第4話 西へ(1)
次の日のことだった。ハズタウンは今日も晴れだが、昨日ほどの晴天ではない。所々に入道雲が広がっている。だが、天気予報によると、今日の天気は快晴だ。近いうちに夕立が起きそうな空模様だった。
町を行く人の中には、傘を持っている人もいた。彼らは、これから遠出する人々だ。だが、使っている人は1人もいい。まだ雨が降っていないからだ。彼らは夕立のことを考えて持参していた。
今日は夏休みに入ってから初めての週末だ。今日から長期休暇を取った人は、家族とともに長旅に出る。彼らは、とても楽しそうな表情をしていた。
中でも子供たちは特に楽しそうな様子だった。鉄道や船、路線バスを使って旅に出るからだ。彼らは楽しい夏休みを満喫しようとしていた。だがその時、彼らはまだ気づいていなかった。この幸せに、間もなく終わりが訪れることを。それによって、人間が多大な苦しみを味わることを。
朝7時ごろ、サラはぐっすりと眠っていた。いつもは午後10時ぐらいに寝るが、今日は午後9時ぐらいに寝た。アインガーデビレッジに行き、様々な敵と戦って、いつもより疲れていたからだ。
寂しさを紛らわすために、午後8時ごろに家にやってきたマルコスは午後11時ぐらいに寝た。サラが寝てからおよそ2時間、1人でテレビ番組を見ていた。その後はリビングでぐったりとしていたという。
サラの部屋に、1人の少年がいた。少年は息がとぎれとぎれだ。かなりの距離を走ったのだろう。汗をかいていた。半袖は汗びっしょりだ。
「ねぇ、サラ、起きてよ。起きてってば」
少年はサラをゆすった。
突然、サラは誰かにゆすられているのを感じた。マルコスだろうか? でもこの声はマルコスではない。だとすると、誰かな? サラは思った。一生懸命起こそうとしているのならば、何か大変なことがあったに違いない。そう感じて、サラは眠たい目をこすり、目を開けた。そこにいたのは、異能一緒に寝たマルコスではなかった。目の前には、自分と同年齢の少年が立っている。リサは、その少年を見て、ひょっとしたら、サムソン・マック・アダムス、通称サムではないかと思った。その少年は、黒いロングヘアーで、とてもハンサムな顔をしていた。
「もしかして、サム?」
サラは驚いた。誰かが来ると思っていなかった。サラはその時思った。これはただ事ではない。もしその男の子がサムだったら、サムの身にも大変なことがあったに違いない。
「ああ、サムだよ」
やはりその男の子はサムだった。
サムはサラやマルコスの同級生である。サムもまた魔族で、ゴースト族だ。
ゴースト族は、死んだ人のなれの果てだと思われている種族である。だが本当は死んだ人のなれの果てではない。そんなゴースト族は、透明人間のように姿を消し、戦った敵の使う技を覚える能力を持つ。また、ゴースト族は、そのかわいらしい容姿から人気がある。
サムはサラより多くの回復魔法や補助魔法を知っており、使うことができる。現在は攻撃魔法を習得中で、使えるようになったものの、まだまだ上手ではなく、実際に戦うときは使わないという。
「サム、汗だくじゃない」
サラは起き上がり、クローゼットからスポーツタオルを取り出した。サラは汗だくのサムにスポーツタオルを差し出した。
「はい、これで汗を拭いて」
「ありがとう」
サムは軽く頭を下げ、サラからスポーツタオルをもらった。
「おはよう。ん? サムじゃないか。どうした? こんなに汗をかいて」
下で寝ていたマルコスが、眠たい目をこすりながらやってきた。マルコスは眠そうな声だった。
「ほんとほんと、どうしてここにいるの? まさか、サムも大変なことになったの?」
サラは聞いた。サラはサムが心配になった。
サムは息を切らしながら、何があったのか話した。
「うん。俺、家から逃げてきたんだよ。なんてったって、変な所に連れていかれるから。お父さんとお母さんが、神龍教っていう、変な宗教団体に入ったんだ。それで、お父さんとお母さんに、お前も入れと言われたんだ。だけど、僕は断ったよ。そしたら、明日の朝、教団の本部に連れて行く、嫌でも入れてやる、って言ってきた。だから僕は昨晩、逃げてきたのさ。今、町中の人が僕を探しているよ。捕まったら、お父さんやお母さんに連れ去られるだろうな。あんな怪しい宗教団体なんかに入りたくないよ。なんか、変なことをされそうで、怖いよ」
やはりサムは夜逃げをしていた。実はサムは、昨日の夜もハズタウンにいた。だが、誰にも見つからないように、透明になって隠れていた。そして、サラの家で寝て、翌朝サラに相談しようと考えていた。
サラは驚いた。昨日、アインガーデビレッジを襲った奴らが言っていたからだ。
「その宗教団体、昨日アインガーデビレッジを襲った奴らが口々に言ってた。そんなとこに連れられなくてよかったね」
昨日のことを知って、サムは驚いた。
「そっか、やっぱり悪い奴らだったんだ。連れて行かれなくてよかった。その宗教について、僕の知っていることを話すよ。その宗教団体は、王神龍っていう神を崇めるらしいよ。世界平和のために人間を捕まえて、厳しい労働をさせたり、王神龍の生贄にしようと企んでいるらしいよ。世界の平和を祈るって言ってるけど、ちっとも平和なんて考えてないと思うよ。だって、人間をみんな捕まえて、険しいところで労働させたり、王神龍の生贄にしようとたくらんでいるんだもん。それに、噂によると、いつの日か、世界を作り直すことによって、人間を滅ぼして、新しいエデン、つまり創世記を築くらしいよ。だから、怪しいと思っているのさ。絶対、何か恐ろしい企みがあるはず。ところで、昨日、アインガーデビレッジを襲った連中は何か言ってたか?」
サラは昨日会った奴らのことを話した。
「私、昨日、アインガーデビレッジに来た時、魔界統一同盟のワイバーンたちが口々に話していたの。彼らが、王神龍の命令で、この世界の平和のために、人間を1人残らず捕虜しなければならないと言っていたわ。王神龍は神の生まれ変わり、この世界に平和をもたらすための存在として、神に召されたお方だ、とも言っていたわ。その人たち、アインガーデビレッジに来て、家に勝手に侵入して、人間を捕まえていたわ。で、神龍教の思想に反発したら、襲い掛かってきたの。私たち、何とか倒すことができたけど、今度はその親分のニーズヘッグが襲い掛かってきたの」
それを聞いて、サムが神龍教のパンフレットを見せた。
「もしかして、ニーズヘッグって、この人かな?」
「そうそう、こいつ! こいつも何とか倒すことができたわ。まさかパンフレットに載ってたとは」
パンフレットを見て、サラは驚いた。昨日倒したあの男だった。
「えーっ、この人だったの?」
サムも驚いた。まさかサラがこいつと戦っていたとは。
「逃げ延びた子供たち、とっても怖がってたよ。でも、捕まえた人間たちを、険しいところで労働させること、初めて知ったわ。捕まえた人間たちって、こんな事させられるのか。ひょっとしたら、あの時捕まった人間も、険しいところで労働させられるんじゃないかな?」
サラは昨日の子供たちのことを思い出していた。
「もし入っていたら、洗脳されて、僕も人間を捕まえるようになるのかな?」
サムはおびえていた。
「そうなっていたかもしれないわ。私、人間をさらうサム、見たくない。私、人懐っこいサムが大好き」
サラはサムを抱きしめた。
「ありがとう」
サムは微笑んだ。
「新しいエデンを作る計画がある? そんな話、初めて聞いたわ。ひどい話ね。」
サラは驚いた。奴らがこんなことを考えているのが信じられなかった。
「やりすぎだよ。人間を更生すればいいだけのことなのに」
マルコスは彼らを心配していた。
「私もそう思うわ」
サラもマルコスの意見に同感だった。
「僕もそう思うよ。あと、僕、昨日から思っていた。王神龍を倒しに行こうって。何とかして王神龍の野望を食い止めないと。このままでは世界が大変なことになると思うんだ。人間が絶滅するかもしれないし、王神龍が世界の神となるかもしれない。だから、一緒に王神龍のぶちのめしに行こうぜ。でも、1人だけでは物足りないから、サラやマルコスも一緒に戦って。お願い」
サムは強気だった。サムは人間が大好きで、友達のほとんどが人間だった。自分を可愛がってくれる人間がいなくなるのが嫌だった。もっと可愛がってもらいたいと思った。もっと人間と友達が欲しいと思っていた。そのために、王神龍を倒し、人間の滅亡を防ごうと思っていた。
「うん、そうしようぜ! 王神龍を懲らしめてやろうぜ!」
マルコスも強気だった。マルコスは猪突猛進な性格で、何事にも自ら進んで頑張ろうとしていた。
「ありがとう」
サムは笑顔を見せた。
3人は、王神龍を探し、倒すために、家を出ることにした。3人とも、初めての大冒険だと思っていた。母がいなくなって、悲しみに暮れていたサラも、すっかり立ち直っていた。これからどんなことがあるんだろう。3人はわくわくしていた。
「でも、王神龍って、どこにいるの?」
サラはサムに聞いた。王神龍を倒すために、サラは王神龍の居場所を知りたかった。
「僕、わからないよ。でも、その手掛かりになるようなことは知っているんだけど」
サムは少し焦っていた。手がかりが全くわからないからだ。
「その手掛かりって?」
マルコスはサムに聞いた。マルコスは目を大きくしていた。
するとサムは、王神龍を探し出す手掛かりになりそうなことを離した。
「お父さんやお母さん、あの宗教団体に入ってから、変な行動をするようになった。夜8時ごろになると、アカザ島に向かって変な呪文を唱えている。だから、王神龍はアカザ島にいるのかな?」
アカザ島は、海の向こうの大陸の端にあるインガーシティにある小島で、昔は人が住んでいたものの、無人島になっている。
「そうかもしれないね。じゃあ、アカザ島に行ってみよう。あそこ、海がとってもきれいだから、泳ぎたかったんだ」
マルコスは嬉しそうに答えた。
遊ぶことしか考えていないマルコスを見て、サラが突っ込んだ。
「マルコス、あんた、人間の命運がかかっているかもしれないのに、こんなことをしていてもいいの?」
「ごめんごめん」
マルコスは下を出して頭を下げた。サムは少し笑った。
「そうと決まったら、とっとと行こうぜ」
サムは嬉しそうだった。
「うん。じゃあ、2階に行って準備をしてこなくっちゃ。ここでちょっと待ってて」
サラは元気だった。サラは旅の支度をした。
しばらくして、サラが支度を済ませた。サラは背中にリュックを背負っていた。中には、着替えや歯磨きセットなどが入っていた。
「お待たせ。準備できたよ」
「しゅっぱーつ!」
3人はアカザ島を目指すことにした。そこに行けば、神龍教や王神龍に関する何かがわかるかもしれないと思ったからだ。
「そうだ、サラ。悪いけど、背中に乗せてよ。空を飛んでアカザ島まで行きたいな。そのほうが早く着くだろ?」
部屋から出たところで、サムはサラにお願いした。大海原は広く、距離がある。歩いていくのはどうやっても無理だ。船に乗るか、ドラゴンのような背中に人を乗せて飛ぶことのできる生き物に乗っていくしかないだろう。
「うん、そのほうが早い。それに、金がかからないから」
それに釣られるようにマルコスもお願いした。
「マルコス、サム、ごめん。私、人を乗せて長い距離を飛ぶこと、まだ無理なの。もっと大きくなったら乗れるようになると思うわ」
サラは頭を下げて謝った。サラは人を乗せられるほどの力がまだない。大きくなったら、多くの人を乗せられるようになるらしいが、まだ少女のサラには無理だ。
「まだ無理なのか」
サムは残念がった。
「うん、本当にごめんね」
サラは頭を下げた。
「じゃあ、船で行こうぜ」
マルコスは強気だった。
3人は、サラの背中に乗ってアカザ島まで飛んでいくのを諦めた。そこで3人は、船と大陸横断鉄道でアカザ島に行くことにした。3人は決意した。ドラゴンの背中に乗っていくよりはるかに長い旅になる。でも、それで諦めているようでは、世界が危ない。このままでは人間が絶滅してしまうかもしれない。一刻も早く、何とかしなければ。
3人は、サラの家を出た。だがサムは、見つかるとまずいので、町の外に出るまで姿を隠すことにした。サムは、神龍教に連れて行かれるのを警戒していた。
3人は、街の中を慎重に歩いていた。町の人はサムがいることに全く気付いていなかった。噂によると、今日から捜索願が出たそうだ。サムは、そのことをとても心配していた。今晩から今朝にかけて、サラの家に入るまで姿を隠していた。捕まったら、両親がやってきて、神龍教に連れて行かれると思っているからだ。
3人はハズタウンを後にして、アカザ島を目指して旅に出た。それとともに、サムは元の姿に戻った。町の人に見つかり、捕まる心配がなくなったからだ。アカザ島に行くためには、サイレスシティに行き、港から出る船に乗ってリプコットシティに行く。そこからほど近いリプコット駅で大陸横断鉄道に乗り換えて、インガーシティにある大陸横断鉄道の終着駅、インガー駅に行かなければならなかった。そこで3人はまず、サイレスシティを目指した。サイレスシティに行くためには、昨日同様、雑木林を通らなければならない。
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