11.
途方もない時間が流れて。
もう何もないと思ったのに。
彼がそこにいた。
なんだ。まだいたのか。
あれ、話すのってどうするのだっけ。
それより、どうして私は光の下にいるのだっけ――。
それよりも、強烈な違和感。
憔悴しきった表情。
彼は一人ぼっちだった。
あらゆることに戸惑っていると、彼が口をひらいた。
聞いたことのない、しゃがれた虚ろな声だった。
お願いだ。
家族が欲しい。
ああ。もう、久しぶりすぎて。言葉が出ない。
なんでそんな声してるんだと、笑いたいのに、涙が止まらない。
昔の私なら、朝飯前だったはずだ。彼をくしゃくしゃの笑顔にするなんて。
こういうとき、どうすればいいんだっけ?
そのあとのことは、よく覚えていない。
ただ、暗闇のほかに地獄があるなら、それだと思った。
◆
私は彼の道具だったし、彼の道具でしかなかった。
彼の願いは、彼の家族を奪った人間の家族を、奪い返すことだった。
それが家族を手に入れることだと信じきっていた。
私は彼の望むままに、身体を振り回し続けた。
彼に従う以外の思考はとっくに欠如していたし、
何より暗闇で願ってしまった後ろめたさがあり、
そして未だに共にいられる喜びが勝っていた。
このまま時間が延々と続き、果ては見えないようだった。
何度血を被っても、錆びることはない。私に終わりはこない。
ただ、酷く、疲れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます