第3話 夏の夜は意地でも渡さない
「流れ星に3回願い事を言えれば願いが叶うって言うでしょ」
「ああ、そうだな」
「でもそれ肉声ってルールはないよね?」
「はい?」
「まずスマホで願い事を3回唱えて録音する」
「録音」
「その音声データを10倍速で再生する」
「10倍速」
「机上の計算では、およそ0.2秒で3回に到達するのだ」
「度が過ぎるぞ」
いつもの10分間休憩。
私の渾身の願い事成就作戦を須田に告げると「ロマンはどこだ」と不満気だったので、この作戦は棄却した。
「ロマンより願い事じゃない? 億万長者なりたいでしょ」
「そんな手軽に億万長者になろうとすんな」
「億万長者になったらミスド大人買いしたいよね! トランクケースいっぱいの札束見せて、ここからここまでください、みたいな!」
「いや多分それ店ごと買えると思うぞ」
私が身振り手振りで話して、猫背のだらけた姿勢でツッコむ須田。
この時間のために私は学校に来ているとも言える。
……彼に会いたくて来ているとも、言える。
「そうだ、明日の星灯祭なんだけどさ」
「あ、ねーねー汐崎さん!」
須田と待ち合わせの計画を立てようとした矢先、名前を呼ばれて私は振り返った。
そこには三人の女子生徒。よく昼ご飯を一緒に食べるメンバーだ。
「汐崎さんってさ、明日の星灯祭どーするの?」
「よかったら一緒に行こうよ! 7時に校門集合なんだけどね」
「そうそう、みんなでかわいい浴衣着てさ! 青春って感じ!」
うっ……!
怒涛のお誘いの波に飲まれて、断るタイミングが無くなってしまった。
もう三人の中で私の参加は決定していて、夜店はどこを回るかの話に移行している。
うう、でもここで流されるわけには……!
「あ、あの」
「――悪い」
後ろから、声が飛んできた。
「明日、俺が誘ったんだ」
振り向くと、顔を上げた須田が三人の女子生徒に真っ直ぐに向いていた。
ずっと話していたのに、彼の顔を久しぶりに見る。
「あ、そうなんだ……そういうことなら」
彼女たちは小声で何かを言いながら、そそくさと逃げるように去っていった。
「……私が誘ったくせに」
「どっちでもいいだろ」
素っ気なくそう言うと、須田は再び机に突っ伏した。
笑みが零れているのが自分でもわかる。
なんだよ、かっこいいじゃん。
「明日、7時に広場ね」
「おう」
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