第14話 2つのメッセージ

「「「ごちそうさまでした。」」」

「アスクレピオス様・エピオネさんそれに、パナケイアさん。温か風呂とご飯をありがとうございます。体の中から、ポカポカしてこんなに満たされた気分になるのは、初めてです。」

「美味しかったぁー!エピオネさん!パナケイアちゃんありがとうねぇ~。」

「2人も世話になった。」

「・・・後の2人は、わしの礼はないのかのぉ。」

「「ない。」しぃ~。」

・・・・。

俺が寝ていた間に、仕事以外に何かあったのか?

2人の顔を覗き込んだ。

アースもネメアも、料理に満足した顔をしてるだけで、よくわからない。

「あっ!2人もあの手紙渡した?」

「そんなんあったっけぇ~?」

「忘れてたな。」

本気で、2人は忘れていたみたいだな・・・。2人らしい。

「ん?手紙とな?誰からじゃろ?あの、3兄弟じゃなければ、どのいつもでも良い。」

あの3兄弟?アスクレピオス様でも、苦手な兄弟がいるんだな。


「そりゃ、そうだよぉ~ペル君!僕だって、苦手な神様の1人や2人は、居るよ?ペル君は、住んでた場所に、苦手な人はいなかったの?」

「苦手・・・・苦手というか・・・関わり合いを持ちたくない人ならいたな。会ったら絶対、海に落とされる。俺、泳げないのに・・・。」

「泳げないのぉ~!えぇーーー!」

「お前は、泳げんのか?俺は、見たことないぞ。」

「んふふふっ!ネメア君よくぞ、聞いてくれた!僕は、泳いだことない!」

「「・・・・・。」はぁ?」

「それは、俺と一緒じゃないのか?」

「つまり、泳げねーってことだろが。」

「ち・が・い・ま・すぅ~!泳いだことがない=泳げないとは、言えないでしょ!だから、泳いでみたら泳げるかも知れないじゃんかぁ~!」

アースは鼻息を荒くして、俺たちの前で仁王立ちする。

確かに?そう言われれば、そうかも知れないな・・・。

泳げるかもしれないし・・俺と一緒って言うのも・・・?

「いやいやっお前さん。ガニュメデスで流されすぎじゃ。こやつの話の上手さは、星座内でも高い方じゃろ。」

「ペル・・・目を覚ませ。まだ、寝てたのか?」

ネメアとアスクレピオス様の、呆れた目が俺の顔を凝視する。


「はははっ・・・やっぱり?」

アースに騙された。

「失敬な!騙してないもん!一概には、泳げないとは言えないって言ってるだけじゃん!」

「お前、一概なんて、難しい言葉を知ってたのか?」

「はぁ~?ネメア君こそ!泳げんのぉ?猫なんだから、水嫌いでしょぉ~!そんなんじゃ、泳げないでしょぉ~。人の事言えんのぉ~。」

「猫じゃない。ライオンだ。お前の目は、腐ってんのか?来るときに、獣化しただろうが。それに、野生の生き物は、大体泳げる。生きる為にな。お前みたいに日和った奴と一緒にすんな。」

「あぁーそうですかぁ!やぁーねぇ!野蛮な生き物はぁー。」

「″あ″ぁ?誰が、野蛮だ。泳げる・泳げねー1つでうるせぇ奴だな。」


「ペルよ。いつも、こんな感じか?」

「はい。毎日こんな感じです。」

「耳が痛くて、かなわんのぉ・・して、手紙とは?」

「あっ。すみません。どうぞこれです。」

アース達を、横目に持ってきたカバンの中から、2つの手紙を出す。

天秤さんと魔女ジュゼンネから託された大切なメッセージだ。

アスクレピオス様は、片眼鏡をクイッと上げて、2つの手手紙を凝視する。


「おぉー。来たか来たか!ずっと、待っとったんじゃ。ライブラの奴は、考える時間が長いのが、嫌なところじゃ。ほぉ~・・・こう来たか?どれどれ?次は、この手を用意せねば

いかんなぁ。」

少し、茶色みがかった手紙を嬉しそうにアスクレピオス様は、読み始めた。

・・・ライブラ?天秤殿のことか?

「そぉーそぉー!天秤殿の事だよぉ!天秤殿っていうのは、ただのあだ名だよ。」

喧嘩が終わったのか、俺に覆いかぶさる様に、アースが乗っかってきた。

「じゃあ、天秤殿はライブラさんって言うのか。・・・なんで、天秤殿?」

「天秤殿は、あまり酒が強くないからだ。」

「?」

「んふふふふっ!それはねぇ~。僕たち12星座の宴が年に1回あるんだぁ~。その時に、天秤殿が、酔っちゃってぇ~。ふふふっ。」

「酔ったんじゃないだろ。お前が飲ましたんだろうが。」

「1杯だけだよぉ?宴なのに、いつも紅茶とか、コーヒーばっかりなんだもん。たまには、違うのも良いって思ってぇ~。親切心だよぉ?」

アースの事だから、多分わざとなんだろう。近所の悪ガキみたいな顔してるからな。


「でぇ!酔ったライブラったらさ。自分の天秤を取り出して、テーブルに並んでる物の重さを測りだしたのぉ~!皆、面白がってなんでも渡してたんだけどぉ~。ふたご座のジェミニ達を計ろうとして、マジ切れさしちゃったんだよねぇ~。面白かったよねぇ~。」

「皆じゃねぇ。俺とおうし座のタウラスは、止めたろうが。」

「でも、止められなかったじゃん~。それでね、次の日に寝落ちしたライブラに、昨日の事を聞いたら、すっごい怒って帰っちゃったのぉ~。それから、敬愛(笑)の念を込めて、天秤殿って呼んでるのぉ~。で、何回か呼んでたら、アストライアー様に聞かれてさぁ~。」

「アストライアー様?」

「あぁ!天秤殿の相棒というか、上司というか?戦友?というか、そんな感じの女神様だよぉ。その、女神様が、面白がっちゃって天秤殿って呼び始めたから、皆が呼び出したのぉ~。ねぇ?面白いでしょぉ?」

天秤殿も大変なんだな・・・。


アスクレピオス様は、天秤殿の手紙の内容に夢中で、ジュゼンネの手紙に眼を通してくれていない。

「あの・・・アスクレピオス様。できれば、こちらの手紙を見て欲しいです。ここに来る途中で、魔女の方から預かったものです。」

「・・・ん?あぁ。すまんな。つい、じゃ。ライブラとは、長い事、チェス対決をしていな。次勝てば、わしの2勝目じゃ。」

「そうなんですか。なんだか、魔女の方々が困ってるみたいで・・・奇病がなんとか・・。」

「奇病?あやつらの事じゃ、実験でも失敗したのでは、ないのか?」

アスクレピオスは、疑いの目で、2枚目の手紙を読み始める。

良かった。少しでも、魔女達の力になれるかも知れない。


俺たちは、ここへ来た大きな目的の全てをクリアできた。

俺の治療と2つのメッセージを届ける事、どれも無事に出来てよかった。

俺は、人生で初めて何かを成し遂げた達成感で、満ち足りてた。

食後にエピオネさんが、運んでくれた紅茶の香りが、満足感を大きくした。


「お前さんら、魔女から患者の具体的な症状や、患者の数を聞いておらんのか?」

「いえっ・・困っている事しか聞いていません。」

「それ以外な~んにも言ってなかったよぉ~。」

「原因に心当たりは、無いのかどうかはなんにも言っとらんか?」

「言ってません。」

「ふぅぅぅぅむぅ・・・。」

アスクレピオスは、手紙を睨みながら深いため息をついた。


「なぁにぃ~。わざとらしいなぁ~。ちゃんと、メッセンジャーやったんだから感謝してよねぇ~。」

「そうじゃな・・・。それに、関しては礼を言う。特に、ライブラの手紙は素晴らしかった。わしも、次の手を考えねばなならんのぉ~。」

「でしょ!じゃあ、僕たちは、帰ろっか!ペル君の治療も終わって、お手紙も渡せたしぃ~。」

「そうだな、これ以上ここに居たら何をさせたれるか分からないしな。」

アースとネメアは、いそいそと帰る準備をし始めた。


「まてまて、お前さんら、まだ支払いは済んでないぞ。」

「「はぁ?」」

俺が飲んだ薬代か?

「アスクレピオス様、薬代なら自分で払います。何をすれば・・・。」

「いやいやっ!何言ってんのさぁ!じじぃ!僕たち言われた通りにちゃんと働いたじゃん!それに、治療の中に普通薬代は、入ってるものでしょぉ!どれだけ、強欲なのさぁ!」

「だれも、薬代とは言っておらんじゃろ。」

「じゃあなにさぁ!」

「そんなに、キーキー喚くな。ベット代だまだじゃろ?」

「それは、普通治療代の中に入ってるものじゃないのか。」

「あーあーっ。どうじゃったかのぉ~。飯と風呂と食後の茶で、足りなくなったのぉ~。」

「はぁーーー!あれは、僕たちを扱き使ったお礼でしょ!」

「そんな事は、1言も言ってはないのぉ~。お前さんらが、勝手に解釈しただけじゃ。」

「この「じじぃ!」」

アースの甲高い声とネメアの低く重い声が重なった。


「まぁーまぁーそう、難しい事じゃない。ちょっとした、旅行と思えば楽しいじゃろ?」

「まさか・・・俺たちに魔女の谷へ行けと言うことですか?」

「おぉー!ペルは、察しが良い!楽しい旅行が少し伸びて嬉しいじゃろ?」

アスクレピオスは、片眼鏡からウインクをして、茶目っ気を演出した。

アースとネメアの顔が、青ざめていく。

・・・・もしかして、俺たちは、ヤバい神様に頼ってしまったかもしれない。

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