第18話 洞窟の主

「はぁ~あっ!良く寝たぁ~!こんなにフカフカなベッドに寝たの久しぶりぃ~。」

「あぁ…ふぁ~ぁ…。」

「2人共おはよう。」

「おはようペル君!」

「あぁ…。」

「なんだか、ゆっくり寝るのも久しぶりだな。」

「うん!朝ごはんなんだろぉねぇ~!」


昨日、ジュゼンネさんに案内された宿は、国外のお客を泊める所らしくて、内装は綺麗だし晩御飯も美味しかった。

部屋には、風呂が付いていて、至れり尽くせりっ感じだ。

「こんなに贅沢な宿だなんてラッキーだよねぇ~。」

「確かに!」

「何言ってんだお前ら、こんだけ持て成されたらキッチリ返さないといけねー。」

「分かってるもん!もぉ~、楽しい気持ちぶち壊さないでよぉ!」

「旅行気分じゃねぇーって言ってんだ。」

「分かってますぅ~。」

「はっ!」「いーだっ!」

「朝から元気だな…。」


俺らは、朝食を食べて早速、ジュゼンネさんが待つ観光案内所に向かった。

ちなみに、朝食はホットサンドとクプリスという野菜を使ったスープ。

ホットサンドには、分厚い肉が入っていてビックリした。

ネメアは、料理が気に入ったみたいで、レシピをメモしてたし、アースはスープが美味しかったみたいでおかわりしてた。

「お腹もいっぱいになったし…行こっかぁ!」

「そうだな。宿と飯分は働かないとな。」

「そーそー!ネメア君もちゃんと、働いてよ!」

「あぁ?お前が言うな。」

「なんだとぉ!僕は、ちゃんとやりますぅ~。」

「お主らは、朝から元気じゃの…。」


俺達が喧嘩している間に、どうやら観光案内所に着いたみたいだ。

俺達がというよりは、アースとネメアだけど。

どうやら、朝早いから俺達の声が、街に響いていたみたいだな。

ちょっと、恥ずかしいけど、大声の2人は気にする素振りなんてないから凄い。


「じゃあ案内する。」

「はーいっ!そこって、昨日言ってた患者さんがいる場所?」

「そうじゃ…皆、辛そうにしてる。間違っても騒ぐでないぞ。」

そう言って、ジュゼンネさんは俺達をギロッと睨んだ。

まぁ…朝からこれだけ騒いでいればそう思うだろうな‥。

アースとネメアは、気にも留めてないみたいだ。

…おっ‥怒られないかな‥。


ジュゼンネさんに案内されたのは、白い建物だった。

俺がいた町には病院がなかったから、街にある病院ってこんな感じなんだ。

白くて、清潔そうで‥‥それでいて…くっ‥臭い。

「ジュ‥ジュゼンネさん…ここって…。」

「ここは、元々国外に売る薬を作る場所じゃ。今は、ここの倉庫を患者の寝場所として使っておる。」

「へぇ~…で、こんなに臭いの?」

「まぁ‥そうじゃの、魔女にとってはこれくらいなんともない匂いじゃ…獅子の…入れるか?」

「無理に決まってるだろ…。」

ジュゼンネさんが話し掛けたネメアは、鼻を摘みながらしゃがんでいた。

俺達で、こんなに臭いのに…。

ネメアには、きついだろう。

「ネメア…外で待ってるか?」

「‥…行く。」

「ネメア君…じゃあ、鼻摘んでたら失礼じゃないぃ?」

「!」

「アッアース!」

「くっ…行くぞ。‥‥アースてめぇ覚えてろよ。」

そう言って、ネメアは、ジュゼンネさんの後ろに着いていった。


建物に入ると、ベッドが20台くらい並べてあって、人が寝ていた。

苦しそうに喘ぐ声と咳の音。

魔女のローブなのか、黒い服から見える白い腕がだらりと垂れさがっている。

俺達は、その光景を見た瞬間、お茶らけた雰囲気も匂いを気にしている余裕もなくなった。

「ジュゼンネさん…これって…。」

「これが、この街を侵食しようとしている奇病じゃ。」

「患者さんは、これだけなの?」

「いやっ、違うもっとおる。だが、魔女は人の世話になるのを嫌がる者が多い。多くの者は家へ帰って耐えておる。」

「あの…患者さんとお話してもいいですか?」

「あぁ…。」


俺達は、患者の1人に近づいて、話しかけようとした。

どう接していいのか…。

大丈夫ですか?って聞くか?

いやっ‥どう見ても大丈夫じゃない…。

どうやって声を掛ければ…。


スッ。

「マダム。手を失礼。」

「ゴホッ!‥おんやぁ?お前さん…たしか、獅子の君じゃないかえ?こんな、老いぼれになんのようかえ?」

「俺を知って頂いて嬉しいです。俺達は、マダムがかかっている奇病を調べにきました。もし、良ければこの状態になった時の事を教えて頂けませんか?」

「ほぉ…お前さんは変わった獅子さねぇ。わしがこんな有様になったのは‥‥そうさね、10日前からかねぇ~。その日から段々と力が湧かんくなってきた。それから‥‥熱と咳が出て来て…立っているのも辛いのなんの…。こんな感じでええかえ?」

「ええっ。もちろんです。俺達がこの奇病の原因を突き止めますから、どうかゆっくりと寝ていてください。」

「ほほほっ‥ありがたいねぇ。」

「では、おやすみなさい。」

そうネメアが言うと、魔女はゆっくりと目を閉じて寝始めた。


「ネメア‥‥その、ありがとう。」

「あぁ?なに言ってんだ、何も聞き出せなかった。手分けして聞き出すぞ。ほらっ!お前らも聞いてこい。」

「はいは~い!」「あぁ、やってみる。」

俺達は、手分けして患者さんに話を聞いた。

話すのも辛そうなのに、皆丁寧に答えてくれた。

「で、ペル君達が聞いた話はどんなのだったのぉ?」

「そうだな、大体は3か月前から奇病を発症した人が多いみたいだ。」

「僕の所もそんな感じ!あと、人によっては井戸水?の味が変だったって言ってた。」

「俺が聞いた話だと、森の奥にある洞窟に行った時に採取した草を煎じたら、奇病に掛かったっていってたな…。」

「んん~…井戸水と草と洞窟?…なんとなく繋がりそうだけどな…。」

「あっ、ジュゼンネさん、3か月前くらいって何かありましたか?」

「3か月前か…どうじゃったか‥確か、どっかの家が鍋を爆発さしたくらいじゃな‥。」

「「「鍋が爆発。」」」

「犯人は、お前だアース。」

「なんでだよぉ!なんで僕が犯人なのさぁ!ネメア君だって鍋くらい爆発させたことあるでしょ!」

「ねーよ。」

「嘘だ!じゃあ、ペル君はあるでしょ?」

「ないな…。とっとりあえず、アスクレピオス様に相談してみないか?」

「うぇ~…あのジジィにぃ~。」

「俺達じゃ、判断できない。」

「そりゃそうだけどさぁ~。」

「早くやれ。患者の容態が悪化するぞ。」

「むぅ~!しょうがないなぁ!」


俺達だけで考えても答えなんてでない。

ここは、専門家の意見を聞くべきだ。

アースは、自前の水瓶をどこからか取り出して、手をかざす。

俺には何をしてるのか、分からないけどアースの手から緑色の風が小さく渦巻いているように見える。

「ジジィ~!起きろぉ!」

バタンッ!ドタッ…。

「うるさいぉ~。朝からなんじゃ。」

「あっ!ジジィ、僕達を落としたくせに、こんな時間まで寝てるとはいい身分だなぁ~!」

「いい身分も何も、わしは神様じゃぞ?」

「そんなこったぁ、どうでもいい。魔女の谷で調べた事いうぞ。」

「かぁ~!今時の若者は、年寄りを労わる気持ちがないのぉ~。」

「「うっせぇ」」

アースとネメアが、調べた内容をアスクレピオスに伝えてくれた。

アスクレピオスは、寝起きの様で水玉のパジャマがダサく見えた。


「なるほどの…お前さんら、その洞窟を調べてきてくれんか?何か、あるかも知れんのぉ。それと、魔女の谷に住む者に伝えよ。生水を口にするでないと。」

「へっ!まだ、調べるのぉ~!」

「んじゃ!頼んだぞぉ~。」

ブツッ

「あっ!あのジジィ、ガチャ切りしやがった…悔しぃ~!」

「まーまーっ。アース、何か分かるかもしれないし行ってみようよ。」

「そうだな、ここで喚いていても仕方ない。行くか。」

「ちょっ!2人して聞き分け良すぎだよぉ~!」

「お前が悪すぎなんだ。行くぞ。」

「ジュゼンネさん、その皆が言ってる洞窟ってどこにありますか?」

「あぁ、こっちだ。」


俺達は、ジュゼンネさんに案内され、例の洞窟の前まできた。

洞窟は意外に小さくて、ネメアが入れるんだろうか?

「じゃあ、入るか。」

「そうだな。」

「ちょっと!2人共もうちょっと、躊躇ってよぉ~!怖くないのぉ?怖いよねぇ!」

「チッ」

「うわっ!ちょっと、ネメア君押さないでよぉ!えっ!もしかして僕が一番前!?嫌っ嫌っ!うわぁ~!」

「じゃあ、ジュゼンネさん俺達行ってきます。」

「あぁ、分かったが…良いのかアクエリアスは?」

「いつもの事なんで、大丈夫です。」

こうして、俺達は洞窟の中へ進んで行った。

一番前には、アース、次にネメア、最後に俺。

俺とアースが少し屈んで、入れる洞窟の入り口をネメアは、四つん這いになってた。

洞窟内は意外に広くて、立って歩けるのがよかった。


「うわぁ~!意外に広いねぇ~。」

「そうだな、ネメア大丈夫か?」

「あぁ…服が汚れた。」

「ねぇ~この奥になんかいるのかなぁ~?怖くなぁ~い?」

「怖がっててもしゃーねーだろ。」

奥へ進んでいくと、なんだか焦げ臭いに匂いと水っぽい匂いが漂っている。

「なんだろ?俺達の持ってる松明の匂いじゃないよな…。」

「うん。もっと、強い匂いじゃない?」

「あいつの匂いだろ。」

「「えっ?」」

ネメアが指をさしている方には、黒と赤の色したい生き物が蹲っていた。

「あれは…?」

近づくと…。

「トカゲ…にしてはデカいな…。」

「トカゲじゃないよぉ~。あれは、サラマンダー。」

「サラマンダー?」

「あぁ、火を司る精霊にして、その体液は神をも苦しめる毒を持っている。」

「精霊…。これが…洞窟の主…サラマンダー。」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る