3.

ガキは一人ぼっちだった。逃げてきたと、そう言った。


「行く当てはないのか」

「あるよ。というより、そこに行けって言われて、追い出されたんだ」

「ふーん。大変だね」


人間の事情はよく分からない。


「……てゆうかさ、」


私の手を引いて歩いていたガキが、立ち止まり振り返る。

心なしか息が荒い。


「君、自分で歩けないの?……重いんだけど」


最後の一言に、軽く掌底を食らわす。奴が威勢よく吹っ飛ぶ。


「私は剣だって言っているだろ」

「痛った!剣はそんなことしないでしょ!」

「私の右手は『柄』。ここなら触れても問題ない」

「そういう問題じゃ……」


ガキは一瞬真面目な顔になり、私の左腕に手を伸ばした。


「触るな」

「どうして」

「死ぬぞ」


ガキは不服そうな顔を浮かべる。

この分からず屋。今度からガキじゃなくて、「あほ」と呼ぼうか。


「……しょうがないな」


倒れたままの奴に猫のように四つ足で迫り、息がふれるほど接近する。「左手」をかざし、そっと「あほ」の頬を、撫でた。

切り口から滴になった血が、一筋落ちる。


「これでわかっただろう?」

「……うん」


恐れをなしただろうか。

まあ、この程度で逃げ出すなら、これ以上付き合わなくてよかったと思うべきだ。


だが、「あほ」の次の一言は、想定外だった。


「……きれい」

「……は?」


私の身は鏡面のように、映るものを照らす。「あほ」の白い肌が真っ赤に染まるのを、私はまさにこの身で知った。

それを照らす私自身もまた、燃えるように赤い。


「……何なんだ」


「あほ」がぷいと顔を背け、勝手に歩き出す。


「おい。あほ、止まれ!私を連れていけ!」

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