は絶対揺るがないから」
謎の自信を滲ませるエステラ。
そうして、さくさくっと集計がなされ、普段着部門の優勝作品が発表される。
「まず、第三位は! ベルティーナさんチームのスカーチョです!」
司会の給仕が発表すると、キュロットとスカーチョを穿いたテレサとカンパニュラが再び舞台へと上がってきた。
今回、ジネットは複数応募するということで、このスカーチョはベルティーナチームとして応募することになった。
ベルティーナも、個別で応募していたみたいだけどな。
「続きまして、第二位は――ウクリネスさんのペアTシャツです!」
第二位に輝いたのは、少年と少女が赤い糸で結ばれているペアTシャツだった。
どちらか片方だと赤い糸がぶっつり断線している呪いのTシャツ……にするつもりが、ウクリネスの気転でただのラブラブTシャツに成り下がってしまった、非常に残念な逸品だ。
「そして第一位は――イメルダ&ミリィwith陽だまり亭チームの、パッチワークジャケット&オーバーオールです!」
わぁっと歓声が上がる。
……まぁ、これが登場した時の反応が一番よかったもんなぁ。
勝ちそうな気がしてたよ。
ちなみに、俺もジネットもいっぱい応募しているので、代表者名をイメルダにしておいた。
下手したら、一位から三位までジネットや俺が独占――なんてこともないとは言い切れなかったのでな。
少しくらいは緩和しようとした結果だ。
ま、取り越し苦労だったけど。
「いや、一位から三位まで、全部君がデザインしたものじゃないか」
「パッチワークジャケットのデザインはイメルダだぞ」
「まったく。……君は自分に厳しいよね」
くつくつと笑って、俺の脇腹を小突く。
やめろ、くすぐったがりがバレたらどうしてくれる。
「やっぱりセットにして正解だったね」
そうそう。
個別にエントリーしようと思っていたのに、たまたまそこにいたエステラが「一緒にエントリーした方がいいよ」って勝手にそうしたんだよな。
曰く、同じような模様だと、あとから発表になる方が不利になる。
インパクトを弱めず高得点を狙うには、セットにしてバリエーション違いという風に思わせる方がいい、とかなんとか。
そんなわけで、俺とジネットがそれぞれ作ったパッチワークのジャケットとオーバーオールは同じチームとしてエントリーをし、男児にも女児にも似合う可愛い子供服として優勝の栄冠に輝いた。
「ね? ボクが言ったとおりだっただろ?」
前日から予想していたんだからと、自慢気に胸を反らせるエステラだが……だったらコンテストやる意味なくなっちゃうだろって思われるかもしれないから、あんま言わない方がいいぞ。
「さぁ、次はお待ちかねの――ネタ部門だよ」
エステラが満面の笑みで告げた。
メインイベントのおしゃれ着部門の前の、まぁ、お遊びタイムだ。
「トップバッターは、こちらの衣装です!」
お、初っ端は俺が応募した服だ。
使い回しのアイデアだが、子供服にすることでネタの古さをカバーする逸品!
モデルは、俺の指示通りトムソン厨房の長男、オックス。
あいつには、あの服の使い方をしっかりと教えておいてやった。
さぁ、ぶちかませ!
とことこと、ステージ中央へ歩いてきたオックスは、正面を向いて演技を始める。
「は、は……はっくしょん!」
わざとらしいクシャミと同時にオックスの頭が「すとん!」とお腹付近まで落ちる。
そう、ハロウィンで俺がやっていた首が落ちるマジックのリメイクだ。
オックスの首が落ちた瞬間、観客席から悲鳴が上がる。
その凄まじい反応に気をよくしたオックスは、テンションを上げたまま「上手に出来たよ、ヤシロお兄ちゃん!」と、こちらを向いた。
……それ、横から見たらしゃがんでるのモロバレで、滑稽だから気を付けろよって言っておいたのに。
「なんだぁ、しゃがんでただけか~」
「あははは! 可愛い~!」
「あの服欲しい~!」
まぁ、ガキのミスは好印象と受け取られる。
お尻を突き出し、しゃがんだままキョロキョロ、右往左往するオックスはひとしきり笑いを攫い、舞台を下りていった。
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