後日譚

 さて、これで今回の記録の本筋は全て語りつくした。

 ああ、どうせまた”尻切れ蜻蛉トンボで終わらすな!”とか何とか言ってくるんだろうから、先に喋っておくよ。


 例の杉野社長は、俺が真理に渡してやった資料で、ここまでやってきた様々な悪事がばれて、それが元で検察に起訴され、現在裁判中だ。

 彼は与野党併せて複数の大物政治家に”鼻の薬”を嗅がしていたらしいのだが、向こうだってそれがばれるとスキャンダルになりかねないからダンマリを決め込み、誰も助けてくれなかった。

 今はもう、”塀の中”に落ちないために必死になっているらしい。

 一方の”辣腕プロモーター”、磯貝氏だが、これはもう問題にもならない。

 何しろ明らかに”怖いお兄さん”だったんだからな。

 しかし彼も杉野社長同様、狡猾な男だったんで、なかなか尻尾を掴ませなかったが、これで間違いなく喰らい込むことになるだろう。

 警察オマワリよりも俺達探偵が優っている部分があるとすれば、多少危ない橋を渡っても、証拠集めが出来るってところだろうな。


 ええ?

”恋する二人はどうなった”だって?

 焦るなって、これから話してやるよ。

 鍬形龍之介は相変わらず普通に高校に通い、当たり前のようにクラスメート達から”柔道バカ”とからかわれながらも、体育倉庫の片隅で休み時間に練習をし、学校を終えると一目散に家に帰り、道場で祖父や父のご指導の下、稽古に励んでいる。

 そして高三に進級したと同時に、講道館の紅白試合で即日参段を允許された。しかも高校生としては稀中の稀、十二人抜きを達成しての事だったから、普段は柔道なんか鼻もひっかけないスポーツ新聞まで大きく取り上げていた。

 見世物興行に出たとか何とか難癖をつけられそうなもんだが、彼は賞金を受取っていないし、その辺りは鉄之介先生が上手く処理したんだろう。

 特に問題にもされなかったそうだ。

 ああ、どこかで彼の評判を聞きつけた武道好きの連中が、鍬形道場への入門を志願してきたそうだ。

 彼も”仲間が少しでも増えれば、稽古にも身が入ります”と喜んでいた。


 もうひとつあったな。彼の活躍が二・三の格闘技雑誌やらに載ったり、ネットで紹介されたせいか、本格的な総合格闘技の団体から”ウチに参戦しないか”という誘いがきたそうだが、彼はそれらをことごとく断ったらしい。

(”断ったんじゃありません。辞退したんです”と、そこだけひどく強調していたが)

『僕は武道を飯のタネにしてゆくつもりはありませんから』というのがその理由らしい。

 三条奈津美さんについてだが、彼女も卒業後、教師になるための準備に怠りはない。

 その合間に今でも時折渋谷にやってきては、鍬形家に顔を出し、家事などを手伝う傍ら、少しづつ柔道の手ほどきまで受けている。お陰で鉄之介先生、虎之介、春代夫婦にすっかり気に入られてしまった。


 だが、二人の関係は相変わらず、

”清く、正しく、美しく”のままである。

 たまにデートぐらいはしてるみたいだがね。

 

 ああ?

”それじゃ面白くない”って?

 高校生と近々教師になろうという女子大生だぜ。

 一体何を期待していたんだよ。

 

 俺の記録は三流官能小説じゃないんだ。

 そういうのが読みたきゃ、他所にいってくれ。

 じゃ、またいつか。

                     終わり

*)この物語はフィクションです。登場人物その他全ては作者の想像の産物であります。         

 

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年下の好漢(おとこのこ) 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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