第6話 医療の神アスクレピオス

「彼は、家族と一緒にオリンポスの端に館を構えている。日々、医学の研究と魔物たちの治療をしている。」

「ふぅ~ん。で、彼はどこに居るの?」

「・・・・教えてもいいが・・公平ではないな。君たちが彼のために治療のできる者を求めている事がわかった。私は、君たちが望む情報を持っている。そこでだ、君たちに私の持っている情報と交換して欲しい事がある。」

「・・・なんでしょうか?・・俺ができる事ですか?」

「えぇ~ただじゃないの?けちぃ~。」

「おいっ、失礼だぞ。で、なんでしょうか?」

「なに、簡単なことだ。この手紙をアスクレピオス殿に手渡して欲しいだけだ。簡単な事だろう?それにこれで、お互い公平だと思わないか?」

「あぁ!確かに!さすがです。天秤殿!」

「ネメア君ちょっと黙っててよ。」

「あの・・・それで、手紙とは?どこに取りに行けばいいのでしょうか?」

「あぁ・・少し待っていてくれ。」


天秤殿は、深緑のイスから立ち上がりどこかに行った。

手紙の配達か・・・。

よく、やったな。

あの時は、死ぬかと思ったな・・。


「「「どの時」だ」なのぉ?」


ぼっーと考え事しながら水瓶の水面を見つめていると、水瓶と後ろから声がかかる。

当然の質問に戸惑ってしまった。

いつの間にか、席に戻ってきていた天秤殿は、真っ直ぐな目をして俺を見ている。


「確か・・ペル殿と言うんだったね。私は、少しだが地上にいたことがある。その時、我が主アストライアーには、多くの手紙が来ていた。主は、慈愛の心で人々の心で公平を計っていたが、人間たちのあまりの残虐さに心を痛めオリンポスに帰ってきた。主は、手紙や陳述書に心を痛めていたが、決して手紙を無下ににはしなかった。手紙とは、それくらい重要なものだ・・ということをよく知っている。・・・それを届けにきたもの達もまた、重要だと知っている。君は、そのような重要な事をしたことがあるのだろう?それに、死にそうだとなんとか・・・詳しく知りたい。」

3人の目が、好奇心にキラキラしてた。


「大したことじゃないんです。・・住んでいた家の人が、手紙の手間賃を削りたくて俺に、手紙を届けるように言ったんです。届け先は、大きな町の劇場にいる歌手でした。そこにたどり着くには、山を4つ越えなきゃならなくて・・馬は貸してもらえなかったので、歩いていきました。3つの山は、どうにか越えられたんですけど・・最後の山を登ってると冬が来てしまって・・・。寒くて、死ぬかと思いました。」

「冬?ってことはぁ~雪?あの美しくて綺麗なものが降る時期のことだよねぇ~。僕は、春生まれだからこわいなぁ~。」

「お前は、真冬だろアクエリアス。」

「ちがうよぉ~。遠いところでは、春の季節にあたるもん。」

「お前の話は、どうでもいい。それで、どうしたんだ?馬も無かったんじゃ、普通の人間にはどうすることもでないだろ。」

「それは、助けてもらいました。同じ町に行く予定の商人に。大きなキャラバンで優しい人達だったので助かりました。・・・・・大した話じゃなかったですよね。」


天秤殿の話から比べると俺の話は、きっとつまらなかっただろう。


「・・・人間とは、よくわからない生き物だ。助ける者もいれば、過酷な道を選択させる者もいる・・・。つまらない話ではなかったよ。ありがとう。やはり、手紙を届けて欲しい。」

「そ・・そうですか?・・。」

「では、頼む。」

「はい。天秤殿の大切な手紙は、このネメアが医療の神アスクレピオス様にお届けします。」

「「・・・・。」」


(ねぇねぇ。ペル君・・彼の方が僕より空気読めないきがするんだけど?)

前のめりで、水瓶に頭を下げるネメアに白い目を向けながら囁いてくる。


「では、これを。」


天秤殿は、金と銀のリボンで結ばれた手紙を差し出してきた。

水瓶(紅茶)越しに。

「?・・・どうしたら?」

「あぁ~。はいはい。僕がとるよぉ~。ネメア君は、水苦手だもんねぇ~。」

「うるさい。ただの本能だ。」


天秤殿の手が、だんだん水面に近づいてきて紅茶に手紙は浸っていく。

・・・・。

手紙が・・・ダメになる。


「大丈夫。もう少し見ててぇ~。ほら、出てきたよぉ。」


水面から紙の端が出てきた。

紙は、だんだん姿を現して手紙の形をしてきた。

「・・・すごいな・・手紙が・・水の中から出てきた。」

「ふふふっ。面白いでしょぉ?僕らの中でこの術を使えるのは、少ないんだよぉ~。こっちからも送れるよぉ。」

「では、頼んだ。あぁ、アスクレピオス様は、ペリオン山におられる。この山ごとアスクレピオス様のものだから、すぐにわかるだろう。」


ぴちょっん・・。

水面が大きく揺れて、天秤殿の姿が見えなくなった。


「もぉ!僕の術なのにいきなり消すなんてひどいなぁ~。」

「別に良いだろう。きちんと、情報を下さったしいきなりプライベート中にお邪魔したのはこっちだ。」


ピンクの頬を膨らましているアースを無視して、ネメアは地図を取り出した。


ネメアは、大きなダイニングテーブルに大きな地図を広げ出した。

俺には、字は読めないが見た目でだいたい・・・いやっ・・・あんまり・・わからないな。


「ここが、今俺たちがいる場所だ。この大きなのは、神たちが住んでる場所で、ペリオン山は、ここだ。」

ネメアが、指した場所は地図の端に近い。


「んん~・・ここに行くにはぁ~最低3日はかかるねぇ~。」

「・・・しょーがね。ペルは、俺が運ぶ。お前は、自分でどうにかしろ。」

「なんでさぁ!僕も運んでよぉ~。ずるいよぉ~ペル君贔屓だよぉ~。僕も贔屓してよぉ~。」

「うるせぇ・・・じゃあ、あの瓶使えばいいだろ。」

「むりだよぉ~。僕の水瓶は、生き物は通せないのぉ!」

「不便だな。・・・じゃあ、歩けば良いだろ。」

「嫌だよぉ!・・・・んん~。」

「・・・・・じゃあ、俺が歩くよ。」

「「だめ!」だ!」


・・・。

「わかった!僕、ケンタウロス君に頼んでくる!」

思いついたように、玄関の扉を開け放ってアースは出て行った。

外からは、黄色い声援が、アースの名前を呼んでいる。


・・・・アースは、モテるんだな。

「まぁ、見た目だけは雌にモテるなあいつは、とりあえず、準備でもするか。」

ネメアは、呆れた目線を扉の外に向けながら、奥へと進んでいく。

・・・。

・・・・・準備?

俺は、何をすればいいんだ?

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