第19話 サラマンダー救出し隊

「これがサラマンダー‥‥。トカゲみたいだな。」

「んまぁ!確かにねぇ~でも、こんなに大きなサラマンダー僕は見た事ないよぉ。」

「上手くなさそうだな。」

「「食べるの?」か?」

「うえぇ~ネメア君ってばゲテモノ食いぃ~。」

「あぁ?お前だって気が付かなかったら食べるだろうが。」

「食べないよぉ~!綺麗な物しか食べないもん!」

「へぇーへぇー。」


洞窟の奥には、猫と同じぐらいの大きさのトカゲがいた。

俺達を警戒してかこっちを睨んでいる。

少し開けた口からは青白い炎がチラチラ見えてる。

どうやら、サラマンダーは怪我をしているみたいで赤黒い血が流れている。

サラマンダーに近くには洞窟の水が溜まっているな

…なるほどその水を飲んで生き延びてたのか…。


「ねぇ~この子が原因かなぁ?」

「どうだろう?俺達には分からないな。アスクレピオス様に聞いてみるか?」

「うえぇ~…またあのジジィに連絡とるのぉ?」

「俺達じゃ判断できないだろ?」

「んん~しょうがないな…あのジジィが自分でこれば、僕達がこんなに苦労することなんてなかったのに…。」

「しょうがないだろ?アスクレピオス様も忙しいんだから‥‥多分。」

「いやっ…違うでしょ…面倒だっただけじゃないのぉ~。」

「面倒に1票。」

「僕も1票!」

「俺も‥‥。」


アースは渋々ながらアスクレピオスに連絡を取ってくれた。

「んもぉしょうがないなぁ…。ほいっと!お~い!じじぃ!」

「‥…。」

「あれっ?居ないのか?」

「なんでいないのさぁ!僕が話しかけてあげてるのにぃ!もぉ!」

「寝てるんじゃねぇーか?」

「まだ昼じゃん!」

「昼でも寝るだろう普通。」

「それはネメア君だけでしょ!もうぉ!出てよ、これ結構力使うんだから!」


ガサッゴソッ‥‥。


「んよしょ…おぉーお前さんらか。すまんすまん!少し外に出てたんじゃして?

なにか分かったかぁ?」

「分かったから連絡してるんでしょぉ!早く出てよね!」

「謝っておるじゃろ…全く今時の子は気が短いのぉ~。」

「はぁ?」

「アース‥落ち着いてくれ。話が進まない。」

アースは「気が短い」のフレーズが気に入らなかったみたいだ。

けど、このままじゃ話が進まない。

とりあえず、アースには落ち着いてもらって進めないと。

奇病に罹った人達も洞窟の中のサラマンダーも気になる。


「で?どうじゃった?」

「はい。洞窟の奥には火の精霊サラマンダーが居ました。」

「サラマンダー?普通の洞窟にか?」

「はい。怪我をしているみたいで…洞窟の中が血で汚れていました。」

「おかしい…サラマンダーは火の近くで生息しているか、宿主の側にいるしか生きて行けないんじゃがな…。ジュゼンネ殿に聞いてみてはくれんか?心当たりがあるかどうか。」

「分かりました。やっぱりそのサラマンダーが原因ですか?」

「そうじゃろな…そのサラマンダーは怪我をしているんじゃろ?」

「はい。」

「なら、その血が魔女の谷の霊脈と反応している可能性があるの。」

「じゃあ、そのサラマンダーを捕まえるんですね?」

「そうじゃな…それが一番早いの‥…。」

「分かりました。ジュゼンネさんに聞いてみて、捕まえてみます。」

「まぁ‥‥お前さんなら大丈夫だろぉ…とりあえず精霊には傷をつけてはならんぞ?」

「はい。」


「やっぱり、あのサラマンダーが原因なのか…。」

「そうみたいだねぇ~。でも、どうやって捕まえるのペル君?」

「‥‥…。」

「「そんな目で見るな。」いでよぉ~。」

「ごめんでも…俺、生き物が苦手で…。」

「以外だねぇ~。」

「お前なら捕まえそうなのにな。」

「うっ…。」


叔母さんの家に居た頃、俺の居場所は馬小屋か外だった。

虫とか小さい動物とかは身近な存在だ。

人間よりもずっと…。

特に犬とか猫は、小さいのに俺よりも体温が高くて温かかった。

撫でれば落ち着くし、一緒に居れば時間を忘れられた。

けど、人間がいれば一定数はいる。

「動物を殺す奴」

昨日まで一緒に居た犬も猫も‥‥。

次の日になれば無残な姿で横たわっている。

俺には何でこんな事するのか分からなかった…。

犯人が誰かも理由も分からなかったけど…。

叔母さんには「お前が犯人だ」って言われた日から動物を触ることを辞めた。

俺の側に居たら、動物が殺されてしまうかも知れない…。

だから俺は生き物が苦手だ。

「ネメア・アース頼んでもいいか?」

「うん。分かった。」

「あぁ…。」

二人の事だろ…俺が話さなくてもきっと聞こえてる。

俺はあの時の犬を助けられなかった…。

次は助けたい。


「よしぃ!もう一度、洞窟に入ろうかぁ~。」

「あぁ、ジュゼンネさんに聞かなくていいのか?」

「めんどくせぇ…こっちの方がちけぇーだろ。」

「そうだねぇ~!先に捕まえちゃえばいいよねぇ~!」

めんどくさがり屋な2人の意見で俺達はもう一度洞窟に入った。

サラマンダーはさっきと同じ場所に蹲っている。

小さな鋭爪を岩に擦り付けて俺達を威嚇してく様子は、怯えていみたいだ。

「あのさ…2人はどうやって捕まえるつもりなんだ?」

「あぁ?こんな小動物にもなりゃしない奴…俺にかかれば一発だ。」

「「えっ?」」

「なにするつもりなのぉ?」

「黙って見てろ。小動物共。」


そう言って腰を低く保って唸り声を上げはじめた。

ネメアの髪が浮いてきて俺には分からない何かの力が発動しているみたい。

俺がぼぉーっと見ていたら、アースに後ろに引っ張られた。

「ペル君危ないよ!」

「あぁ…ありがとう…ネメアは何をしているんだ?」

「あれはねぇ~。集中力を高めているんだよ。野獣が獲物を捕まえる時みたいに…。その証拠に、ほらっ!サラマンダーも臨戦態勢に入ってる。」

そう言われ、サラマンダーの方を見ると。

サラマンダーの体は、赤と青の光がまだら模様に光っていた。

口からは青い火が大量に吐き出されていて、周りの岩を焼いている。

確かに‥‥これは近くにいたら危ないな…。

ネメアはどうするつもりなんだ…。

その時、洞窟の中に音が響いた。

「うわっ!なんだこれ?」

「わっわかんないぃ!ネメア君これは?」

「はっ!小賢しい奴め…。」

ネメアは、そう言って俺達の目の前から消えた。

いやっ…消えた訳じゃなくて一瞬にしてサラマンダーの上に乗りかかっていた。


「うえぇ?何がどうなったんだ?」

「僕にもわかんなぃ~…でも、捕まえたみたいだよぉ?」

「あぁ…。」

ネメアに捕まえられたサラマンダーは、ネメアの下でもがいていた。

さっき超音波みたいな音はサラマンダーが出していたのか…。

今のサラマンダーは、小さくか細い声で鳴いている。

「よぉ~し!捕まえたぁ~!ジュゼンネさんの元に連れて行こうかぁ!」

「あぁ‥。」

ネメアは。サラマンダー前足と後ろ足を持って捕まえている。

チラッと見えたサラマンダーの腹には、深そうな傷が見えた。

「‥…。」

「どうした、ペル」

「あのさ…もう少し優しく持ってあげたらどうかと思って…。」

「あぁ?そんな事したら逃げるだろ?」

「でも、怪我してるし大丈夫じゃないか?」

苦しそうに見える…。

俺は、ネメアが捕まえてるサラマンダーに近づいて頭を撫でてみた。

始めは睨まれていたけど、撫でる度にその目が優しくなっていく。


「大丈夫じゃないのか?ちょっと、離してやっても‥‥。」

「えぇ!いいな!ペル君、撫でられるなんて!僕も触って見よぉ~お!」

アースがそう言って手を伸ばすと。

がぶぅ!

「いったぁ~い!噛んだ!何こいつ!この僕を噛んだ!ネメア君、離しちゃダメ!こんな狂暴な奴!」

「お前は嫌われているだけじゃないのか?」

「はんっ!こんなは虫類に嫌われても別に何とも思わないもん!ふんっ!」

「おいっ…ペル。」

「?」

「お前がこいつを持ってろ。」

ネメアは、そう言ってサラマンダーを俺に押し付けてきた。

さっき触った時と同じ。

スベスベした感覚が俺の胸元に押し付けられる。

猫と同じ大きさなのに、猫よりもずっとヒンヤリしていて気持ちがいい。

怪我をしているせいなのか、サラマンダーの呼吸が荒い気がする。

このままだとこのサラマンダーは死んでしまうんじゃなか?


「このサラマンダー…息が荒い…このままで大丈夫なのか?」

「んん?‥‥わかんないけど…僕のネクタル飲ませてみようかぁ!」

「あぁ。」

アースが水瓶からネクタルを掬ってサラマンダーに与えてくれた。

俺は、サラマンダーを抱いたままその体を支えた。

ネクタルを飲んだ瞬間から、荒かった息がゆっくりになった。

「んん~!さすがネクタル!何でも効くねぇ~。」

「神の眷属に当たる精霊だ。効かないわけないだろが。」

「そうなのか?」

「うん!僕達にも効くといえば効くんだけど…なんだかんだ言っても元は人間だったり化け物だったりするかねぁ~。聖なる物が効かない事もあるんだよ!ねぇ~ネメア君。」

「うるせぇ~。とりあえず外出るぞ。いつまでこんな日の当たらない場所に居なきゃ行けねーんだ。」

「あぁ…そうだな。こいつも落ち着いたみたいだし…。」

俺達は、洞窟を後にすることにした。


「やぁ~疲れたねぇ~!」

「なんもしてねーだろぉが。」

「したよぉ!サラマンダーにネクタルあげたじゃん!」

「それだけだろが…。」

「なにさ!サラマンダー捕まえたって自慢したいのぉ?やだやだ!」

「そんな事、一言も言ってねーだろが。」

「ふぅ~んへぇ~え?」

「ちっ!」

「2人共、怪我人が居るんだぞ!」

「たかがは虫類だろが。」

「そうだ!そうだ!」

「なんで、そんな所だけ同調するんだよ…。」

俺達はいつも通りに洞窟を出た。


「ふぉふぉ!元気じゃのお前さんらは。」

「アッアスクレピオス様‥‥。」

「じじぃ。」

「あっ!僕らを扱き使ったじじぃ!」

「‥‥お前さんらちっとは統一したらどうじゃ?」


洞窟の前には、アスクレピオス様とジュゼンネさんが待ち構えていた。

なんで、こんな所に…。

俺達は折角救出したサラマンダーはどうなるんだ?

ニヤリと笑う2人は不気味に見えるのは俺だけなのか?

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