第515話「エピローグ(別れの宴)(1)」

「よっ、おかえり」


「うん。ただいま。でも、ショウも戻ったばかりだよな。どこにいたんだ?」


「ハルカさんと船長室」


「相変わらず、こっちだとハーレムなんだな」


「うるさい。役得だ」


 目覚めてしばらくハルカさんといちゃついた後、神々の塔に詰めていた仲間達に囲まれていたタクミをと出迎えた。

 けど、タクミが出現したよりも、オレが起き出した方が注目されていた。


 『ダブル』にとっては、任意で誰かが来ようと当人たちに関係ないけど、理由はなんであれ一度ドロップアウトもしくは強制退場させられた者が戻った事の方が重要だった。

 『帝国』の方には、この数日オレは過労で寝込んでいる事になってたので、その回復を喜ばれた。

 そして『帝国』の龍巣母艦の飛行甲板で、別れの宴会と延び延びにしていた魔物への勝利の祝勝会となった。


 また、その後に最後の頼みを、空軍元帥とマーレス第二皇子が行う事になっている。

 空軍元帥はこの場にいる『ダブル』のうち、必要ない者と望まない者以外全員の妖人化。

 対象者は20人ほどいるけど、全く問題ないそうだ。

 しかし『帝国』側の申し出により、条件を満たすだけの魔力を持つ者も妖人化する事になる。

 こちらは30名ほどで、『帝国』人の方が多かった。


 またギリギリまで近くの『ダブル』が来るのを待ったけど、日が落ちても誰も到着しなかった。その前に現実の方で『間に合わない』という連絡があった為、この場に居る者の妖人化を行ってもらった。

 もっとも、来ようとしてたのは疾風の騎士か竜騎兵なので、多分必要もない魔力総量の持ち主達だろうという事だった。


 一方、マーレス殿下の一番の願いは浮遊大陸の崩壊を防ぐ事だったけど、物理的な事は『世界』は出来ないので無理だった。

 そして話し合った末、浮遊石に関する知識の全てという事になったけど、単に知識を魔法使いの爺さんなど数名に刷り込まれただけで、願いには含まれなかった。


 結局、『ダブル』の願いの一つと同じように、魔法を7人の魔法使いにもらって終わった。

 それでも、幾つもの遺失魔法も含まれているので、十分な成果と言って良いだろう。

 そんな事を聞いているうちに宴会となった。



「神々の塔への到達、願いの成就、魔物の殲滅に乾杯!」


「「乾杯!!」」


「また、ここに至るまでに倒れた者達を悼んで献杯」


「「献杯」」


 マーレス殿下の音頭取りで、乾杯と献杯、祝い葬いの双方の盃を掲げる。

 そしてそのあとは、立食形式の気軽なパーティーとなった。

 何しろ偉い人は大らかなマーレス殿下だけで、『ダブル』も大勢参加してたからだ。


 けどこの宴会は、延ばしに延ばしてたものであるのと同時に、別れの宴でもある。

 明日には、『帝国』の船は邪神大陸の地皇の聖地か『帝国』本土に帰るし、オレ達は大巡礼の次の目的地に向けて、太平洋を横断する旅に出る。


 それ以前の問題として、神々の塔から明日の朝に追い出されてしまうというのも大きい。

 本当なら今日の夕方でまる一週間だけど、塔の中に入らないのなら半日程度の猶予は見てくれるとの事なので、明日朝に出発という事にしたのだ。


 

「俺達も相伴に預かって構わねえのか?」


「当然ですよ。船をよく守ってくれてましたからね」


 そう言って酒瓶をホランさんの木製のジョッキに注ぐ。

 「なら、遠慮なく」と豪快に杯を空ける大柄な狼獣人は、この旅の間に尻尾の数が4本から5本に増えていた。

 それだけ魔力総量が増えたという事で、激戦続きだった事を雄弁に伝えている。

 尻尾の数だと、部下の獣人3名も3本から4本に増えている。

 更に言えば、シズさんの尻尾の数も5本が6本へと増え、伝説的存在にまた一歩進んでしまっていた。


 そして獣人達の側では、フェンデルさん達矮人、ドワーフ達がそれこそ遠慮なく酒樽を独占して飲みふけっている。

 この人達がいないと、船の運航ばかりか普段の整備、壊れた時の修理などがおぼつかない。

 レイ博士とスミレさんがある程度カバーできるけど、こうした縁の下の力持ちがいないと、船、飛行船という複雑な道具は動かせない。

 そしてそのドワーフ達は、オレ達の船から持ち込んだルリさんの料理に舌鼓を打っている。

 おかげですっかり籠絡されてしまった風だ。

 もはや船内でルリさんに逆らえる人はいないだろう。

 主に胃袋の面で。


「すいませんね、料理作ってもらって」


「ん? かまへん、かまへん。料理作るんは半分ウチの趣味やからな。それに『帝国』から食料分けてもろたから、多少でもお礼も返しといた方がええやろ」


「好評みたいですね」


「そうでもないねん。『帝国』人って空の上に住んどるせいか、海のもんは評判今ひとつなんよな。鰹節とか昆布の出汁は、和食の真髄やのに」


「ルリは、料理にこだわりありすぎるのよ」


 そう言ってルリさんにしなだれかかるのはハナさんだ。

 すっかり出来上がってる。


「みんなに美味しい顔して欲しいやろ。ハナも飲んでばっかりやのうて、ちゃんとつまみも食べてや」


「食べてるわよ。そのせいで、お酒も進みすぎて困ってるのよ」


 全然困ってなさそうだけど、これほど羽目を外しているのには訳がある。

 オレ達の船で、唯一ノヴァへの帰国を決めているからだ。

 もっとも、飲んでいる原因の一つは、オレの視線の先で頭の上の耳をトロンとたれさせている。

 その横ではいつものようにケタケタと陽気に笑う妹さんも、むしろ酒を飲むのを煽っていた。

 明日は二日酔い確定だろう。

 他のオレ達の仲間とオレ達の船に乗る『ダブル』の女子達も、女子会というには雄々しい感じで騒いでいる。


(君子危うきに近寄らず、ってやつだな)


「よう、兄弟。全員見て回ってるのか?」


「一応、領主だし船長なんで」


 数歩退いたオレに声をかけたジョージさんの側には、オレ達の船に乗る男性勢がほぼ揃っている。

 心なしか、女子達と比べて勢いがない。


「その上剣豪だもんな」


「なんですレンさん、その剣豪(アルミス)って?」


「『帝国』の奴らが言ってたぞ。上級悪魔や大型龍を一刀で倒す豪剣の主。あれこそ剣豪だって」


「オレのは魔力に任せて戦ってるだけですから、剣豪とか言われても恥ずかしいですよ」


「だが、魔力相殺だっけ? アレは魔法以外で初めて見るし、凄い技じゃないか」


「単に『世界』からの貰い物ですよ。魔物相手に凄く便利ですけどね」


 ヒイロさんの言葉に、うまく肩を竦められたと思う。

 それにオレの見るところ、剣豪ならマーレス殿下だし、ヒイロさんは英雄候補とかってイメージだ。

 ラノベとかにありがちな「剣聖」みたいなキャラは、今の所アクセルさん以上に相応しい人には出会ってない。


 ちなみにヒイロさんのお仲間は、オレの周りの『ダブル』に多い自分の名前由来じゃなくて、洋風のどこか厨二病っぽい感じの名前ばかりだった。

 しかし洋風か厨二病っぽいのは、『ダブル』ではむしろ主流だ。


 オレ的には、自分の元の名前と同じか近い方が、とっさの時に意識しやすいし反応もしやすいと思うけれど、特に問題ないのかもしれない。

 もっともオレの場合、成り行きで自分の名前をそのまま使っているのだから、誰かの名前に何かを言えたもんじゃない。

 そんな風に名前の事を思っていると、少し赤ら顔なレイ博士が視界に入った。

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