第4話 西へ(2)

 3人はサイレスシティまでの平原を歩いていた。この日も平原は静かだった。のどかな田園風景が広がる。その先には3人が目指すサイレスシティが見える。


「相変わらず静かだね」


 サラは昨日のことを思い出した。突然魔獣が襲い掛かってきたからだ。サラは静かな時だからこそ警戒していた。


「油断できないな」


 マルコスも警戒していた。


 突然、魔獣が襲い掛かってきた。昨日と同じ奴だった。3人はすぐに魔獣に変身した。


「またか」


 マルコスはあきれた。


「何度も出てきやがって、やってやろうじゃないか」


 サラは腕をまくった。


「覚悟しなさい!」


 サラは炎を吐いた。敵の体に火が点いた。


「食らえ!」


 マルコスは鋭い爪で何度もひっかいた。ひっかかれた魔獣が倒れた。


「覚悟!」


 サムは透明になって、敵に向かって体当たりした。


 魔獣は魔法で火柱を起こし、サラは焼き尽くそうとした。だが、ドラゴン族のサラにはほとんど聞かなかった。


「とどめだ!」


 サラは鋭い爪でひっかいた。魔獣は倒れた。


「昨日もこんな感じで襲い掛かってきたの」


 サラはため息をついた。サラは昨日のことを思い出していた。


「そうか」


 サムは深く考え込んだ。


「神龍教が関わっているんかな?」


 マルコスは考えた。


「わからない」


 サラは首をかしげた。


「また出やがった」


 サラが驚いた。間もなくして、別の魔獣が襲い掛かってきた。


「氷の力を!」


 サムは魔法で敵1匹を氷漬けにした。氷漬けにされた魔獣は倒れた。


「しつこいぞ!」


 マルコスは鋭い爪でひっかいた。左腕をひっかかれた敵は痛がった。


「何度戦っても結果は一緒よ!」


 サラは氷を吐いた。氷の息を浴びた魔獣は倒れた。


「ガオー!」


 残った1匹はマルコスに向かって氷を吐いた。マルコスは強いダメージを受けた。


「へへへ・・・」


 サムは敵に近寄り、顔をなめ回した。敵は震え上がった。


「とどめだ!」


 マルコスは鋭い爪でひっかいた。敵は顔をひっかかれた。


「覚悟しなさい!」


 サラは鋭い爪でひっかいた。残った魔獣が倒れた。


「昨日に比べて、襲い掛かってくる魔獣が多くない?」


 サラは思った。


「うん。僕もそう思う」


 マルコスもそう思っていた。


 襲い掛かってくる魔獣は、昨日に比べて強いし、多い。だが、サムが加わったことによって、戦闘が楽になった。まだ攻撃魔法が下手で、実践で使えないものの、サムはサラよりも回復魔法や補助魔法が得意で、実践で使えるほど得意だ。魔法で敵に状態異常を起こし、時には自分を含めた3人に追加効果を与え、戦闘を有利にして、敵を簡単に倒すことができる。


 その直後、再び魔獣が襲い掛かってきた。


「まただわ」

「しつこい奴め!」


 マルコスは腕をまくり上げた。マルコスは炎を帯びた爪でひっかいた。敵の体に火が点いた。ひっかかれた敵は慌てた。


「とりついてやる!」


 そう叫んで、サムは敵1体にとりついた。敵は少し気を失い、すぐに意識を取り戻した。だが、敵の表情が変わっていた。敵は狂ったように敵を攻撃し始めた。サムがとりついて敵を操っているからだ。


「覚悟しなさい!」


 サラは炎を吐いた。敵は強いダメージを受けた。


「うっ・・・」


 敵が倒れた。


「食らえ!」


 敵にとりついたサムは自らを攻撃した。1匹の敵が倒れた。サムは敵の体から分離した。敵は意識を失っていた。


「えいっ!」


 マルコスは炎を帯びた爪でひっかいた。意識を失った敵は顔をひっかかれた。敵は意識を取り戻した。


「とどめだ!」


 サラは氷の息を吐いた。残った敵は凍り付き、倒れた。敵は全滅した。


 サムは、ゴースト族特有のとりつきを使って敵にとりつき、相手を攻撃することもできた。2人は、そんなサムがとても頼もしいと思った。


「サム、すごいな。敵にとりつくことができるなんて」


 マルコスは感心した。


「ありがとう」


 サムは少し照れていた。


 ふと、マルコスは何かを思いついた。


「あっ、そうだ!いっそのこと、僕にとりついて、テストでいい点とらせてくれよ」

「ちょっと、じゃあ、サムがテスト受けられないじゃない。そんなことしたら、先生に言っちゃおうかな?」


 ずるいことを考えたサムを見て、サラが突っ込んだ。


「えへへ」


 マルコスは少し舌を出した。


 3人は再びサイレスシティに向かって歩き出した。だが、間もなくして、再び魔獣が襲い掛かってきた。


「まただわ」


 サラはすっかりあきれていた。


「覚悟しろ!」


 マルコスは腕をまくり上げた。


「炎の力を!」


 サムは天に向かって人差し指を立て、叫んだ。その時、敵の周りに火柱が起こった。敵は炎に包まれ、敵の体に火が点いた。敵は慌てた。


「食らえ!」


 サラは毒の息を吹きかけた。敵は毒を食らい、息が荒くなった。


「しつこいぞ!」


 マルコスは鋭い爪でひっかいた。


 と、マルコスは反撃の一撃を食らった。


「くそっ・・・」

「終わりだ! 大地の怒りを!」


 サムは敵に向かって人差し指をさした。その時、大きな地響きが起こった。敵は大きなダメージを受けて、全滅した。


「サラ、すごいな。いろんな息を吹きかけることができるんだから」


 マルコスは感心した。ドラゴン族のサラが、炎に氷に毒に、様々な息を吹きかけることができるからだ。


「ありがとう」

「やっぱりドラゴン族は『魔獣の王』だな」

 サムも感心していた。


「ありがとう」


 サラは笑みを浮かべた。


「さぁ、行こうか」


 気が付けば、サイレスシティはすぐそこだった。3人は前を向いて歩きだした。サイレスシティまであと少しだと感じると、3人の足は軽くなった。




 3人はサイレスシティにやってきた。サイレスシティは、サイレス王国の首都で、人口はおよそ50万人。ハズタウンやアインガーデビレッジよりもはるかに人口が多く、とても賑やかだった。様々なビルが建ち、住宅よりも集合住宅が多く建っていた。


 行方不明になった母は、この街で働いていたという。


 また、サイレスシティには港があり、その港には多くの貨物船や旅客船が行き交っていた。リプコットシティへのカーフェリーはここから発着する。


 また、港の近くには、この国で最も大きく、乗降客の多い駅、サイレス駅があり、ここを起点に各地に線路が伸びている。かつてハズタウンを通っていた線路も、ここを起点としていた。その線路跡は今でも、路地裏に残っているという。


 この日も多くの人で賑わっていた。特に賑わっているのが、この街の中心にある市場だった。この市場には、港で獲れた魚や農村で栽培された穀物や野菜が並ぶ。中でも今日は、きれいな服を着た家族連れが多かった。観光目的か、あるいは船に乗ろうとする人々だ。


 突然、ある男が声をかけてきた。その男は、昨日話しかけてきたワイバーンと同じペンダントを付けていた。


「君、強くなりたいと思ってる?」


 男の問いかけに、サラは答えた。


「はい。」


 男は嬉しそうな表情だった。


「世界を征服したいと思ってる?」

「そこまでは考えていないわ」


 全く興味のなさそうなサラに向かって、男は熱心に言った。


「素晴らしいことだよ。世界が君のものになるんだよ」

「そんなの手に入れるより、幸せな毎日が欲しいわ。そんな大きいもの、興味ないわ」


 サラは冷たそうな表情だった。


「なら、いいよ」


 男は立ち去った。サラはその男をにらみつけた。怪しく思ったからだ。


 その表情を見て、マルコスが聞いた。


「サラ、どうしたの?」

「あの人たち、何だか怪しいわ」

「どうして?」


 あんな素晴らしいことを言っているのに、どうして断ったんだろう。彼らに何か因縁があるんだろうかと思った。


「昨日、アインガーデビレッジで人間を飼っていた魔界統一同盟の人と同じペンダントを付けていたのよ」


 サラは昨日のことを思い出していた。


「ひょっとして、あの人も、魔界統一同盟の人?」


 マルコスは話しかけてきた男を指さした。


「そうかもしれない」


 サラは首をかしげた。


「その人、神龍教の信者だよ。あのペンダントは神龍教信仰の証として、これを常に付けることを義務付けられているんだって」


 サムはそのペンダントのことを知っていた。


「じゃあ、あの人、神龍教の信者?じゃあ、アインガーデビレッジで会ったワイバーンも?」


 サラは驚いた。


「あのペンダントを付けてたの?」


 サムはサラに聞いた。


「うん。だとすると、魔界統一同盟は、神龍教と同じ人物がやっているのかな?」


 サラはますます魔界統一同盟を怪しく思うようになった。


「だと思う」


 サムは神龍教のことを考えていた。


 3人は路地裏を歩いていた。道の脇には水路が流れていて、時々ゴンドラが通っている。このサイレスシティには多くの水路があり、『水の都』と呼ばれている。その美しい街並みを見に、多くの観光客が来ている。川沿いには、所々におしゃれな外観の常夜灯があり、水の都の雰囲気を醸し出している。


 10分ほど歩いて、3人はサイレス港に着いた。サイレス港には、多くの家族連れが船の切符を求めて、切符売り場に並んでいた。


「すごい人」


 サラは行列を見て、驚いた。切符を買うまでどれだけかかるんだろう。でも、世界を救うためには買わなければ。


「大変だな。指定席、取れないかもしれない。だとすると、カーペット席になるかもしれないな。サラ、マルコス、カーペット席でも、大丈夫?」


 サムは聞いた。自分はカーペット席でも大丈夫だと思っていた。


「大丈夫だよ」


 マルコスは答えた。世界を救うためなら、こんなことになってもいいと思っていた。


「私も大丈夫」


 サラは答えた。世界を救うのはもちろんのこと、母を救うためならこうなってもいいと思っていた。


 3人は切符売り場に並んだ。行列は、50m以上も続いていた。




 30分ほど並んで、ようやく切符売り場に来た。


「すいません、リプコット港まで、指定席こども3枚、お願いします」


 サムは、カーフェリーの切符を注文した。


「ごめんね、指定席、もう売り切れたの。カーペット席でもいい?」


 切符売り場の女は頭を下げた。今は夏休みで、利用する人が多く、指定席は満席だった。


「それじゃあ、カーペット席で。マルコス、サラ、大丈夫だったよね」

「うん」

「私も大丈夫」


 結局3人は、カーペット席しかとることができなかった。この場合、椅子ではなく、カーペットで寝泊まりすることになる。指定席だけを狙っていて、なかなか取れずに時間を食っていたら、王神龍が世界を支配して、人間が大変なことになるに違いない。一刻も早く、王神龍のいると思われるアカザ島に行かなければならない。


 3人は埠頭にやってきた。船着き場には多くの人がいて、その向こうにはこれから3人が乗る船が出発を待っている。とても大きな船で、高さは20mぐらいだ。


 3人はカーフェリーの中に入った。カーフェリーの中にはたくさんの家族連れがいて、楽しそうな声が聞こえてくる。3日後、リプコット大陸に着いたら、何をしようか話し合っている家族が何人かいる。彼らは、魔界統一同盟という団体が、世界を支配しようとしていることを、全く知らなかった。楽しい夏休みのことしか考えていなかった。


「すごい人」


 マルコスは驚いた。これほど多くの人だかりを見たことがなかった。


「楽しそう。お父さんがいる子供たち、うらやましい」


 サラは少し悲しくなった。父に抱かれた記憶がないからだ。サラの父はドラゴン族で、母がサラを生んで間もなくして癌で亡くなったという。サラに似た赤いドラゴンだったという。


 カーペット席のある部屋に行かず、3人は船首にやってきた。船首には、多くの家族連れが出航の時を今か今かと待っている。船首の下には、車や荷物が積み込まれている。桟橋を挟んだ向かい側には、別の船があり、貨物列車で運ばれてきたいくつものコンテナが船に積み込まれている。その周りには、腕の太い人がたくさんいる。おそらく貨物船だろう。もっと積み込むコンテナがあるのか、横の岸には多くのコンテナが置いてある。これから載せる荷物だろう。出航はまだ後のようだ。


「あの船、何だろう」


 サラは向かいの船を指さした。何回かサイレスシティに行ったことがあるが、見たことのない船だ。


「わかんない」


 サムは首をかしげた。


「怪しいわね」


 サラは目を鋭くした。


「あっ、あの印!」


 突然、サムがあるものに気が付いた。


「えっ?」


 マルコスは驚いた。


「あの印、神龍教の印だよ」


 サムは指をさした。サムはその印に見覚えがあった。両親が神龍教の信者になった時にもらったバッジに刻まれていた印だ。その印は、神龍教の信者であることを表すもので、神龍教の所有する乗り物にも付けられているという。


「神龍教の船かな?」

「たぶんそうだろう」

「ますます怪しく感じるわ」


 サラは不安になった。ひょっとしたら、この中に、捕らえられた人たちがいるのでは? サラはそのコンテナの中が見たくなった。


「ひょっとしたら、そうかもしれない」


 マルコスも不安になった。


「私、船に乗ったことないの。とてもわくわくしちゃう」


 サラは船に乗ったことがなかった。母が船酔いしやすいからだ。サラは、カーフェリーに乗れて本当に嬉しかった。母がいなくなった悲しみを忘れて、いい気分になっていた。


「僕もわくわくするよ。これからどんなことが起こるのかな?楽しみだね」


 マルコスはこの先に何が起きるんだろうと思っていた。これからの大冒険に心をはせていた。

 サラは船首の向こうを見ていた。船首の向こうには、どこまでも続いていそうな大海原が広がっている。この海の向こうには何があるのだろう。サラは考えていた。


 出発が近づき、3人は埠頭の見えるデッキに向かった。見送る人々に手を振ろうと思ったからだ。埠頭には多くの人が集まっていた。船を見送ろうとする人々だった。


「すごい人」


 見送る人を見て、サラは驚いた。


「みんな、デッキで手を振るんだろう」

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