#47 隠れていたもう一機
【その頃、サヘラは】
森の中を進んだ末に見つけたのは、地平線の先まで広がる海だった。
調査隊のメンバーも驚いている。
ここまで到達した事がこれまでなかったらしいのだ。
「これは、海、と言うのか……大発見だな。
森ばかりが続いていると思ったのだが……」
メンバーの一人が海を見ながら呟いた。
それに応える声もある。
「今日は運が良いな。亜獣がまったく襲って来なかった。
まるでなにかに怯えるように巣の中に隠れているように見えたが……やっと隊長の強さを理解したのだろうか」
「腕っぷしの強さで亜獣が恐がるかね。あ、もしかしたらサヘラちゃんを見て怯えたのかもしれないぞ?」
「なんで私を見て……失礼なっ」
ここに来るまでに打ち解けたメンバーと笑い合っていると、
「お前ら楽しそうに笑っているところ悪いが、すぐに亜人街へ戻るぞ。緊急事態だ」
隊長の、周囲を威圧するような表情。
声をかけづらいが、それほど切羽詰まっているとも言える。
「なにがあったのですか」
「亜人街が襲撃されてる。亜獣、じゃないだろうがな。
人の形をした鉄の塊だと報告を受けた――向こうの状況は良くないらしい。
ロワが今一人で踏ん張ってるから早く向かわないと」
フルッフも心配だが、襲撃されている亜人街も心配だった。
商店街には知り合いも多いし、マスターやシラユキ、裏亜人街のみんなの事も放ってはおけない。
フルッフがもしもこの海を渡ってしまったのならば今の私たちには手のつけようがない。
探索範囲を広げるためにも一度は亜人街へ戻る事になるのだ、ここでフルッフ探しを粘る必要もない。
隊長が戻る準備を完了させたところで、一人が欠けている事に気づいた……タルトだ。
メンバーで名を呼ぶと小さいが応える声がある。
いつの間にか海に落ちていたり……は、さすがになかったが、崖とまでは言えない斜面の下にタルトの姿があった。
こちらを見上げて手を振るタルトは私たちを手招く。
急いでいると分かってはいるが、タルトの隣に見える『それ』を放置もできない。
海に近いこの場所はいつ海が荒れて波に引きずり込まれるか分かったものではないのだから。
「隊長、一緒に戻るとなると俺たちが足手纏いになります。
隊長だけ先に戻っていてください……なあに、問題はありません。
サヘラちゃんとタルト嬢は俺たちで守ります」
「そんな事言って、お前らは『あれ』が気になるだけだろ」
『理由の一端にはあります』
とメンバー全員が答えてテュア隊長は溜息を吐きながらも、
「分かった分かった。……いいか、任せるぞ。なによりも二人を優先しろ、絶対だ」
『はッ』
拳を前に突き出したメンバー全員に隊長は拳を合わせてから、獅子の特性を発揮させる。
身体能力の上がった体で森の中を駆けて行く。
数秒もしない内に隊長の姿はもう見えない。
残された私たちはすぐに周囲を見回し、亜獣の気配がない事を知って斜面を下りる。
「今更だけど、みんなは強いの?」
「おっ、恐いのか? 安心してくれサヘラちゃん。
隊長には及ばないが調査隊に入る事ができているんだ、腕っぷしには自信があるぜ。
まあ、亜獣に勝つには数人で連携して攻撃しないといけないんだがな」
「単体じゃ役に立たないって事ね」
「厳しい言葉だ! その通りでもあるが一部違う。
単体でも役に立つんだ――囮、犠牲。
敗北する事を目的に組み込んでしまえば俺たち単体でも利用価値はじゅうぶんある」
「じゃあいざって時にはお願いしようかな」
「任せておけ。二人を絶対に死なせはしない。隊長との約束だからな」
メンバー全員がうんうんと頷いた。
私の冗談を真に受けている。
いや、そんな爽やかな顔をしないでよ……。
「……冗談だから。誰もこれ以上、欠けないで」
「女の子にそう言われて破る奴は調査隊にはいないねえ」
隊員六人が拳をぶつけ合っている。
彼らにとっての同意の合図なのだろう。
言葉だけではなく行動を起こして誓いを立てる。
テュア隊長がやりそうな事だ。
「サヘラ、これなんだと思う? 蓋が開くんだよねこれ。
……ほら、狭いけど、人一人が入れそうな小さな空間があるの。これも遺物だよね?」
上から見た時は大きくは感じなかったが、いざ近くで見ると『それ』は大きい。
人一人入れるけど、狭いと言う割にはもっとスペースがあってもいいのではないかと思うくらいに余裕がありそうな大きさだが……、
中身を覗けばたくさんのスイッチや埋め込まれた機械でごちゃごちゃとしていた。
人が入らない部分は全て機械なのだろう。
それか頑丈な装甲がかなり分厚いのか。
私が見る限り、これはコックピットなのではないだろうか。
「ちょっと入ってみるね」
中に設置されてある椅子に腰を下ろす。
自然と手元にはレバーがあり、掴みやすいようになっている。
画面はブラックアウトしたままだったが、起動すればつくのだろう。
しかし遺物となると起動は期待できないか……人間が絶滅したのは、あれっ、いつだったか私は知らない。
「三十七年前だ」
隊員の一人が答えてくれた。
思ったよりも遠い昔というわけでもない。
人間が作り出した技術、だよね……これって。
三十七年であれば古いけど動かないほどでもないのかもしれない。
……エネルギーがなければ経年劣化関係なく動かないけど……。
周囲のスイッチを片っ端から押していくと一つのスイッチが当たりだった。
蓋が閉まり、浸透するように光が密室空間を照らしていく。
画面が映ったが、砂埃が邪魔で前がよく見えない……。
見えていても広がっているのは海だけなので支障はないか。
「サヘラっ、大丈夫っ!?」
「え、うん。大丈夫だからガンガン叩かないで、凄いうるさい!」
さっきは片っ端からスイッチを押したけども、起動した今、色々と押すのはまずいだろう。
どれがなにに割り振られているのか分からないのだから、なにが起こるのか予測できない。
「タルト、ちょっと離れてて!」
叫んでからレバーを少し動かしてみる。
動いた振動が感じられても変化がないので思い切って動かしてみたら、地面が盛り上がり左腕が姿を現した。
肩から先が出て、なんとなく全体像が掴めた。
地面に置かれた丸いコックピットだと思っていたが、これは顔だ。
肩があり腕がある。
だったら埋まっている体と足があるはずなのだ。
しかし地面と一体化してしまっているこのロボット、地中から脱出させるのは難しい。
左腕は出せたがいくら頑張っても右腕を出す事はできなかった。
素直に諦めて、とりあえず一旦、外に出ようとしたら画面に映るタルトがロボットの左の手の平に乗っかっていた。
危ないなと思っても私が操作しなければ握り潰される事もないだろうと視線を逸らす寸前で……ぱっ、と。
――タルトの姿が消えたのだった。
「…………え?」
慌ててコックピットから出ようとしたが、閉まった蓋が開いてくれない。
手で押してもびくともしなかった。
スイッチの操作で開けるしかないのだが、そのスイッチがどこにあるのか分からない。
「どうかしたのかサヘラちゃん!」
「タルトが! 消えちゃったの!」
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