第12話 お手伝いブラザース

エピオネさんに案内された部屋は、簡素な個室だった。

簡素と言っても、俺がいつもいる部屋なんかよりは、ずっと綺麗で清潔だ。

白いベッドと、小さな戸棚、それと大きめの窓があるだけ。

館全体と同じように電気が無くて、窓の灯りだけが部屋を灯している。

綺麗なベットを汚す事のないように、靴と上着を脱いで横になった。

俺だけが、横になってもいいのだろうか?

アース達も疲れているはずなのに・・。

もしかしたら、窓から2人が見えるかもしれない・・・。


「ペル様。2人は、大丈夫ですよ。あなた様は、自身のお体を第1に考えてくださいませ。せっかく、ここまでいらしたのに、お体が良くならなかったらそれこそ、お2人が悲しい思いをされるのでは、ないでしょうか?」

・・・そうかな。そうかもしれない。

「ありがとうございます。エピオネさん。少し寝ます。」

2人は、優しいから、俺が良くならなかったら悲しむかもしれない。

そう、思って目を閉じた。




「では、しっかりな。お前さんらの働きで、治療の内容が変わるかもしれんぞ。」

ふぉふぉふぉ・・・。

アスクレピオスの低くて高い声が、岩と岩にぶつかってエコーする。

「ぬぬぬぬぬっ・・どれ!洗濯物って!僕の力ですぐ終わらしてやるもんね!」

「そうか、頼もしいのぉ~。それが、終われば治療用に使う器具も洗っておくれ。」

「なっ!」

「ほら、キリキリ働けよ。」

「なにさぁーネメア君だって、キリキリ働いてよ!君のせいでペル君の治療が適当になったらどうすんのさ!」

「お前と一緒にするな。俺は、やる時は、やる主義だ。」

「僕もやる時は、やるよ!」

「ふぉふぉふぉ。やる気が出て来て何よりだ。して、あの者をどこで拾ってきた?」

「?ペル君のこと?ペル君は、ネクタルの泉の前で倒れてたの!」

「ネクタルの泉・・。」

「あぁ・・。泉の中から出てきたのか、それとも落ちてきたのかは、分からない。・・が、服は濡れてはなかった。あいつを運んだのは、俺だ。断言できる。」

「んん~・・でも、ペル君は、落ちたって言ってたしぃ~・・・落ちてきたんじゃない?」

「馬鹿か・・・何処から落ちたら大怪我じゃすまないだろ・・・。」

「わかってるぅさぁ!」

「おいおい・・お前らここで暴れるな。早く行かんか。」

「「わかってる!」ぅ!」



「むぅ~・・なんで僕がお皿洗いと洗濯なんだよぉ~。ネメア君なんて・・・パナケイアちゃんと薬草採りなんて・・・・なんでだよぉ~!」

ペル君は、ちゃんと寝てるかな?

ネメア君は・・・ふっん!

白いお皿と、なんかすり鉢とか・・薬品臭い食器?かな?

僕には、よくわかんなし、知らなくてもいい・・・。

この世界に連れてこられてからずっと言われている言葉。

「ガニュメデスをお前は、その美を保つことが使命だ。けして、私以外が傷をつけてはいけないぞ?」

そう言ってゼウス様は、僕の杯を受け取る。

だから、僕は力仕事なんてしない。今の僕を保つために・・。

けど・・これは、友達のため・・・。

僕の家にペル君がいる事も、ここでペル君のために手伝いをしてる事もゼウス様は知っているはず・・・。

だけども・・なんのアクションも手紙もない・・・。

多分大丈夫・・アスクレピオス様にも何もないはず・・・。

あぁ~・・きっとネメア君なんて、ただの善意なんだろうなぁ~。

僕も何も考えずに心配もせずに・・ペル君の助けになりたいなぁ~。


僕は水瓶の中で、ネクタルと水を掛け合わせて洗剤を作る。

もう!お手伝いだなんだろうが完璧に仕上げてやる!

僕は美しさに関しては、だいたい妥協しないんだからな!




・・・・・・・高いな。

「こちらです。ネメア様。」

俺は、アスクレピオス様の娘、パナケイアと館の裏山に来た。

パナケイアは、エピオネに似て凛とした雰囲気を持っている。

手に、鎌を持っていなければもっと格好がついていたことだろう。

ぶーたれたアースと別れて、背に籠と鎌を装備した俺は今までより、間抜けな格好の俺が言えた事じゃないだろうがな。

はぁー・・百獣の王が、岩によじ登って草を刈るんだからな・・。

まぁ・・水仕事よりましか・・。

ペルのためだと思えば・・・。あいつ・・・ちゃんと寝てんのか?

アースの家で寝てた時は、寝てるのか起きてるのか良く分からなかった・・・。

まぁ・・アスクレピオスが近くに居るんだ・・・俺たちが見てるよりもずっと大丈夫だろう。


・・・。

「ネメア様良いのですか?アクエリアス・・彼は、ゼウスの丁稚で黄道12星座の中でも敵に回すと面倒ですよ?彼と関わる事は、ゼウスに監視されるのと同じなのですよ?」

ペルを見つけて運んだ後、病人に何がいいのか分からず寝床に一度帰った。

俺は、百獣の王として多くの臣下を従えている。

その俺が何で他人の世話なんか・・・だが・・一度懐に入れた者を見放す事は俺のポリシーに反する。何が何でもあいつを治す・・・俺のポリシーのために。

それにしても・・・あいつ・・絶対人間だよな?匂いで分かるが・・・アースは分かってるのか?

いやっ絶対知らないな・・。

考えてもよくわかんねーそう思ってここまで来た。

この際・・なんでもしてやる。

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