13.
思えば私は、ずっと何者かになりたかった。
剣であることが誇りだった、はずなのに、
混乱し、消耗し、窶れはてたその先で、
私を見つけてくれる誰かを待っていた。
私は、無力で、だから、苦しい。
あなたを幸せにしてあげられる私がよかった。
あなたは私を忘れないでくれたのに。
ふっと息を吐く。
知ってしまったから。
私じゃ叶えられないから。
私は、私にしかできないことで、あなたを守りたい。
体が、細くながく、解けていく。
綿菓子の繊維ひとつひとつのように。
意識も細かく千切れていく。
せめて記憶だけはそのまま残ってほしいなと、最後に残った意識で思う。
私はいなくなるだろう。
でも大丈夫。
あなたを守り続ける。
蔦が身体を這い巻き付き呼吸を止める。生命を吸い取っていくつもいくつも花を咲かせる。はじめは小さなカスミソウ。やがて淡色の美しい薔薇。
私は、歌うから。
でもあなたには聞こえない。
信じなくていい。
忘れていいから。
私の歌は、あなたの仲間だけに聞こえる歌。
いつか歌を聞いた誰かがあなたを見つける。
そしてあなたは家族をつくる。
あなたのことを思い、ともに歩み、生きたこと。触れられた頬の温み。撫でた髪の柔らかさ。
私の自我とともに、消えて無くなってしまうのでしょう。
無かったことになるのでしょう。
それは、少し、かなしい。
でも、だから、信じていたい。
私がいない世界で、あなたがちゃんと、幸せになってくれること。
「さようなら」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます