第5話 アストライアーの天秤
・・・・。
また、俺は寝てしまったのか。
アースとネメアが作ってくれたスープを飲んで。
それから・・?
なんだか、腹の奥が温かくなってそれで・・。
丁寧にかけられた布団。
ベット脇に並べられたスリッパ。
きっと、ネメアだ。
お礼を言わないと。
起き上がる。
昨日よりも、尻は痛くない、きっとスープを飲んだからだ。
アースのスープは、色が変だったけどきっと体にいい物が入っていたのだろう。
流しの薬屋がいってた・・。
「いい薬ほど、苦かったり臭かったりするものなんですよ。」と。
・・・薬草スープだったのか。
並べられたスリッパを履き部屋を出た。
昨日、アースに連れて行ってもらったダイニングがどこかわからない。
廊下には、丸っこい形の蝋燭が左右に広がっている。
それしかない・・。ダイニング・・どっちだ?
・・・。
・・・は・・。
・・・・・・かr・・・でも・・・・。
そろ・・・・・せ。
「声だ・・・こっちか?」
かすかに聞こえる声を頼りに、右に進んでみる。
廊下の途中には所々、貝殻の形をした窓があり、小さな魚が泳いでいるのが見える。
アースに手を引かれていた時は、気が付かなかった。
村の女たちがこの窓見て騒ぐ姿が想像できた。
どんどん、声が大きくなっていき、廊下の奥に見えた扉から明りが見えている。
きっと、あの部屋がダイニングなのだろう。
ダイニングルームへ続く扉の取っては、タコの形をしてる・・。
ちがう・・・生きたタコが扉の取ってだ・・・。
「・・・どうやって・・・?」
ぬめぬめしたタコを掴むのは簡単じゃない。
村の漁師たちは、塩をかけてぬめりを取っていた。
蝋燭と窓以外ない廊下に塩なんてない・・・いや・・アースの家ならあるのか?
とりあえず、あたりを探してみる。
・・・・やっぱり・・ないよな。
がちゃっ・・・・。
「?・・なにしてるんだ?お前は?」
「・・おはよう。ネメア・・・。あの・・タコが?」
「は?タコ?・・・・あぁ・・おいっお前のタコ逃げてんぞ。」
「んん~?あぁ!ペル君おはよぉ!よく、ねむれたぁ?」
「あぁ。ありがとう。」
「あぁ、僕のタコさんが逃げちゃったみたいだねぇ?ごめんねぇ?」
「飯か?」
「違うよ!僕のお友達!」
「魚介類しか友達がいないのか?」
「なんで!ネメア君も僕の友達でしょう?」
アースとネメアは、本当に仲がいい。
「そうでしょ」「違う」
・・・・。
アースは笑顔で、ネメアは睨みながら、お互いを見つめあっている。
「「・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。」」
「・・・2人は何をしてたんだ?」
「・・・僕たちはね。今から水鏡の術を使おうと思って。」
「水鏡?」
「うん。僕はね、水を操る術がすこし使えるんだぁ。といっても、僕が持っている瓶に入っている水だけだけどねぇ。」
アースは、凄みのある笑顔から、いつもの輝く笑顔に戻った。
「すごいな。」
「でしょー。まぁ僕は風の方が相性がいいんだけどねぇ。」
揺れる金髪とウインクが様になっている。
「その、水鏡の術でなにするんだ?」
「あぁ・・アストライアーの天秤に連絡をとる。」
「アストライアー・・・の天秤?」
「あぁ。アストライアーっていう女神が持っている天秤だ。こいつは、広い知識とその思慮深さでは、俺らの中ではダントツだ。」
「・・・それは、ネメア君が勝手に憧れているだけでしょぉ~。ほら、見て2人ともネクタルに着けた月桂樹を月の光で照らして、サジュの雫を加える。そして、コンタクトを取りたい相手の名前を書いた紙を浮かべて呼びかける。相手が気が付くまで待たなきゃいけないのがこの術の悪いと事だけどねぇ~。」
青銅の瓶の中には、薄いピンク色の水が並々と入っている。
字が書いてある紙がゆらゆらと動いている。
もともと、字や勉強は習いに行けてないから読めない。
浮いていた紙が突然、沈み瓶の底に消えていった。
「あっ!繋がったみたいだよぉ~。ほらぁ。」
体格の大きなネメアと水面ギリギリ体を乗り出しているアースの間からそっと覗いてみる。
水面に写っていたのは・・・髭?白くて長い髭だ。
その髭をしたから見上げている。下から見える人物は、鼻の先の眼鏡を揺らしている。
「おぉ~い。てんびんん~。やぁ~い。こっちみてよぉ~。」
「おいっ。もっと、敬意を込めて呼びかけろ。」
「えぇ~。てんびんの耳が遠いだけじゃないのぉ?」
「たくっ・・んんっ・・アストライアーの天秤殿。天秤殿。ネメアです。獅子のネメアです。どうか、呼びかけに応じて頂きたい。天秤殿。」
「寝てるんじゃなぁい?」
「そんなはずないだろう。こうして、前を向いていらしゃるんだから。ほら、動いた。」
「おぉ~い。聞こえるかぁ~い。天秤殿ぉ~。・・・気が付い・・・あれっ・・・・・。いやっ・・こっち来ないで・・・いやっ・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁ。」
アースの悲鳴が、部屋に飾ってある食器を震わせ、本人はネメアの背中に抱き着いていた。
ネメアは、片手でアースの頭を押さえながら、煩いとつぶやいている。
「・・んお?なんだ・・ネメアか?人の紅茶に術を使うのは失礼だと思わないか?」
「あぁ。気が付いてくださったか。良かった。お茶の時間に失礼したアストライアーの天秤殿。少し聞きたいことがあってコンタクトを取らせて頂いた。」
水瓶から、聞こえる声が見えている姿よりも若く、村にいた自称青年団団長の声に似ていた。
見えている姿よりも若いのかもしれない。
「そうか。この術を使えるとしたら・・・アクエリアスか。そこに隠れているのは見えてる。」「そうだよぉー!僕!僕の術だよ!もう、信じらんない!この僕に、口の中を見せるなんて!トラウマものだよぉ!」
「それは、すまない。がしかし、私は、私の家で紅茶と本を読んでいただけであって突然私のプライベートに踏み込んできたのは、君たちじゃないかな?無礼なのはそちらなのは、明白だが、ゼウス様の寵愛を受けている君に何かあれば責任が取れない。ということで、お互いに無かったことにしよう。それに、ネメアの話では、私に聞きたい事があるのではなかったか?」
「・・・・天秤・・君ってばよく口が回るよねぇ・・もう、わかったよ。君に聞きたいのはさ、医療の神様についてだよ。」
「医療の神?・・・私たちに医療など関係あるのかな?」
「僕たちじゃないよ。彼が必要としてるの。」
アースは、俺の体を水瓶から見えるように前にだす。
水瓶といっても、天秤からは紅茶の中に居る俺が見えているだろう。
話し方が、教会の神父様のようで、なんと声をかければいいのかがわからない。
「・・・君は?見たところ人間のようだね?・・なるほど・・君がけがをしていて治療が必要なのかな?」
「・・おっ・・俺は・・ペルというもので・・それで怪我をしてるわけじゃないんですが・・。」
「ペル君は、5日前にネクタルの泉の前で倒れてたんだよ。多分、怪我とかないと思うんだけどぉ~・・わかんないじゃん?」
「ほぉ~・・確かに私たちでは、人間の怪我や病気はわからないな。だとしたら・・彼しかいないな。医療の神アスクレピオス。」
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