第3章 異変(3)

 帰り道の途中、サラは今日のことが気になっていた。魔界統一同盟のことだ。


「ねぇ、魔界統一同盟のこと、どう思う? 私、そんなの悪い奴らにしか見えないの。人間を強制労働させて、そんな悪いことしなくてもいいと思うの。マルコスはどう思う?」

「僕もそう思うな。そんなことしなっくても人間は良くなれると思う。いくらなんでもめちゃくちゃだと思う」


 2人は雑木林を歩いていた。2人は不安だった。襲い掛かってきた時みたいに、とても静かだからだ。


「また出てこないか心配だわ」

「何度来てもこの拳でやってやろうじゃないか」


 心配そうなサラに対して、マルコスはやる気満々だった。また出てきたらやってやろうと思っていた。


 突然、再び魔獣が襲い掛かってきた。


「くそっ、また出た」


 マルコスは驚いた。


「しつこいわね」


 サラは不敵な表情だった。


「何度でも相手してやるぞ!」


 マルコスは腕をまくり上げた。


「えいっ!」


 サラは鋭い爪でひっかいた。ひっかかれた敵は倒れた。サラは以前戦った時より強くなっていた。


「この野郎!」


 マルコスは鋭い爪でひっかいた。敵は痛がった。


「覚悟しなさい!」


 サラは炎を吐いた。もう1匹の敵が倒れた。2人は敵をすべてやっつけた。


「はぁ…、また襲い掛かってきたわね」


 サラはため息をついた。


「懲りない奴らだな」


 マルコスはあきれていた。


「早く何とかしないと」


 サラは連れ去られた人間が心配だった。


「うん」


 サラは空を見た。もう夕方だ。不審者に誘拐されないうちに早く帰らなければ。


「さぁ、早く帰りましょ」


 突然、アインガーデビレッジにいたのと同じワイバーンが襲い掛かってきた。2人は先制攻撃を受けた。


 ワイバーンはマルコスに毒針を突き刺した。


「うっ… また毒針を刺された」


 ワイバーンは相変わらず尻尾の毒針で攻撃してきた。ここでも体に毒が回った。


「ガオー!」


 もう1匹のワイバーンも尻尾の毒針で攻撃してきた。しかしさらには聞かなかった。


「癒しの力を!」


 サラは魔法ですぐに毒を消した。


「大丈夫?」

「うん、ありがとう」


 マルコスは笑顔を見せた。


「許さねぇ!」


 マルコスは鋭い爪でひっかいた。右腕をひっかかれたワイバーンは右腕を押さえた。


「しつこいわね!」


 サラは炎を吐いた。1匹のワイバーンが倒れた。


「いい加減にしろ!」


 マルコスは炎を帯びた拳でアッパーを与えた。ワイバーンは強いダメージを受けた。


「これでそうだ!」


 サラは鋭い爪でひっかいた。ワイバーンにはあまり効かなかった。


「ガオー!」


 ワイバーンはマルコスに向かって炎を吐いた。マルコスは大きなダメージを受けた。


「とどめだ!」


 それにもめけず、マルコスは鋭い爪でひっかいた。もう1匹のワイバーンも倒れた。2人はようやく敵を倒した。


「あいつらも手下かな?」


 サラは息を切らしていた。戦闘で疲れていた。


「たぶんそうだろう」


 マルコスも息を切らしていた。マルコスも戦闘で疲れていた。




 2人はハズタウンに戻ってきた。既に日が暮れていた。公園は静かだ。遊んでいた子供たちは既に家に帰っていた。


 ハズタウンを見て、2人は驚いた。魔界統一同盟に占拠されていたからだ。だが、今さっきアインガーデビレッジで見た魔界統一同盟の人々と違っていた。どうやら別の部隊のようだ。魔界統一同盟は、2人はアインガーデビレッジに行っている間に、別の部隊がやってきて、人間を根こそぎさらっていった。彼らは、アインガーデビレッジにいた部隊同様、家を根こそぎ調べ、人間がいないかどうか探していた。


「マルコス、大変。もうこの町にも魔界統一同盟の手が。ニーズヘッグの率いている部隊とまた別の部隊かな?」


 サラは驚いていた。


「まさかこんなに早くやってくるとは。とりあえず、変なことされたくないから、ここからは魔獣に変身して家に帰ろうぜ。そういえば、お父さんは大丈夫かな?お父さん、人間だから、捕まえられないか心配だな」


 サラとマルコスは魔獣に変身して、家まで移動した。人間の姿をしていると、魔界統一同盟の人に怪しまれるからだ。


 サラは家に帰ってきた。ドラゴンの姿だったため、全く怪しまれなかった。サラは大広間の明かりをつけた。だが、そこにいるはずの母の姿はいない。いつもだったら、いるはずの母。しかし今日もいない。普通だったら、サラは落ち込むが、落ち込まなかった。必ず母を見つけ出すと決心したからだ。


 この日の夕食は、近くのコンビニで買ってきたお弁当だ。サラは、母が残業でいない時しかこれを食べなかった。コンビニの弁当を食べるたびに、サラは母のいない寂しさを感じていた。母が作ってくれる料理はどれもおいしい。その料理には、おいしさだけでなく、愛情もある。愛情があるから、母の料理はおいしい。しかしお母さんはいない。サラは静かに弁当を完食した。

 夕食を食べ終わると、サラは2階に上がっていった。1階には誰もいなかったので、サラは1階の電気をすべて消した。と、サラは寂しそうに振り返った。その時、サラは母のいない生活の寂しさを改めて感じた。本来だったら、下に母がいて、明かりがついたままだからだ。サラは肩を落とし、下を向いた。


 サラは2階の部屋にやってきた。サラはベッドに横になり、丸くなった。今日1日、いろんな敵と戦って、疲れていた。


 風呂に入るため、サラは1階に下りてきた。サラは風呂を沸かしたことが何回かあった。母が遅番で、なかなか家に帰らない時に風呂を沸かしていた。そのため、サラは風呂の沸かし方をよく覚えていた。


 風呂から出てきて、2階の部屋に戻ってきたサラはうつぶせになってテレビを見ていた。戦っていない時のサラは、とてもかわいらしい表情をしていた。尻尾を先を小刻みに振っていた。目が大きく、まるでぬいぐるみのようだ。強烈な炎を吹く凶暴なドラゴンとは思えない。


 サラはテレビを見ることにした。ドラゴンの姿のサラは尻尾でリモコンをつかみ、その先でボタンを操作した。テレビでは、ニュースやバラエティ番組がないか探した。ニュースでは、家族連れが旅行に向かう様子がやっていた。サラは、自分が母と旅行に行けないことを残念がった。サラはまた母のことを考えた。サラはチャンネルを変えた。バラエティ番組では、人気の芸人が体を張ってめちゃくちゃなことをするシーンがやっている。サラはその番組を食い入るように見て、笑っていた。母がいない寂しさを、笑って紛らわそうとした。


 そのバラエティ番組が終わった。見ているときは忘れることができたのに、終わると、また母のことを思い出してしまった。結局サラは、母のいない寂しさを紛らわすことができなかった。サラは再びチャンネルを変えた。だが、どのテレビ番組も面白くない。とても子供が見るようなものではない番組や、ニュース番組ばかりだ。つまらないと感じたサラは、テレビを消して、部屋の明かりを消して、寝ることにした。サラはベッドの上に丸まった。ドラゴンとして寝るときは、丸まって寝るのが普通だった。今日は、いろんな魔獣に襲われて、彼らと戦って、とても疲れていた。


 とても静かな夜だった。母がいないだけで、夜がこんなに違う。サラは、母のいない寂しさを改めて知った。サラは目を閉じた。その寝顔はとてもかわいらしかった。




 その時、マルコスがやってきた。風呂に入った直後なのか、髪が濡れ、汗びっしょりだ。サラは驚いた。今頃マルコスは家に帰ってくつろいでいるはずだと思った。その時、サラはマルコスの身にも何かがあったに違いないと思った。


「マルコス、どうしたの?」

「今日は一緒に寝よう」


 マルコスの声はとぎれとぎれだった。マルコスは走りつかれてしゃがんだ。サラは心配そうにマルコスを見ていた。


「マルコス、どうしたの? お父さんと一緒に寝ないの? まさか、連れ去られたの?」

「うん」


 うつむきながら、マルコスは何があったのか話した。


 サラは驚いた。アインガーデビレッジの人間同様、マルコスの父も連れ去られたからだ。ここにも確実に魔界統一同盟の魔の手が迫ってきているのを感じた。


「やっぱり。大丈夫だった?」


 サラはハズタウンに住む人間が心配だった。アインガーデビレッジの人間に続いて、マルコスの父も。だとすると、ハズタウンに住んでいる人間はみんな連れ去られたかもしれない。


「大丈夫だよ。僕がこれで落ち込むわけないよ。それよりサラのことが心配だよ」


 サラはほっとした。


 サラはマルコスと一緒に寝ることにした。サラもマルコスも母以外と一緒に寝たことがなかった。誘われたことも、自分から誘ったこともなかった。サラはその時、マルコスの愛情を感じた。母がいなくなって落ち込んでいるサラを必死で励まそうとしている。そして、私の元気な笑顔が見たいというマルコスの思いを強く感じた。


「よかった」


 サラは笑顔を見せた。すっかり立ち直ったマルコスを見て安心したからだ。


「それより、サラ、母がいなくても大丈夫?」


 マルコスは心配そうに聞いた。


「まだまだ大丈夫じゃないけど、前よりかはよくなった。今日、アインガーデビレッジに行ってきて、いい気分転換になったわ。ありがとう」

「どういたしまして」


 マルコスは笑顔を見せた。サラは目を閉じた。


 それを見て、マルコスは1階に下りた。1階で深夜番組を見ようと思ったからだ。リビングは真っ暗だ。マルコスはテレビをつけ、深夜番組を見始めた。この時間帯は子供が見るような内容ではない番組ばかりだったが、マルコスは好んでそれを見ていた。


「ぐっすり寝たいから、テレビをつけないで。ごめんね」


 突然、サラは2階から降りてきた。深夜番組の音が気になったからだ。


「うん」


 マルコスはテレビの電源を消した。


 サラは目を閉じ、眠った。サラは、母と一緒にいる夢を見ていた。とても幸せそうな顔をしていた。


 その時、2人はサラの部屋にゴースト族の少年がいることに気が付いていなかった。その少年は、透明になってサラの寝顔を見ている。1階にいたマルコスもそのことに気づかなかった。




 その夜、アインガーデビレッジでは、魔界統一同盟が残っていた人間1人残らず捕まえていた。魔界統一同盟は村の人間が寝ているところを襲った。寝ていた人間たちは、突然のことに驚き、戸惑った。彼らは悲鳴を上げた。しかしその声は、誰にも聞こえないように見えた。殺されると思って怖がっていた。その間に彼らは捕まり、村の入り口に停まっていたコンテナに乗せられた。コンテナの中には、今日捕まえたアインガーデビレッジの人間たちが収容されていた。


「全員載せたか?」


 コンテナを積んだトレーラーの運転手が運転室から顔を出した。そのトレーラーの運転手も、魔界統一同盟の幹部だ。


「はい、載せました。」

「よし、行こう」


 捕まえていた男は助手席の扉を閉めた。


 扉を閉めるとすぐに、トレーラーはアインガーデビレッジを出発した。コンテナはトレーラーに引かれてサイレスシティにある魔界統一同盟の秘密基地に送られる。そのコンテナは秘密基地に停まっている貨物列車に積み替えられる。そのコンテナを乗せた貨物列車は翌日、サイレスシティの港に運ばれる。そこで貨物船に積み替えられ、海の向こうに運ばれる。彼らはその海の向こうの険しい集落で強制労働させられる予定だ。その労働はとても厳しく、過労死することも少なくない。だが、彼らはそんなことを気にせずに、厳しい労働をさせていた。過酷な労働をさせるのには、ある理由があった。だが、その理由は、魔界統一同盟や神龍教の上層部しか知らなかった。




 人間の入ったコンテナを積んだトレーラーがサイレスシティの秘密基地にやってきた。そこは廃墟と化した工場のようなところで、幽霊が今にも出てきそうな雰囲気だ。彼らは、海の向こうのアフールビレッジまで運ばれる予定だ。


 トレーラーが倉庫のような建物に入った。その倉庫には線路が敷かれていて、車も列車も入ることができる。倉庫の中にはコンテナ車が留置されている。そのコンテナにも捕まった人間が乗せられている。トレーラーが入るとすぐに、入口のシャッターが閉められた。何をしているのか見られたくないからだ。その中には何人かの幹部がいて、フォークリフトを使ってコンテナ車にコンテナを載せていた。


 アインガーデビレッジからやってきたコンテナは、コンテナ車に積まれた。コンテナ車の先頭には1台の電気機関車が連結されていた。その電気機関車には金色の龍の模様が描かれていた。その龍はマーロスを連れ去った男のペンダントの龍とよく似ていた。


 明け方、コンテナを積んだ貨物列車は港に向かって走り出した。運転しているのは、魔界統一同盟の幹部だった。団体の秘密を守るためだった。

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