第13話 ペル君は、健康なの?
「「つっ・・かれたぁーー!」」
「おい。じじぃ・・この薬草でいいのだろうが。これだけありゃ、しばらくもつだろうが。」
「おーおー。いきなり、じじぃ呼びとは、百獣の王も落ちたもんだの・・まぁ・・これで許してやるか・・ふぉふぉふぉ!」
「僕も頑張ったんだけど!洗濯物だけじゃないじゃん!食器まで洗ったんだけどぉ!僕の手が荒れたどうしてくれんのさぁ!」
「ガニュメデスお前さんは、それくらいじゃ荒れんだろうに。」
「で!ペル君は?大丈夫なの?健康なの?」
「どうじゃろな・・健康と言えば健康と言えよう。だが・・・ただの人間が、この世界に来てだいぶん体力が落ちたようだけどなぁ~。」
「・・・おいっそれは、大丈夫なのかよ。」
「そんなに、睨むでない。大丈夫じゃろう・・濃いネクタルを飲ませて寝かせておるからの・・・起きたらわかるじゃろ。」
「えっ・・・ネクタルってお酒じゃん!しかも、濃いやつ・・・神様でも酔う人がいるのにぃ・・・ペル君が起きなかったらどうしてくれんのぉ!じじぃ!」
「お前さんら、外面が剥がれておるぞ・・・。まぁ、酒は薬にもなるしなぁ~。それより、お前さんらこれも頼む。」
「「はぁ?」」
診察室の奥。暗くカビのすえて匂いが充満している部屋。
床から天井まで、積み上げられた書類。
何世紀前の物かもわからない古ぼけた本。
空の籠鳥・色が剥げている魔導書と折れた杖。
かつては、カラフルな空を飛び回っていたであろう汚らしい箒の束。
「・・・・えっ、ナニコレ、ナンデ僕ハコンナ汚イ所ニイルノ?」
「おいっ部屋の汚さにアースの精神が、崩壊しかけてるぞ。」
「ふぉふぉふぉっ。この部屋は、物置じゃ。あの坊主が起きるまで、暇じゃろ?」
「俺たちを休ませる気はないのか?」
「コレハ?幻覚ダヨネ?コノ僕ガ・・・?コンナ部屋ヲ掃除?エッ?」
「じゃあ、頼んだ。」
ああぁぁぁぁぁぁぁーー!!!
・・・・?
なんだろぉ・・・・アースの声が聞こえた気がする・・・。
また、何か叫んでるのか・・・。
ネメアは?多分、隣で見てるんだろうか?
あれから、何時間?寝てたのか・・。
もしかしたら、まだ何分かも・・・。
アスクレピオス様が、くれた薬は全身が熱くなって、心地良くて気持ちいい。
嫌な熱さじゃなくて、腹の底から力が湧くような・・・。
初めて入った風呂の時みたいだ。それでいて、空腹が満たされていくような。
もうそろそろ、起きないと・・・。
俺の治療費を、アースとネメアが労働で払ってくれている。
見ず知らずの俺の為に・・・。
「おはようございます。ペル様ゆっくり体を起こしてください。」
「・・・あっ・・おはようございます。・・あの、ずっとここに?」
「はい。もちろんです。わたくしの仕事は、この医療所で羽を休めておられる患者様の看病ですわ。アスクレピオスが、迎え入れた以上あなた様は、患者様ですわ。」
「すいません。エピオネさん。あの、2人は?」
「ふふふっ、お優しいのですね。ガニュメデス様達は、書庫の整理をされています。」
「そうですか・・・。俺は、もう大丈夫です。」
シャッ。
布のパーテンションが開き、アスクレピオスがパイプを片手に優雅に入ってきた。
「おっー。起きたか。体は軽いじゃろ?お前さんには、濃い目のネクタルを飲ましたからな。」
「はぁ・・・。濃い目のネクタルですか?それは、俺が落ちた泉の事ですか?」
「そうなるな。お前さんどこも不調がないな?」
「はい。ありがとうございます。もう、大丈夫です。元気になりました。」
「そうじゃろな。元々、お前さんの体に対してのエネルギーが足りんかっただけじゃしな。ガニュメデス達が、お前さんをここまで運ぶのにそれなりに気を付けてたお陰じゃろな。」
・・・。
やっぱり、そうか。俺の体を気遣ってここまで一緒に来てくれた。
俺の体が、大丈夫なのは2人お陰だ。お礼を言わないと。
「あの、アスクレピオス様。俺、2人に・・・。」
「まぁ、慌てるな。さっきパナケイアに呼びに行かせたから、すぐに来るじゃろ。」
ダダダダダダダダダッ!
2つの大きな足音が、ベットを揺らす。
「「ペル!」君!」
多分、2人と離れて数時間しか経っていないのに、懐かしさを感じるのは眠っていたせいかもしれない。
汗を流して、走って俺に会いに来てくれるなんて・・・・。
「ねぇ!ペル君聞いてよぉ!このじじぃ、この僕に洗い物と洗濯をさせるだけじゃなくて、汚ったない部屋の掃除までさせたんだよぉ~!神様の一員じゃなかったらぶん殴ってたぁ!なんなの?まったくなんなのさぁ!」
「お前なんて、ましな方だろうが。俺なんて、山登りと雑草の採取。それに、崩れた崖の修繕までさせられた上に、埃まみれの部屋の掃除だぞ。この俺をどこまでコケにしたらいいんだ。」
・・・・俺の心配・・・だよな?
まぁ、とりあえず2人が、必死に手伝いをしてくれてたのがわかる。
「ごめん。俺なんかの為に・・・アスクレピオス様せめて、2人に風呂でも。」
「なに言ってんだ。お前の為じゃない。俺の為にやったんだ。お前を拾った俺らの責任だ。」
「ふふっ!責任だってぇ~。たんにペル君が心配だっただけだよぉ~。素直じゃないな!ネメア君は!」
「うるさい。」
ふぉふぉふぉ。
「元気、元気!もうこれ以上、お前さんに施す治療はないわ。」
「えっ!じゃあ、ペル君は、健康で元気になったって事なのぉ~。やったぁ!」
「そうじゃな・・・健康と言えば、健康じゃな。」
「なんだ、曖昧だな。ちゃんと、治療したのかじじぃ。」「そうだぞぉ~じじぃ。」
「当たり前じゃ。お前さんら益々、遠慮がないの。せっかく、風呂の準備をしてやってるのにのぉ~。」
「やったぁー。お風呂だぁ~。」「当たり前だ。こんなに扱き使っておいて。」
「ふぉふぉふぉ。まぁー良いが。どうじゃ?ペル。お前さんも一緒に入ってこんか?」
「・・・俺も良いんですか?」
「お前さんも、汗をかいているじゃろ。3人で入ってこい。」
「あなた。ペル様に真実をお話されるのですか?」
「・・・。その必要はないじゃろ。今はまだ、知る必要性のないことじゃ。・・・あやつらが、風呂から出たら皆で晩飯にするぞ。」
「・・・はい。準備は、もうできています。」
「・・・。あぁ・・・風の流れが変わったの。のぅ・・ゼウス見ておるんじゃろ・・・どうするんじゃ?」
「お風呂ありがとうございます。あんなに、大きな風呂があるなんて知りませんでした。」
「んん~?お風呂って大きい物じゃないのぉ?」
「えっと・・・・普通は、沸かした湯で体を拭くだけだし・・あんなに大きな風呂場なんてそれこそ貴族とかでないと持ってないと思うけど。」
「んじゃあぁ・・・ペル君大きなお風呂は、入ったことなかったの?」
「ドラム缶風呂って・・・知ってる?」
「「知らん。」ない。」
「2人とも知らないの?」
「ドラム缶ってなにぃ?」
「ペルよ・・・お前さんが思っているよりも、そやつらは、世間知らずじゃぞ。」
「「知ってる。」」
「ないを言っておる・・今しがたドラム缶を知らんと言ったじゃろ。」
「ちょっと、思い出せないだけだもん。」
「・・・ふんっ。」
「え~っ・・・ドラム缶は・・・金属で、出来た・・缶?」
「「かん・・?」」
・・・・どういえば・・。
「皆様、ご夕飯の準備が整いました。こちらへ。」
「わぁーーーーいぃい!僕、誰かさんに扱き使われて、もう、お腹ペコペコ!」
「あぁ・・・ほんとにな。」
良かった。話がそれた、絵に書けば伝わるか?
でも、俺は独りで入るドラム缶風呂よりも、皆で入る大きな風呂の方が好きだ。
「ほれ。お前さんも行くぞ。食べて、寝る体力があれば体は、回復する。お前さんは、食べる事も必要だ。・・・それにのぉ・・お前さん・・もう少し筋肉をつけんとな。」
「はい。ありがとうございます。」
俺たちは、エピオネさんの案内で、1階奥の大広間。
アースの家のテーブルよりも、広くて長いテーブル。
赤くて深みのある色のテーブルクロス上には、銀の食器と、金の食器が並んでいる。
テーブルの真ん中に並べられている、大きなお皿が4つ。パンが沢山入ったバスケットが2つ。
テーブルクロスと同じ色に塗られているイスが、10脚以上。
俺たちと、アスクレピオス様それに、エピオネさんと娘さんの分のスープが等間隔に並べられている。
4つの大きなお皿は、肉料理・魚料理・グラタン・黄色いサラダ。
肉料理は、遠くからでもわかるくらい、ホロホロに煮込まれている。
魚料理は、部屋中に香りが充満するほふどのハーブと一緒に焼かれている。
グラタンは、白いソースからはみ出ている野菜とマカロニが温かそうに見える。
黄色いサラダは、黄色の花が大きく咲いている様に盛られていて、真ん中に赤い実が詰め込んである。
どれも、美味しそうだ。
俺たちが、席に着くと、エピオネさんと娘のパナケイアさんが、皆のグラスに赤ワインを注いでくれた。
「すっごぉ~いぃ!これって、パナケイアちゃんが作ったのぉ?」
「いえっ・・私は、薬を作る方が得意ですので、母上を少しだけ手伝っただけです。」
「そうなのぉ~。お薬作れるのぉ~?すごいぃ~。僕も何か頼もうかなぁ~。」
「おい。ガニュメデスよ。わしの娘に話かけるでない。」
「なんでさぁ!僕は、今日ずっと、1人で水仕事をさせられてたのんだからぁ!ご褒美の1つくらいあってもいいでしょ!」
「風呂と晩飯を馳走してるじゃろ。」
「この、肉美味いな・・どう作るんだ?」
「ありがとうございます。ネメア様、あとで、レシピをお渡ししますわ。」
・・・こんなに、楽しい食事もあるんだな。
「ねぇ?ペル君。」
「?なに?アース。」
「元気になって、良かった。」
「あぁ。ほんとにな。」
温かくて清潔なベット・大きな風呂も豪華な食事よりも・・・・友達の言葉が一番満たされる。
この世界で、俺を拾ってくれたのが、この2人で良かった。
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