第3話 百獣の王 ネメア

たくっ!人が心配してやってるのに腹の虫ならしやがって!」

「まぁ~まぁ~。ペル君は4日も何も飲み食いしてないし僕のおいしいスープの匂いでお腹が鳴っちゃったんだよ!ねぇ~ペル君?」


大声を出してた男はテーブルを挟んで目の前に座って俺を見ている。

俺より遥かに逞しい腕が机に肘をついている。

様になるな。

貴族的なオーラというか貫禄を感じる。

いやっ・・・威圧感?


「そんなに不機嫌にならないでよ?ネメア君。君は本当に心配性だなぁ~。」

「アース!お前が適当すぎなんだ!だいたい息をしているからと言って体に異常がないとは言えないだろうが!それを寝ていれば大丈夫とかのん気な事を!」

「まぁ~こうしてペル君も起きたことだし?大丈夫だったって事じゃない?」

「もう金輪際お前に病人の世話など頼まないからな・・。」

「えぇ~そんなぁ~。僕、すごくがんばったのになぁ~」

二人は、友達同士だろうか?

とても仲がいいようだ。


それより俺を運んでくれた恩人の名前を聞きたい。

「ん~?あれぇ~?ネメア君自己紹介してなかったの?」

「あのな・・。あの状況でのん気に自己紹介ができたのかよ。俺はお前より人の空気が読めるんだよ。元人間のくせに何でそんな空気が読めないんだ。」

「えぇー!嘘だよ!僕は空気が読めて気が利くってゼウス様も言ってくれるのにぃ!」

「あのおっさんの言うことが信用できるかよ!」

・・・俺にはよくわからない話。

こういう場合は口を挟まずただ黙っていればいい。

言い合っている二人に、何か行動をするとこちらに矛先が向かってくるのは知っている。


・・・?

突然、話し声が聞こえなり下を向いていた頭を上げる。

アースは首を傾げてこちらを見てる。

ネメア君?さん?は頭に手を当てて首を振っている。


「ペル君ごめんね?もう大丈夫だよ?僕たち喧嘩してたわけじゃないよ?これは…‥何ていうか?じゃれあい?」

「おいっ。もっと上手い言い方はなかったのか?」

「だってぇ~ネメア君と言えば…じゃれあいの方がしっくりくるんだもの!」

黄金色のキレ長い目を細めてアースをあきれ顔で見ている。


「そうだ!ご飯だったよねぇ!僕ペル君のために作ってみたんだ!お料理って初めてなんだけど上手くいった気がするよ!」

「ありがとう。さっきからいい匂いがしてる。」

アースは形の良い鼻からフフンッと息を吐いた。

よほど自信があるのだろう。

叔母さんが作ったスープよりもいい匂いだ。


青いテーブルクロスの上に赤い器のスープが置かれた。

魚介のいい匂いが腹の虫を刺激する。

目を閉じてスープの匂いを体の奥まで押し込めて、スプーンを持つ。

もう二度と食べられないかもしれない。


「おいっ!待て!食べるな!」


二度目のネメア君の大声。

俺とアースは不思議に彼の方に首を動かす。


「おいっアース!その液体に何いれた?というよりもそれはなんだ?」

「んん~?何って普通のスープだよ?」

「お前の普通はなんだ?何を入れた?」

「ふふんっ!これはね、まずネクタルにコリア草を磨り潰したものを入れて、僕の瓶から取れたオニマキスとアクレの肝を入れて、それとすぐに元気になるようにこの草?をいれたよ!ちょっと色に個性でちゃったけど、入れたのは体を元気にするものばかりだし大丈夫だよぉ!きっとね」

アースは、青い瞳でウインクをした。

きっと、村の女たちが見たらイチコロだ。

いやっ…おっさん共も?


「ペル君!いやだなぁ~僕が美しいって?それは本当の事だけれども!僕も美しい人でないと嫌だよ?ふふふっ!」


「そんな事はどうでもいい。それより・・これ・・お前は味見したのか?」

「んん~?なんで?僕元気だよ?これはペル君のためのスープだから僕が食べる必要はないよぉ?」


‥…。

‥‥‥。

俺とネメア君は無言で目線を合わせた。

ネメア君に言われて持っているスプーンを置いた。

さっきはもう二度と食べられないと思って匂いを堪能するため目を閉じて食べようとしてしまった。

今度は皿を上から見下ろし改めて見てみる。

……。

赤い器に紫のスープ。

それに魚のなにかな部分と多分野菜。

ところどころに浮いている緑はアースが持っていた草。

…。

これは…。

食べられるものなのか?

ネメア君が眉間に皺を寄せてスープを睨んでいる。


「はぁーーー!」


ネメア君は大きなため息と共にイスから立ち上がった。


「んん~?どうしたの?そんなわざとらしいため息なんてついちゃってぇ~。」

「わざとだ。おい俺がこの間持ってきた鹿肉はどこだ。」

「あの袋?それはねぇ~・・そのまま貯蔵庫にあるよぉ?」

「おまっ・・・はぁ~。もういい。お前にあんな上等なもん渡した俺が悪かった。」

「へぇ~鹿肉っていい物なんだぁ~知らなかったぁ~。」

「そのゴミは捨てろ。俺が作る。」

「ゴミじゃない!」

アースは、薄っすらピンクに染まった頬を膨らまして抗議してる。


ネメア君はアースの事を無視して、キッチンがある方向に歩いていく。

スープが向こうから来たから多分向こうにキッチンがあるんだろう。

アースは無視しているネメア君の肩らへんをポクポクと叩いているし、本当に仲がいい二人だ。

突き進んでいたネメア君が立ち止まり突然こちらを見た。


「おいっ!君付けで呼ぶな。俺の威厳が下がる。俺は百獣の王にして、12星座を統べるもの。獅子のネメアだ。そしてレオとも呼ばれる者だ。こいつみたいに呼んだら喉元噛み切るからな。それに呼ぶならネメア様でもいいぞ。まぁ・・・ネメアでいいが。」


俺より高い身長とすらっと長い手足。

黒く柔らかそうな髪を後ろに流し黄金色の瞳の奥が笑っている。

腰に手を当てこちらを見ている姿は、本物の王様に見えた。

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