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聖歴一六三〇年六月五日(皇紀八三六年雨月五日)十五時00分

ロバール川本流付近。 


「やはりこれが最後の様です、同志ツェルガノン」


 ズブロフの苦々し気な報告にマーリェも。


「つまりここで見失った、と言う事ね」


 と梢を見上げる。


「おい!お前ら、何コソコソしてやがる!なんか俺たちに隠し事してやがるな!?」


 以前から委員会側の態度のおかしさに不信感を抱いていたゴルステスは肩を怒らせ二人に近づくと、ズブロフの傍らにいる委員会の要員が見慣れぬ機器を手にしているのを見つけた。


「何だこりゃ?説明してもらおうか?委員会のお嬢ちゃん」


 マーリェは小さなため息を吐くと、要員の手の中の機器を取り上げ。


「いいわ、大尉、説明してあげる」


「よろしいんですか?同志、国家機密ですが」と問うズブロフに。


「状況がこの期に及んでは隠していてもしょうがないし、いずれ同盟加盟国で共有される技術でしょうから、遅いか早いかの問題よ」


 と、機器を地面に向け手元の開閉器スイッチを押す。すると機器からやすりで金属を擦るような音が聞こえて来た。

 マーリェが前に進むと音は次第に大きくなり、有る所まで達すると仕舞には耳障りに感じるまでの音量に。

 

「この機械の先をごらんなさい」


 言われるままに目を凝らすゴルステス。すると深く積もった落ち葉の間に薄ぼんやり緑色に光る針のような落ちているのが見えた。

 拾おうと手を伸ばすと。


「止めたほうが良いわ、その物質からは放射線・・・と呼ばれる目に見えない電波や光の一種が常に出ていて、距離を置いたり鉛の容器に入れている間は危険は無いけど、直接触れたり体内に取り込まれたりすれば、たとえ微量でもその放射線が細胞を破壊し最悪死に至ることあるわ、特に生殖細胞には悪影響が出やすいそうよ」


 慌てて手を引っ込めつつゴルステルは。


「つまり、その針みてぇのが出す放射線とやらをその機械で検知してたって訳か、コイツを等間隔に落としていけば奴等が進んだ方向が判るって寸法だな」

「そう、その通り正解だわ」

「じやぁ、帝国の奴等の中に裏切者を紛れ込ませたってのか?奴等は三人しか居ねぇぞ」

「三人のうち、二人は帝国新領総軍特務機関に所属する軍人と傭員であることは解ってる。残りのもう一人はその彼らが叢林で同行を求めた拓洋大学民族学部の助手よ」

「その助手がお前らの潜り込ませた奴か?」

「ええ、サノガミ・ヨシオキはもう十年近く私たちの為に働いて来た間諜スパイよ」


 ゴルステスは肩を震わせあの耳障りな大笑いを始めた。


「流石、コソコソした真似が大得意な委員会の皆さんだ。しかしどうやら放射線も間諜もネタ切れの様だな?ひょっとしたらバレて消されたかもしれぇなぁ」

 

 これにはズブロフが答えた。


「だとしたら、この辺りに埋められてるでしょうが痕跡はありませんでした。ただかなりの人数がこの辺りでとどまっていた形成を見つけたので。ひょっとしたらここで何者かと合流し移動したとも考えられます。その為に放射性物質を置いていけなかったのではないかと」

「放射性物質の残置が出来ないとなれば、彼は一旦何らかの方法で抜け出して自分が最後に残置した場所に戻って来るかもしれない。ここにしばらく留まるのはどう?」


 マーリェの提案をゴルステスは鼻で笑い。


「そんなチンタラやってる暇はねぇ!残りたかったらオメェらだけで残りな。俺たちは散開して範囲を広げて捜索を続行させてもらうぜ」


 そういうと自分の部下を集め指示を飛ばしたあと密林の中を前進して行った。

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