第16話 魔女の谷ってどんな谷?
苦しい…。
息が出来ない…。
助けて‥‥アース‥ネメア…。
「…く‥‥ペ‥‥ペル君!!」
「はっ!」
「…あれ?ここは?」
「ペル君、良かった!息してなかったから‥‥本当によかったぁ~…。全くあのじじぃめ!」
「アース‥‥ごめん心配かけて‥俺、泳げなかったみたいだな…泳げると思ってたんだけどな…。」
「ううん!あの、じじぃがいきなり、僕たちを突き落としたのが悪いんだよぉ!僕も、ペル君も誰も悪くないよ!」
「ふっ…そうだな。」
「えぇ~?なにぃ?なんで、笑ったのぉ~?」
「なんだか…アースらしくて…。」
「んん~?そう?」
「あぁ。アースらしい。それはそうと、ネメアは?」
「それがね!起きたら僕たち2人で‥‥どうしよう…ネメア君、あの汚ったない池の中で引っ掛かってたらどうしよう!」
「ネメアに限って、それは‥‥ないんじゃないか?」
「いやっ!でも、ネメア君が、池に引っ掛ってたら…ちょっと、面白いよね。」
「誰が、面白いって?」
「ネメア。良かった。どこに行ったのかと…。」
「俺は、池の中で、溺れてたお前らを、引き上げてやったんだがな。」
「そうか!やっぱり、俺は溺れてたのか…。ごめん。ありがとう。」
「あぁ…。大丈夫だ。どっかの誰かと違って、暴れなかったから。」
「えぇ~?誰のこと?」
「お前のことだ。普段、水を操っているくせに…。」
「なっ!僕は、水より、風を司ってるのぉ!水じゃないやい!」
「知らねーよ。」
「それより…ここどこだ?」
アスクレピオスに突き落とされた池から、出てきた俺たちの周りは、暗くてジメジメした森だった。
アルテミスと女神達が居た森とは、違ってもっと陰気で、ひと呼吸空気を吸うごとに、湿った匂いが鼻に入ってくる。
木々の間からは、陽の光は入って来なくて、足元がぬかるんでいる。
ここが…魔女の谷なのか?
「なぁにぃ~ここ…なんで、こんなに陰気臭いのぉ~。暗すぎて、向こうが見えないよ。」
「森の中を見て来たんだが…。暗いわ、歩きにくいわ…。特に、髪に絡みつく湿気が気持ち悪い…。」
「道とかは、近くにないのか?」
「道?‥それは、無かったと思う。でも、向こうの方に微かに光が見える。もしかしたら、人がいるかもしれないな‥‥。」
「光?じゃあ、そっちに行こうよぉ!僕こんな暗い所に居たくないよぉ!」
「そうだな。こんな、所に居ても埒が明かないし…。ネメア先導を頼んでもいいか?」
「あぁ。お前らじゃ、見えないだろうから。ついてこい。」
俺たち3人は、暗くてジメジメした森を抜けるべく、前に進んだ。
そういえば、アスクレピオスに落とされたのは池なのに、俺たちはどこから出て来たんだ?
ネメアは、溺れていた俺たちを助けてくれたみたいだけれども‥‥?
後で、ネメアに聞いてみよう。
「おいっ…。」
「へっ!なぁにぃ?」
「離せ。」
「なんでさぁ~。」
「俺にくっつくな。ペルにくっつけ。」
「ネメア、残念だな。もうアースは俺の腕にもしがみ付いてる。」
「なっ!お前、俺たち2人共にくっついていたのか!邪魔だ。離れろ。」
「いっ嫌だよぉ!だって、僕怖いんだもん!2人とも僕の、手を離さないでよぉ!」
「なんでだよ!ペルだけで良いだろが。」
「両手とも何かを掴んどかないと…不安なのぉ!」
どうやら、ペルは俺とネメアの腕を掴んでいるらしい。
暗くて、見えないけれども…。
「だから、ペルだけで良いだろうが。」
「なんでぇ、そんなに嫌がるんだよぉ~。いいじゃんかぁ~。友達じゃんかぁ~。」
「ペル。ほらっ!なんとなく、光が見えてこないか?きっと、もうすぐ着くって。」
「ほんとぉ~?」
「あぁ、ほんとだ。なぁ、ネメア。」
「ほんと、ほんと。」
「絶対嘘じゃん~。ネメア君、棒読みだし、僕には光なんて見えないし…。ごぁいよぉぉぉ。」
「うるせぇ…腕、振り払うぞ。」
「嫌だぁよぉ~。ネメアくぅんんん!」
「うるせっってんだろうが!」
「あっ。見えてきた。」
「えっ‥?わぁ!本当だぁ!すごぉぉぉいぃ!見えたぁ!!」
ダダダッ!
「‥‥なんだ。あいつ。光が見えた途端、手ぇ離しやがって…たくっ…。」
「ネメアは、なんだかんだ言ってもアースに、甘いな。」
「あぁ?‥‥ふっ、そうかもな。」
「2人ともぉ!早く!なんか家ぽいのがあるよぉ!」
「今、行く!」「お前が、勝手に走っただけだろうが。」
やっと、俺たちは、陰気な森から抜け出せた。
森を抜けると、俺には見慣れた家並みがあった。
レンガで作られた家に、少し高めの煙突。
家の前には、逆さに吊ってある草と花。
各家に、井戸があるらしい。
これで、魚が干しってあったら俺が居た町と一緒だ。
違うのは、匂いだけ。
ジュゼンネから匂ってきた薬草の匂いが町中にする。
毎日この匂いを嗅いでいたら、鼻が馬鹿にならないのだろうか?
「うわぁ~!ここが、魔女の谷なのかなぁ~?すっごい地味だねぇ~。」
「そうか?俺には、結構見慣れた風景だけどな‥。」
「そうなのぉ?」
「あぁ。そうだな。俺が住んでた所に、少し雰囲気が似ているな。俺が、住んでいた所は、海が近かったけどな。」
「ふぇ~。とりあえず、村の人に会わないとだねぇ~。」
「そうだな。」
「そうだねぇ~。…ところで、ネメア君、何してるの?」
「うるせっ。」
「なんで、鼻摘んでるのぉ?」
「はぁ?お前らには、この臭さが分からないのか?」
「「?」」
「確かに…匂うけど…そこまでか?」
「慣れれば、そこまでじゃないよねぇ~。」
「嘘だろ…。お前らの鼻は、機能してないのか?」
「失礼なぁ!ちゃんと、動いてるよ!」
「あぁ…くっせいな‥。家と言う家から匂ってやがる…。」
俺と、アースには、匂うけれども慣れてきたみたいだ。
ネメアにはまだ強いようで、ライオンの姿に変身できると、やっぱり鼻もいいんだろうか‥。
「ねぇーねぇー!こんな所で、止まっていても仕方ないってぇ!ジュゼンネさん探しに行こうよぉ!ほぉらぁ!」
「たっく…森を抜けてから元気になりやがって…˝あ˝ぁ‥くっせーな。」
「ネメア、この布を鼻に当てたらどうだ?」
そう言って俺は、持っていたリュックの中から、適当な布を出す。
この布には、ネメアが作ってくれたパンが包まれていた。
パンの匂いで、薬草の匂いが誤魔化せるかもしれない。
「あぁ…ありがたい。」
こうして俺たちは、何とかジュゼンネさんを探すため、魔女の谷を歩き始めた。
懐かしいような…。
知らない所のような‥…。
魔女の谷ってこんな谷なのか。
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