誕生7話 エカテリーニのお店へ -3-
ルシアの馬車はデカい。
の、だが。
俺、ジネット、マグダ、ロレッタ、カンパニュラ、テレサ、ルシア、ギルベルタ。
八人乗りの馬車が満席となった。
まぁ、ちんまいお子様が複数人いるから圧迫感はないが、ロレッタがはしゃいでぱたぱた動くから窮屈感はあるな。
「ロレッタ。かさばる」
「かさばってはないはずですよ、あたし!?」
今回、エステラとナタリアは仕事があるということで留守番となった。
なんか、他所の区に行くのにエステラがいないのは珍し……いや、噴水を作るため三十五区に行った時もエステラはとは別行動だったか。
……あいつ、三十五区はもう身内って認識なんじゃないだろうな。
近所の祖父母の家なら子供たちだけで行かせて大丈夫的な?
他所の区で盛大に粗相を働いてやろうか?
で、俺たちが今、何をしているのかというと――ババ抜きだ。
いや、ババ抜きもどきだ。
「あぁー、惜しいです!」
ロレッタ、ババ抜きに『惜しい』はねぇんだよ。
実は、ロレッタが「三十五区へ乗り込むならメンコの聖地で
長い馬車の旅。
車中で神経衰弱でもしようかと思ってな。
これならば馬車の中でも出来るし、ジネットにも勝てる可能性がある。
……が。
やはりトランプと違って難易度が高い。
なにせ、トランプは四枚同じ数字があるが、今回のメンコは二枚ワンペアしかないからな。
当たる確率が低くなる。
で、一回やったらみんな疲れてしまったようなので、ババ抜きに変更したのだ。
まぁ、こっちもなかなか揃わないんだけれども。
でも、人がやっているのを見て待つより、こうしてずっと参加していられる方が飽きが来ない。
堪え性のないルシアやロレッタには向いているかもしれない。
ただ、トランプと違って厚みがあるから、複数枚持つと手がダルい
六枚しか手元にないのに、全然減らない。
早く減れ。
「あ、また揃いました。あと二枚です」
そんな中、驚異的な幸運を見せつけるジネット。
他の連中が悪戦苦闘する中、立て続けに絵柄を揃えメンコを捨てていく。
「次、ヤシロさんに引いてもらえば、残りはあと一枚ですよ」
ちなみに、二十六ペア、五十二枚のメンコなので、裏返した状態で一枚を選び、抜いて、ババを作っている。
なので、どのメンコがババなのかは誰も知らない。
「あぁっ、ロレッタか。ババ引いたな」
「あたしのメンコがババって決まったわけじゃないですよ!?」
いや、だって、そーゆーの引き当てそうじゃん、お前。
「あ、ヤーくんが揃いました」
俺から俺のメンコを引き、俺を捨てるカンパニュラ。
……なんだろう、ちょっとモヤッとする。
「むはぁあ! 見よ! マグまぐ、ギルベルタ、ミリィたん、テレサたんの最強幼女軍団だ!」
「手持ちの札見せてんじゃねぇよ」
そーゆールールじゃねぇから。
「……マグダは、大人のレディ」
「ミリィさんとギルベルタさんも成人されていますから、幼女ではないですよ」
「見た目の話だ!」
堂々と言い切るルシア。
……うん、そう言われると、一切否定できないのだけれども。
「没収、私は、私のメンコを」
「あぁっ!? ギルベルタ、それは私のメンコだぞ!」
だから、そーゆールールじゃねぇんだよ。
学習しろよ。
手札を開示したルシアから、ギルベルタが自分のメンコを引き抜き、場に捨てる。
めっちゃラッキーだったな、ギルベルタ。
あと二枚か。
「……マグダのターン、メンコドロー」
うん、マグダ。
間違ってはないんだけど、そーゆー感じでもないんだなぁ。
「あぁ、取られた。友達のジネットが」
だから、好きなカード集めるゲームじゃないから。
「次はあたしが揃えるですよ! そいやっ! むぁあ! パウラさん最初に出てったメンコです! これきっと、最初に出てったパウラさんが巡り巡って戻ってきたですね!」
騒がしいな。
いいからメンコを出せよ。ジネットが待ってんだろうが。
ちなみに、順番は俺、カンパニュラ、テレサ、ルシア、ギルベルタ、マグダ、ロレッタ、ジネットだ。
座席は、上座のドア側から、マグダ、ギルベルタ、ルシア、テレサ。
下座のドア側から、ロレッタ、ジネット、俺、カンパニュラとなっている。
お子様二人を窓側に座らせる優遇ぶり。
そして、マグダとロレッタが――
「あたし、ドア係やりたいです!」
「……では、ロレッタ、どうぞ中へ」
「って言ってるそばからマグダっちょにドア係取られたです!?」
――とかいってドア真横の席を陣取っていたわけだ。
まぁ、そのおかげというかなんというか……俺の目の前にルシア。
「面白い顔でこちらを向くのではない、カタクチイワシ」
この距離のルシアは、若干胃にもたれるなぁ……
「なぁ、俺の手持ちのルシア、本体に貼り付けたら場に捨てられないかなぁ?」
「私を捨てるなど、とんでもない暴言だぞ、カタクチイワシ!」
ダメかぁ。
残念だなぁ。
「あっ、あがりました!」
そして、ジネットが最後の手札を揃えて一番であがった。
こいつ、引き強ぇなぁ。
最後の手札はエステラか。
贔屓したんじゃねぇの、エステラ?
で、なんとなくジネットが捨てたメンコを見てみると、ベルティーナ、ムム婆さん、エステラだった。
これ絶対、メンコが意思を持ってジネットに集まってきたろ!?
つか、なんでムム婆さんが選抜されてんだよ!?
誰チョイスだ!?
「あがった、私は、友達のジネットに続いて」
普段無欲なヤツから順に上がっていくな。
最下位はルシアとロレッタの一騎打ちだな、こりゃ。
「デリア姉様が揃いました。これであがりです」
「あーしも、おゎり!」
「……余裕の勝利」
何巡かしてカンパニュラ、テレサ、マグダがあがり、次は俺がと意気込んでメンコを引き抜くも――
「またババロレッタかよ!?」
「だから、あたしのメンコがババって決まったわけじゃないですよ!?」
さっき流れていったロレッタがまた戻ってきた。
「ったく、ロレッタはかさばるなぁ」
「なんか、また新しいキャラ付けしようとしてないですか!? あたし、嫌ですよ、かさばるキャラ!?」
……バレたか。
みんなから「カサバッタ」とか呼ばれればいいのに。
「あっ! 揃ったです! やったぁ、あがったです!」
最後に揃ったパウラのメンコを叩きつけるように場に捨てて、ロレッタが両手を上げて喜ぶ。
……お前、パウラの引き強ぇなぁ。
どんだけ好きなんだよ。
「っち……まさかお前と一騎打ちとはな」
「ふん。御託はいい。さっさと取れ」
「お前ぇが取る番なんだよ」
俺の手元にはルシアとロレッタのメンコ。
さぁ、ルシアはどちらを取るか……
……すっ。
「さり気なく片方を持ち上げて取りやすくするでない! うっかり取りそうになったわ!」
ちっ、騙されなかったか、ルシアのくせに。
「他の誰に負けようと、貴様にだけは負けられぬ! 勝利を決めるのは……こちらだ!」
と、ルシアはルシアのメンコを引き抜く。
「よし、あがりだ!」
すぱーん! と、ルシアのメンコが場に捨てられる。
「やっぱりババじゃねぇか、ロレッタ!」
「それは、知らないですよ!? 最初に一枚抜いたのお兄ちゃんですからね!」
俺の手元にはロレッタのメンコが残る。
隠れババは、やはりロレッタだった。
「……ババッタ」
「やめてです! 響きが可愛くないですから、その呼び方!」
ぎゃーぎゃー騒ぐロレッタ。
まったく、お前のせいで負けてしまったではないか。
「……ふん、敗者が」
そして、ルシアのこのドヤ顔である。
お前、ブービーだからな?
下から二番目。
なんでそんな勝ち誇った顔できんの?
「では、三十五区に着いたら、敗者のカタクチイワシにスイーツをご馳走してもらうとするか。なぁ、皆の者」
「ふざけんな」
勝負を始める前に言ってなきゃ無効だ、そんなもんは。
事前に知ってりゃ、絶対に負けないイカサ……テクニックで俺は優勝をもぎ取っていただろう。
「わたしも半分出しますね」
「いいや、ルシアの館に請求書が届くように裏から手を回しておこう」
ジネットが俺を気遣ってそんなことを申し出てくれるが、そもそもルシアに奢ってやる謂れはない。
なぁ~に、相手はエカテリーニだ。
俺とジネットが命じれば、必ずこちら側につく。
メンコと駄菓子と飲食店開店の恩は大きいだろうからな。
ふははは。
そんな思惑を乗せて、馬車は三十五区へと到着した。
ルシアの館に馬車を停め、そのまま全員でベッカー家の近所――駄菓子屋横丁へと歩いて向かった。
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