第15話 移動は手っ取り早く
「えっ…ここって、僕が、洗濯物を干した場所じゃない…かなぁ?」
俺たちは、アスクレピオスに連れられ、館の屋上に連れて来られた。
さっきまで、暖かい風呂と温かい飯で、ホカホカしていた体が、急に冷たい風が吹く屋上で冷やされる。
オリンポスの世界も、夜になると温度が下がるみたいだ。
でも、叔母さんの家で過ごした夜なんかよりも、ずっと暖かい。
そう思って、思考を現実から反らす。
屋上には、アスクレピオス・エピオネさんと俺たち3人。
(パナケイアさんは、後片付け)
さっきから叫んでいるアースの声で、ずっと耳鳴りがする。
今日1日で、どれだけ叫ぶんだって言うくらいアースは、絶叫してる。
「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだよぉ~…。次は、何さ!僕に何させるのさぁ!」
しゃがみ込んで、耳を塞ぐアースを横目に、どうする事も出来ない俺とネメア。
ネメアは、いつもの事ながら無視を決め込んでいるようで、毛先を弄んでいる。
俺もさっきまでの温かさを思い出して、もう2度と経験出来ない事かも知れないと噛み締めていた。
「お前さんら‥‥揃いも揃って現実を見ない主義かぁ?ほれっ、さっさと準備せんか。」
「準備?なにすんだじじぃ。」
「お前さん達が持ってきたさっきの手紙の返信を書いた。この手紙を書いた魔女に渡してくれ。その奇病について、わしも気になる事が多い‥お前さんら…ちっと調べてきてくれんか?」
「はぁ?なに言ってんのぉ?このじじぃ。なんで、僕たちが行かなきゃいけないのさぁ!」
「そうだ。なんで、俺たちが調べに行くんだ。治療費は、きちんと払っただろが。」
「往生際がわるいのぉ‥‥。魔女の谷なんぞ、普通の者が普段入らん場所じゃ。貴重な経験と思って行ってくれんかの~。」
アースとネメアは、まだ納得してないみたいだ。
「あの…俺1人で行ってきますよ。自分が貸して貰っていたベッド代ですし‥‥。」
「「……。」」
「おぉ~さすが、ペルじゃのぉ~。物の道理が良くわかっておる。しかしなぁ~…お前さん1人を魔女に谷に行かせるのはのぉ~。」
アスクレピオスは、頭の後ろで手を組んで、目線だけを2人に向けていた。
「……˝あ˝ぁ!行けばいんだろうが。」
「えっ!ネメア君行くの?」
「じゃあ、お前は、ペル1人に行かせられるのか?」
「行かせられ訳ないじゃん!ねぇー行かない方向は無いのぉ!」
「アース…ごめん。俺は、行かない訳にはいかない。俺が借りてた物だし。」
「そんなぁ~ペル君気にしすぎだよぉ!このじじぃは、僕たちに嫌がらせがしたいだけだってぇ!」
「失礼なガキじゃの。」
「借りもあるけども…俺は、ジュゼンネさんの事も気になる…。」
「そっ…そんなぁ~。」
俺の言葉を聞いて、アースはペタンと音を立てて崩れ落ちた。
アースには、本当に申し訳ないと思う。
けれども、助けてを求めていたジュゼンネさんの顔を思いだす。
「ごめんな。アース。俺は、行ってくるよ。」
座っているアースの頭に手を当てて、謝る。
「んじゃあ、お前さんら、2人で良いのか?」
「あぁ。」「はい。」
「僕も行く!僕だけ、置いて行かないでぇ…。」
アースの目には、少し涙が溜まっていた。
「僕‥‥1人でなんて家に帰れないよぉ…。それに、僕だってジュゼンネさんの事気になるもん。だから…僕も行く!ペル君とジュゼンネさんの為に!じじぃの頼みって言うのは、嫌だけど…2人の為に行くんだからなぁ!」
「あぁ…ありがとうアース。」
「泣くな。みっともない。」
「なっ!泣いてなんてないよぉ!例え、僕が泣いていたとしても僕の美しさは変わらないよぉ!」
「はいはい。」
「お前さんらは、本当にうるさいのぉ。」
「なんだと、じじぃ。」
「もとは、お前のせいだぞ!じじぃ!」
やっぱり、3人で行くのが、俺的にしっくりくる。
なんだかんだで、頼りになる2人だ。
「そうと決まれば、早速じゃな。ほれっここに入れ。」
「「「えっ…。」」」
なんやかんやで、纏まりかけていた俺たちの気持ちは、消えていく。
「えっ…まって!まって!この汚いドブに入れって言ったのぉ?今?」
「今じゃな。ほれっ。」
俺たちの目の前には、枯葉やゴミが浮いている池がある。
茶色い池は、少し近くと鼻につく異臭がする。
「アスクレピオス様。これは?」
「この池は、ガニュメデスの水瓶と同じじゃな。お前さんの水瓶の倍以上の大きさではあるがの。」
「はぁ?僕の水瓶と同じだって?こんな…こんな汚ったないドブと同じにしないでよぉ!」
「全く同じとは、言っておらん。同じ役割が出来る池じゃ。お前さんに水瓶は、その瓶と同じくらいの大きさの物を違う場所に移転できるじゃろ?この池も同じじゃ。人型の大きさの物なら、移転出来る。この池があれば、魔女の谷に移転出来る。移動は手っ取り早くじゃ!」
俺とネメアは、言葉が出ない。
アースは、顔を青くしてる。
これから起きるであろうことが、容易に想像が出来た。
「まっ!そういう事じゃ。じゃぁ!頼んだの。」
そう言って、アスクレピオスはアースの背中を押した。
俺たちは、あっけに取られていて、防御が出来なかった。
「ふぇ?やっ…やっだぁーー!」
そう言って、アースはネメアの服の袖を掴んだ。
「なっ!おいっ…離っ‥‥うわっ!」
突然の事で、ネメアも体制を崩す。
まるで、スローモーションの様に目の前のアースとネメアが、汚い池に落ちていく。
「そうれぇ!お前さんら頼んだぞぉ!」
2人に手を伸ばしていた俺の後ろから、アスクレピオスの声が聞こえた。
背中に強い衝撃が走る。その瞬間、俺の視界は、茶色に染まっていた。
(あれっ…俺って泳げたんだっけ?アース…ネメア…どこだ?だいじょ…ぶか?‥‥。)
俺の意識は、そこで途切れた。
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