第121話「レベルアップ確認?(2)」
そして翌日、現実の方はまだ誰かと会う予定もないので特に事件もなく、こっちのことに集中することができた。
オレの体も本調子に戻ったようで、朝試しに体を動かしたりハルカさんと稽古をつけたりして、状態も十分確認できた。
「新しい剣の調子も良さそうね」
「ああ、前のより軽いし扱いやすい」
「じゃ、ちょっと実験してみる?」
「魔力相殺の?」
「ええ、すぐに使うことがあるかもしれないでしょ」
彼女の言う通りだ。
あと出来れば、切れ味も試したいところだ。
「確かに。けど、魔力相殺って言ってもなあ、ハルカさんの攻撃魔法を切ったりするのか?」
「それはまだ危険でしょうから、こうしましょう」
彼女はそう言うと、いつもの防御魔法の『防殻』を自身にかける。
この魔法は体表面ではなく、対象者の空間を中心に球形に近い形でに効果を及ぼすものだ。
「ハルカさんごと切るって、なんか嫌なんだけど」
「稽古でいつも斬り結んでるでしょ。私の剣に向けて剣を振り下ろすついでに魔力相殺の実験すれば、危険もないでしょう」
「なるほど、頭いい!」
「いや、それくらい簡単に気づくでしょ。ていうか、気付いてよ」
彼女のジト目のツッコミを、ハハハと軽く誤魔化し笑いで逃げると、一転して真剣な気持ちに切り替える。
オレの表情を見て、ハルカさんの顔と態度も真剣さを一気に高める。
「行くぞ」
「ええ、来なさい。こっちも返り討ちにするぐらいの気持ちで行くから、手加減しないでね」
「ハルカさんに手加減とか無理だって」
そう言いつつ剣を大上段に構え、先日のように魔力を切ることをイメージする。
そして剣の方に自分の魔力が流れていくのを確かめつつ、一気に剣戟を見舞う。
剣戟はなるべくいつもの稽古のように、実際の戦闘を前提とした動きで挑む。
彼女の方も、ただ棒立ちではなく腰の位置を下げて身軽に動けるような姿勢だ。
しかも向こうから斬り結ぶように前進すらしてきた。
その気迫に当てられて躊躇(ためら)いなく振り切ったオレの剣の剣先からは、剣が描く円弧状に魔力の塊のようなものが出現し、シャボン玉を一瞬で真っ二つにするように『防殻』の魔法を一瞬で切り裂いていった。
剣そのものは彼女の剣に逸らされていくが、そこで終わりではなかった。
生き物のような動きでそのまま俺の剣を完全に反らしてしまうと、オレの体は無防備となってしまう。
そして次の瞬間には、喉元に切っ先が突きつけられた。
「技を出す時、スキができるみたいね」
「そ、そうみたいだな。まだ能力を出すことを意識してしまう」
「その辺は要修行ってところね。能力自体は自分では上手くいっていると思う?」
ハルカさんの言葉に対して少し考えるが、それで答えが出るものでもない。
「どうかな。比較する情報がないから、正しいのかも分からないな」
「それもそうか。まあ、未見の能力を一朝一夕で自在に操れるわけもないわね」
「だな」
「じゃ、朝食までガンガンいきましょうか」
強い笑顔でそう言うと、彼女は間合いを取り直して剣を構える。今度は盾も使うらしく、全力で掛ってこいと態度で示していた。
その後、稽古を終えて屋敷へと戻る時、別方向からシズさんとボクっ娘もちょうど屋敷に戻るところだった。
「おつかれー。そっちはどうだった〜? 魔力相殺の実験したの?」
「まあ、使い始めならこんなもんでしょ、ってくらいにね」
「使うことはできるんだな」
「ハイ、制御とか加減はまだまだですけど」
「シズの方は?」
「ああ、少し驚いている」
シズさんは、ボクっ娘に見てもらいながら、新しい体の慣らしと装備品の能力の確認、さらに自分自身の魔法能力自体の試しをしていた。
そしてシズさんの得意魔法分野は気温変化、ぶっちゃけ炎系魔法なので安全のため川の方で試していたのだ。
「驚くって?」
「人だった時より、基礎能力がかなり高くなっている」
「それは身体能力? 確かに獣人は人より身体能力は高いものね」
「そうだな、体もかなり身軽になっていると思う」
「つまりそれ以外ってことですよね。やっぱり魔力ですか?」
オレが5本の尻尾を見つつ質問すると、シズさんが思いの外深刻な顔で深く頷いた。
ボクっ娘も、「驚いたよー」な顔をしている。
「人だった時の魔力はAランクあるなしで、高位の魔法は知っていても実験以外でほとんど使えなかったのに、この体だと何でもできそうだ」
「それは凄いわね。第五列も?」
「ああ、十分に。ところで、ハルカの知っている尻尾が沢山ある獣人で、一番尻尾が多いのは何本で、どれくらいの能力があった?」
「私の知る限り4本が最高。魔力はAランクってところだったわ。同じ4本でも身体に全振りってのもいたけど、やっぱりAランクくらいだったと思う。けど、6本という人もいるらしいわ。伝説の中だとそれ以上も」
それでシズはどうなんだと、ハルカさんは少し挑戦的とも取れる目線を向ける。
「となると、この体の魔力総量はSランクに匹敵するだろうな。しかも一度の解放量の上限が人よりも大きい」
「やっぱりSランクだったんだ。オメデトー」
「気軽に言うわね」
「まあ、ボクはヴァイスがいる時点でSランクだから、同格が増えて嬉しいくらいだよ」
「Sランクで何か問題あるのか? 強いのが悪いみたいな感じだけど」
そう聞くと、三人が三人とも微妙な表情を浮かべる。
「悪いというより面倒ってところね」
「私の場合獣人だから、彼らの国やテリトリーに行かない限りは大丈夫だろう」
「面倒って?」
「能力が高いと、こっちの世界の人から勇者みたいな事を求められたり、『ダブル』からは嫉妬半分で能力に相応しいことをしろって突っつかれるんだよね」
「レナは?」
「ボクらは、嫌なら飛んで逃げればいいから気は楽だね」
そう言って、手を飛行機っぽい形にしてピューっと飛び去る仕草をする。
「レナらしいな。それで『ダブル』のSランクって、シュツルム・リッターとドラグーンだけなのか?」
「その二つの職の半分くらいだね。他にも何人かいるよ」
「空を飛ぶ人を入れても、『ダブル』全体の1%以下って噂ね」
「詳しくは分かってないんだ」
「まあ、個人情報って奴? ぶっちゃけ、みんな面倒が嫌なのよ」
そう言ってハルカさんが肩を竦める。
まあ、そりゃそうだろう。夢の世界でまで色々責任押し付けられたくないだろう。
そんな事を思っていると、3人から視線を向けられている事に気付いた。
「ん?」
「他人事じゃないわよ」
「えっ? オレはまだSランクとかないだろ」
「効果的なユニーク持ちも、似たような扱い受けるのよ」
思わぬ設定が出てきた。いや、設定とかじゃないけど、そこまで珍しいとは思わなかった。
「マジかー。じゃあ、なるべく使わないほうがいいな」
「それ、下手したら宝の持ちぐされだよ」
「慎重に使えば大丈夫だろう」
「そうね。とりあえず、自分の中で切り札ってことにしときなさい」
「了解。ぽんぽん使わないようにするよ」
本当に分かっているのかなーという目線を受けつつ、屋敷の扉をくぐる。
食事をとったら、すぐにもヴァイスで出発だ。
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