第116話「レベルアップ?(2)」

「ラスボスを倒してお宝ゲットしたし、普通ならみんなで勝利の宴会って流れなんだけど、酒場もないからそうもいかないし、祝勝会はまたいずれってことでいいかしら」


「そうね。マリとはゆっくり話したかったけど、またの機会ってことで。けどしばらくは、ランドールに滞在していると思うわ」


「そうなの?」


「ええ、あの獣人を故郷に送るなり身の振り方も決めてあげないといけないから」


「相変わらず厄介ごと抱えるのが好きね」


「まあ、性分みたいなものだから」


 二人が互いに苦笑気味に笑いあう。

 こういう所に、仲の良さというか信頼関係が垣間見える気がする。


「決まりだね。それとアクセルさん、あの飛龍どうする? ボクが『帝国』の商館に届けようか?。善意で返すんだから、『帝国』も悪さはしてこないだろうし。

 それと、ネコババするのは、『帝国』の癖が付きすぎてるから止めた方が良いよ」


「そうだね。国で預かるより、神殿に一時的に預かってもらって『帝国』に返還する方が角が立たないだろうね。私も後で神殿向けに一筆したためておくから、お願いできると助かるよ」


「りょーかーい、まっかせて」


 そこでレンさんが、小さく咳払いをして視線をあまり目立たないように持って帰ってきた『帝国』兵が身につけていた装備類へと向ける。

 全員の視線も、自然そちらへと向く。


「じゃあ次の問題だけど、葬った人たちのアイテムだけど……」


「ヤバい量だよな」


「下手な古代遺跡よりも凄いお宝になりますよね」


「けど、魔法物品は魔物鎮定の為の共有の財産だから、一緒に埋める訳にもいかなかったものね」


 マリアさん達が口々に感想など口にして行くが、後ろめたさが少し口調に現れていた。

 それについてはオレ達も同感と思いきや、二人は少なくとも表情には出ていない。

 そして一番普通の表情なのがアクセルさんだった。


「あちらでも少し説明しましたが、我が国が接収したら後々国際問題になる可能性もありますので、報償の一部と思って自由人である皆さんで分配してください。

 誰も何も知らないし、見なかった事になります。

 それに『帝国』だろうと、戦場で手にした物に文句を言う事はないでしょう」


 そこから手に入れたアイテムなどの話になる。


 なにしろ、オレ達が倒したもしくは埋葬した『帝国』兵は20人近くに及んでいて、埋葬用の物品として幾つかの品を一緒に埋めても相当量のアイテムを手にする事ができたからだ。

 しかも兵士一人当たり数点ずつ装備していたのでマジックアイテムは豊富で、中には相当の業物も含まれていた。


 さらに言えば、アンデッドが装備したままだった旧ノール王国の兵士や魔法使いの装備品も幾つかある。

 目立つものはアクセルさんを通じてアースガルズ王国に渡されることになるが、こちらも少なくない数になる。


 具体的には、大剣、両手剣、両刃剣、長剣、短剣、手槍、長槍、弓、盾、魔法の杖、様々な鎧、ローブ、マント、各種魔法装飾品、護符、魔石などなど数十点に及ぶ。

 そして大国の精鋭部隊が装備していたものだけに、並の冒険で手に入る量を大きく上回っていた。

 これにノール王国で亡者になっていた人の所持品が十点ほど加わる。


「なあサキ、この中に『帝国』の宝物とかないよな」


「大ざっぱな鑑定しかしてないから分る訳ないでしょ」


「見た目だけど、少なくとも有名なものは無かったと思うわ」


「獣人さんも同じように言ってたよ。大丈夫だろうって」


「分配の優先は直接戦ってもいるハルカ達ね。私たちは王宮内で何もしてないから、残り物でいいわ」


 和気藹々とした中でも、マリアさんの言葉にはしっかりとした線引きをしている。こういう時には、守るべき暗黙の了解といったものがあるのだろう。

 だから、全員に聞かせるように口にしている。

 しかしオレ達からすると、少し引け目がある。


「私達も殆ど何もしてないようなものだけど、獣人の補償分も欲しかったから助かるわ」


「にしても、これだけ装備してて『魔女の亡霊』に勝てなかったんだな。この剣のここ、オリハルコンだぜ」


 ジョージさんが大きな剣を手に取る。そしてこれ欲しいと目が語っている。


「強かったからねー。ボクらもマジでヤバかったし」


「オレらだったら全滅してたろうな。やっぱ、あんたら凄いな」


「かなり無謀だったと、我ながら思うけどね」


 そんな雑談をしつつ、物品の分配をしていく。

 そうなってしまうと、みんな手慣れたもので、故人が持っていた事を気にする感じはない。


(主のいないマジックアイテムは天下の回りもの。不特定多数全員の共有財産とはよく言ったものだ)


 それでも言い訳がましく、そんな事をつい思ってしまう。


「売ったらヤバい金額になるだろうな」


「汎用品は売ってもいいけど、一品物は下手に売ったら足が付いて『帝国』に目を付けられそうね」


「だよな。まっ、こうして俺の手にきたんだし大事に使うさ」


 と、この辺りから、それぞれが気になったアイテムを手に取り始める。


「ボクはこの大弓欲しいな。これ矢がなくても、魔力を込めて弦を引けば魔法の矢が出てくる実体とのリバーシブル・タイプだよ」


「消費魔力多そうだな。俺には無理だ」


「このローブと杖は、あの獣人用にいただくわね」


「ハルカ、自分の分は?」


「欲しいタイプで今以上のものはなさそうだし、追加で持てるアクセサリー系か護符あたりでいいわ」


「じゃあ、こないだのドラゴンライダーの鎧を持っていって」


「えっ、いいの。あれも値が張るものよ」


 そんな事を聞きながら、オレも気に入った刀身の太い大剣を貰うことにした。

 それは一見今までと同じアダマンタイト製だけど、一目で分かるほどの業物だった。さらに一部に凄く貴重なヒヒイロカネを使っていた。

 そうした事よりも、今までの剣以上に体にしっくりときた。


 他にも身につけるタイプの魔法装飾具を数点もらったので、装備全体が格段に進歩した。鎧も今よりずっと良い物を仕立て直す前提でもらった。

 そうして物品を分け終わると、さらに次に移る。


「あと、手に入れた龍石も、国からもらう報償以外としてもらっていいんだよな」


「ええ、もちろん倒した者の正当な報酬です」


「あ、でも、誰が何もらう? 前のも合わせて決め直すか?」


 そこからしばらく龍石の分配になった。飛龍のものでもチャージ型の魔石として高額取引されるという龍玉と龍核は、最初に2つずつ、ドラゴンゾンビの分が3つずつ、合計10個あるので全員に1つずつでも余る。


 結局、魔法職のハルカさん、マリアさん、サキさんが1セットずつもらい、あとは1つずつもらう。その後売るなり持ち続けるかは当人次第だ。

 龍核は一度知識や情報を吸い上げると、龍玉より劣るチャージ型の魔石となるので、その状態で売るのもありだ。


 加えて、神殿の近くで倒した2体の諸々については、すでにアクセルさんの部下が解体を始めていた。

 そしてドラゴンの素材ついては、倒した者としてアクセルさんに登録してもらって、後で分配金を得ることになる。


 7人で2匹分なので、これだけでもちょっとした財産になる。

 また、王都内のドラゴンゾンビや、他でも倒した飛龍についても順次同様の措置を取る予定だった。

 生きている1体については『帝国』次第だ。普通なら十分な報償がもらえるはずだ。


 あと、地下遺跡で大量に見つけたチャージ型の魔石の分配もしてしまう。

 古いという点で希少価値があるので、売ればかなりの金額になると思われた。こちらは分配すると1人あたり4つから5つになる。


 5つずつオレたちがもらって、残りはマリアさんたちが取った。

 この魔石はマリアさんたちは少し遠慮したが、いてくれたからこそ道中も安心できたし、王宮まで難なく入れたのだから、遠慮する事は無いと言って受け取ってもらった。


「オレら、こんなにもらっていいのか? 売れないアイテム除いても、お宝全部合わせたら優に2、3年は遊んで暮らせる額だぞ」


「バカジョージ。半分は他のメンバーにも分配するに決まってるでしょ」


「え? じゃあオレたちの取り分もっと少なくても……」


 言い切る前に、マリアさんにビシッと指差される。


「ショウ君、君たちは『帝国』軍、魔女、巨大ゴーレムと、普通倒せないような大物ばかり倒したんだから、本当ならもっと分け前を要求するべきなのよ」


「すいませんマリアさん」


「いや、そこ謝るとこじゃないでしょ」


「まあ自分の無知に対してって事で」


「あとでチュートリアルしとくわ」


 オレの常識から出た言葉は、マリアさんのマジ突っ込みの前に粉砕された。他の人も苦笑気味だ。

 どうやらオレが間違っていたらしい。

 気持ち的にちょっと解せないが、納得するしかないのだろう。


「ほどほどにしてあげてね。で、今日はどうする? ここで一泊してく? 軽く飲むぐらいは持ち合わせているわよ?」


 マリアさんの表情が、僅かに飲みたいと主張していた。

 久しぶりに友達と会った上に危険を乗り越えたのだから、その想いは当然なのだろう。


「どうしよう。マリとはゆっくり話もしたいけど、獣人の娘も気になるのよね」


「えーっと、ヴァイスなら日のあるうちに村に戻れるよ」


「4人も乗れるの?」


「飛ぶだけなら全然平気。脚で牛を抱えて飛ぶくらいだからね」


「それなら戻って、ちゃんとした場所で休んだ方がいいわよ。ハルカたちは、私達よりずっと激しい戦闘してるんだし。そこの従者様なんて、中身ボロボロなんでしょ」


「分かります?」


「動きが壊れたロボット状態だからな」


 ジョージさんの半分ジョークな言葉にマリアさんたち全員にうなずかれては、頭をかくしかない。

 けっきょく、オレたちは一度ランドール村に戻ることになり、2、3日静養したらドラゴンの事などの事後報告なども兼ねて、もう一度この神殿まで来ることになった。



「荷物は積み込んだ? ちゃんと乗った? それじゃ、夕日に向かって帰ろうか!」


「いや、夕日だと逆だろ」


 ボクっ娘の指示でちゃんと神殿まで戻っていたヴァイスに乗り込み、夏の高緯度地域特有の長い長い日が完全に落ちる頃にはランドール村に戻ることができた。


 とはいえここは『アナザー・スカイ』だ。夜になってもかなり明るい。

 しかもこの日は、宵の口当たりはまだかなりの高度に巨大な月が輝いていた。

 迷いの月も、相変わらず不気味に周囲を照らしている。



 そしてその下で、オレ達は身体の疲れや癒しきれていない負傷も忘れたかのように、勝利の宴にしゃれ込んた。

 いや勝利の宴ではなく、シズさんが悪夢から解き放たれた事を祝っての内輪だけのささやかな宴会だ。


 しかし、すべてが予想以上にうまく収まった事で、みんな上機嫌だった。

 特に長い長い悪夢から解放されたシズさんは、その開放感からか本来のシズさんの性格から考えられないほど騒いでいたのではないだろうか。

 アクセルさんの家の一室を借りたのだけど、大迷惑だった事だろう。


 そしてオレ自身も、色んな事があったので今までで一番騒いだだろうし、何をしたのかもあまり覚えていないし、かなりの醜態をさらしたと思う。


 おかげで、話したかったこと話さねばならないことは、翌日以降に持ち越しとなってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る