第3話 迷いの樹海を彷徨えば ①

 まだ小一時間も歩いていないのに、もちろん舗装された道なんてある訳もないので、さらさらで綺麗が自慢の真っ白のボクの毛は泥に汚れて見る影もなくなっていた。

 この樹の森は不思議なところで、何度かとおちゃんが連れてってくれた森とは全然違うんだ。大好きな車で30分ほどのあの森なら、季節を問わずに小鳥の囀りやら虫の鳴き声が五月蝿いくらいに聞こえていたのに、ここでは真逆でボクの草を掻き分ける音くらいしかしやしない。命の気配がまるっきり感じられないのだ。

 話し相手がいないというのは退屈を通り越して淋しくて虚しくて、ボクにとっては耐え難い現実だった。まだ目醒めて2時間程度でこれなのです。不安は胸一杯にボクを苛み押し潰そうともしている。

 わお~ん...。

 情けない遠吠えは大木に遮られて、きっと遠くには届いていかないのでしょう。生まれつきボクは喉が弱いので、か細い声しか出せないのだけれど。

 ポチャンという音はボクが誤って水溜まりを踏んでしまった音なのです。渇いた喉を癒すために舌をつけたのだけども、不味い泥の不快感を招いただけでした。何処かに綺麗なお水があることを期待して先に進むしかないのでしょう。

 しかし陽の光すらろくに届かない暗い森の中で、見渡しても一面焦げ茶色の図太い幹が生え並んでいるだけでした。だから方向感覚なんて既になくしていて、それでも導かれる方に従って駆け抜けるだけなのでした。

 導く何かは分からないのだけれども。

 

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