第2話 スープの味は何味だ?
アースに手を引かれキッチンに移動する。
あぁ,尻の痛みは本物じゃねーか。
腰を強く打ったのか?近所のヴァスカ爺みたいに腰が曲がる。
「ふふっごめんね?なんか、人間のお爺さんみたいで!きっと、来るときお尻というか下半身を打ったんだね。ペル君は筋肉もお肉もついてないみたいだから、直接骨とか筋とか痛めたのかも?あっ!もしかしたら、お肉がついてないから悪魔も魔物も食べなかったのかも?それってすごいラッキーだね!」
…。
………。
「お前友達いないだろ?」
「居るよ?僕が友達だと思えば、何マイル離れていようが友達だよ?まぁ相手がどう思っているかは僕にとって重要なことじゃないけれどもね。」
こいつの、友達は大変だな。
「ん~?ペル君も友達だよね?それと名前を呼んで欲しいな。あれ・それ・これ・こいつ・お前・おいは僕の名前じゃないしその名前だったら僕じゃなくてもいいyo
ね。」
しまった。
相手の嫌な部分に障ってしまった。
俺はいつもそうだ。
余計な一言で相手を怒らせる。
どうすれば・尻が痛くて動きにくいし、きっと受け身も取れない。
あやまれば。
「ん?ペル君?僕は怒ってないよ?君の叔父さん達と違って,僕は問題解決に暴力を用いないよ?そんな事をしても問題は解決しないしね?だから逃げないで?ごめんね?ちょっとムッってしちゃっただけだから。ごめんね?びっくりしたよね?」
女みたいな綺麗な顔が少しクシャとなる。
整えられた眉が斜めになっていく。
……?
「ごめん。気を付ける。」
斜めになっていた眉が上がり母さんと見に行った教会の天使像みたいな顔が俺を見てる。
キッチンへの道のりはそんなに遠いものじゃないのに時間が過ぎるのがゆっくりに感じた。
年寄りの様な歩き方のせいだ。
アースに手を引かれついたキッチンは広かった。
何人座るんだっていうテーブルとイス。
白いスベスベしたテーブルに青いクロス。
この家はキッチンとダイニングが別なんだ。
…。
‥‥‥アースは、金持ちなのか?
こんな造りの部屋は教会でしか見たことない。
……掃除も大変だろうな。
アースに手伝ってもらいながらイスに座る。
座った拍子に尻の痛みが腰までくる。
……いてぇ。
「ペル君少し待っててね?すぐにスープ持ってくるから。」
アースは鼻歌を歌いながら奥に入っていく。
なんの歌かはわからん。
テーブルと同じくスベスベしたイスに座りながら窓の外に見る。
さっきの部屋よりも青が濃くて…魚?タコ?なんか泳いでる?
アースの家はやっぱり海の中になるのか?
もうどこでもいいか…。
毎日、浴びせられる暴言と暴力。
朝から晩まで働かされ罵られ人間としての扱いを受けられなかった。
いつまでも続くと思ってた。
いつか母さん達が迎えに来てくれるかもしれないという甘い夢は、雪が降った夜に何もない納戸に閉じ込められたあの日に捨てる事にした。
なのに…。
温かく高級な布団と部屋。
知らない人間に食事までふるまってくれる。
それに、いつまでも居ていい。
……。
少し眠くなってきた。
もしかしたらこれは俺が見たい甘い夢かもしれない。
そうか…。
夢か。そりゃそうだよな俺にこんな現実があるはずがない。
俺は邪魔な存在。
醜くて、汚くて、どうしようもない奴。
目が覚めたら馬小屋か?
いやっきっと庭のどっかで倒れてるにきまってる。
……。
‥‥‥‥。
いや…だな…。
覚めてほしくない。
俺は、あの家に居たくない。
ア…ス・ごめん‥あやま‥‥から‥ここに……いた…い。
‥い。
‥お‥‥い……きろ…。
「おい!起きろ!こんな所で寝るんじゃねー!」
「ねぇ!待ってよ!そんな大きな声で起こさなくても!」
大きな声が耳と心臓を揺さぶった。
突然の事で自分が今どこに居るのか確認するために左右をみる。
右には知らない男。
白いシャツに黄色のベスト。
俺よりも遥かに高い身長に長い脚。
捲り上げた袖から見える腕は胸の前で組んでいる。
そこから見える筋肉は港の漁師達みたいだ。
左には、アースが居て大声を出した男に文句を言ってる。
座っている俺からは見えないが手には盆に乗ったスープがあるみたいだ。
見えないスープからは白い湯気と魚介の匂いがしてる。
あぁ~うまそうな匂いだ。
スープの匂いで黙っていた腹が急に鳴り出す。
このスープは何味なんだろうか?
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