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 教授とドゥジュゥ嬢は話し合いに参加するというので長の掛け小屋に戻って行き、俺たちは来客用(?)掛け小屋に入ることにする。

 大人四人がゆったり横になれるほどの広さがあり、真ん中には囲炉裏も有る。小さな焚火を熾して灯と暖を取りつつ用意してくれた晩飯を食う事にした。

 芋の粉の練り物は殆ど味が無く、ただしっかり腹は膨れそう。焼き魚の方は脂が乗っててまぁまぁイケた。

 折角のおもてなし料理をブツブツ文句を言いながら何とか食べたサノガミ先生は、揺らめく焚火の炎を見つめながら突然。


「オタケベさん、本当にウルグゥの奴等を亡命させる気ですか?私は無茶だと思いますがね。いっそ教授の事は諦めて、同盟に始末させたらどうです?その方が現実味がありますよ」


 などと結構人でなしな事を言い出した。


「おやおや、冷たいですねぇ先生、仮にもあなたの上役でしょ?それともやっぱり後釜に座りたいですか?」

「それもありますし、正直あいつら四百人を連れて、索敵隊に追われながら密林を彷徨うなんてぞっとしないていうのもあります。けど、一番今の教授の体たらくですよ。助手の女の色香に誑かされて間諜スパイに落ちて挙句の果てには蛮族の長の入り婿ですか。富豪の息子にして名門拓洋大学の教授がここまで醜態をさらすとは、情けないの一言です。教授にはご一族の為、本学の名誉のためにもこの森で消えて頂きたい」 


 と、舌鋒鮮やかに教授をこき下ろすサノガミ先生は実に楽しそうであり、炎に照らされたその顔には実に醜悪な笑みが浮かんでちょっとした物の怪を見てしまった気分だ。

 同じことを思ったのかシスルがボソッとつぶやいた。


「サノガミ、なれは怖いな」


 その一言で我に返った先生は、真顔に戻り。


「兎も角、軍事に関してはシロウトですが、だいぶ投機的作戦だと思いますね。実行は不可能だ」


 そう取り繕う。


「賭けは賭けですが、勝てない賭けじゃないと思いますよ。価値を引き寄せる手管は今考え中です。ところで話は変わるんですが・・・・・・」


 と、俺は話題を変えるふりをして、また新たに閃いた思い付きを先生にぶつけてみた。


「サノガミ先生は、どうして教授を委員会の仕掛けた罠に誘い込んだのは『助手の女』 って、知ってるんですか?」 

「え?」


 と言ったまま凍り付く先生。


「教授が間諜スパイだったことすら憲兵から言われるまで知らなかった筈の貴方が、なんで助手の女がこの件に関与してるることを知ってるんですか?」

「そ、それは、さっき教授が言ったじゃ無いですか」

「教授は女のとは言われましたが助手とは言ってませんでしたが」

「教授に接近できる女と言えば助手とかじゃ無いですか、私の当て推量ですよ」

「なんで助手限定なんです?生徒もいれば華隆街の女たちもいるじゃ無いですか?」

「たまたま頭に浮かんだのが助手で・・・・・・」


 俺は猛然と腕を伸ばしサノガミの胸倉をつかむと思い切り地面に仰向けに押し倒し、馬乗りになった。


「いい加減にしやがれコノ野郎!ネタは上がってんだ!。テメェ、リルシアの活民党が帝国内に作った地下組織に参加した容疑で、一辺憲兵隊のお世話になってるてんだろ?その時はコッテリ絞られて転向したとか言ったみてぇだが、性犯罪と思想犯罪は再犯率が高けぇのは常識なんだよ!さてはその頃から委員会の手先に成りやがったか?」


 そうこうしている間にシスルはサノガミの背嚢の中身を地面にぶちまけていた。回転式拳銃を奪うためだったんだろうが一緒に中から出て来た金属製の筒に興味が湧いたのか手に取って蓋を開けようとしていた。

 それを見た俺は。


「ちょっと待ちな、蓋は開けんなよ。もしそいつの中身が俺が考えてるもんなら、お前、お嫁に行けなくなっちゃうぞ」

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