第五章 死闘
1
皇紀八三六年雨月六日六時00分
ウルグゥ族宿営地
会議の結論が出たのか、俺たちを呼びに来たユハン教授は両手足を縛られ転がされているサノガミの姿に驚き「何が有ったんです!?」
優しい俺は昨日の夜の出来事とサノガミが今までやってきたことの一部始終を説明差し上げた。
「まさか、彼が委員会の手先だったなんて、それもあの助手を接触させるように仕向けたのも・・・・・・。私はとんだ愚か者だ」
いや、そんなこと最初から解ってますけどね。
ともかく信頼していた男に最初から最後まではめられっぱなしだったのを知ったのは、相当に応えたらしくすっかり元気をなくしてしまった。
「彼をどうするつもりです?」
「帝国に連れ帰り、背後関係を吐かすのが筋でしょうが・・・・・・。それより会議の結果、どうなりました?」
はっと我に返り教授は。
「バオボォウは腹を括りましたよ。貴方の提案に乗ることに決めたそうです。早速今から貴方を交えて作戦会議をしたいそうです彼の小屋まで来てください」
長の小屋まで来ると、昨日の夜からの集会に引き続いてだろうか百五十人は優に超える屈強な男達と、いかにも物知りと言った風の年寄りたちが集まっていた。
その中からバオボォウ。
「オタケベさん、ワシら一同、あんたさんの提案に賭けることにした。今からアンタの頭の中にある算段を聞かせてくれんかのぅ」
最初見た時は何とも不味い面の奴等だと思ったが、今、朝の光の中で見るウルグゥの男共の顔は精悍無比、剽悍決死といった具合の、なんとも男ながらに惚れ惚れとする面構えに見えてきたから不思議なもんだ。
こいつらなら、ありとあらゆる障害も困難も踏み倒し叩き壊し前進できるだろう。
そう確信して作戦の全貌を、持参したモワル湖周辺の地図を使って彼らに説明する。
俺の言葉をバオボォウや教授が訳して皆に伝え、皆からの質問はその逆の手順と言う、まぁなんともまどろっこしいやり取りだが、男たちや長老方の呑み込みが早く全員がキッチリ中身を理解してくれた。
一通り話し終わりると、皆の表情は流石に暗く悲壮感が漂い始めたが、無理もねぇ、上手く行っても損耗率は三割、下手すりゃ四割、五割にはなる。それも帝国とのつなぎが上手き池場ってのが大前提だ。
教授が自分の膝に爪を立て、苦しそうにつぶやく。
「すまない、皆をこんな危険な目に遭わせてしまって、すべて私の責任だ。私一人が同盟に投降して済まされるならそうしたい」
そこですかさずドゥジュゥ嬢。その豊満極まるオッパイで包む込むように教授の腕を取ると、潤んだ瞳で彼を見つめ首を横に振り何か囁く。
毎度毎度見せつけてくれるぜ。
なぁ、シスルよ、おめぇも好きな野郎が出来る日が来るだろうから、今のうちにこの子を見て勉強しとけ。
バオボォウが教授を見つめながら言った。
「婿殿、あんたがドゥジュゥを好いてくれて嫁いしたいと思うてくれた日から、アンタとワシらは強い絆で結ばれたんじゃ。何があってもワシらウルグゥはアンタを護る。気にせんでええ」
これが本当の『
あ、そうそう、うちのお嬢にもいってやらねばならないことが有った。
「シスル、今回のお前さんの役割は一等重大だ。ウルグゥ族四百人の命運がその小っちゃい肩に掛かってるって言っても言い過ぎじゃねぇ。それこそ本当に済まないって奴だ。だが、やってくれるか?」
黒曜石の様な鋭い瞳がぎらりと物凄い光を帯び、頬に不敵な笑みを浮かべてこの小さく可憐な女戦士は言う。
「何を言うか
「ああ、羊でも牛でもクジラでも食わせてやる。頼りにしてるぜ相棒」
そして俺は皆を見渡し。
「アンタらの土性骨がガッチリ座ってんのはよっく解った。これならこの作戦は絶対に上手く行く。出発は明後日の朝。それまでに今話した段取りを全部終わらせてくれ」
バオボォウが俺の言葉を訳し皆に伝えると、それぞれ相槌の後みな準備の為に散っていった。シスルも出発の支度の為に先に来客小屋に戻る。
俺とバオボォウ、教授夫婦だけに成ると、不意にバオボォウが。
「最近、同盟の連中がやたらと森に入るようなりましてな。それも薬草や毛皮めあての密売人なんかじゃない。大きな機械やら道具を持った奴等ですじゃ。たぶんこの地下になんかいいものが埋まっとると履んでさがしとるんでしょうのぅ、そのうちこの森も焼かれて丸裸になり、ワシらのような者たちも殺されるか逃げるかせねばならんようになるでしょうなぁ。今回の事も遅いか早いかの話じゃおもいます。婿殿もオタケベさんも、背中を押してくれたみたいなもんですわい」
そんなことはこの南方大陸のあちらこちらで起きてる。
昔は原住民その物が奴隷として赤道洋を越えて連れ去られ、ここ最近では石炭、石油、浮素瓦斯、森林資源、等々を赤道洋を越えて得るために、原住民が邪魔者扱いされて追いやられ殺される。で、それら資源の北方人種同士の奪い合いに成れば、この前の全球大戦の見たいに手先にされてお互いに殺し合いをさせられる。
こんな扱いをいつまでもこいつらが大人しく受けているわけじゃ無いだろう。
そんなどんよりした気持ちになっている所へシスルが戻ってきて開口一発。
「サノガミが逃げた。小屋に居ない」
縛りが甘かったかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます