#39 号外新聞【決定的証拠と敵の判明】
翌日の事だった。
――油断したッ、と顔を真っ青にさせるのはフルッフだった。
出典は雑誌のたった二ページの記事。
それが大々的に号外新聞で取り上げられている。
私が人間である証拠を提示した上で噂は本当だと報道されていた。
私とフルッフの昨日の会話が、街の拡声器を使ってずっと繰り返し放送されている。
「あいつ……、僕の部屋に盗聴器を……ッ」
昨日のインタビュアーは取材の時にフルッフの部屋に入り、いつの間にか盗聴器を仕掛けていた。
無事にインタビューが終わったと安心した私たちはうっかりと私が人間である事を口に出してしまったのだ。
たった一回、雑談の中で言った言葉をしっかりと拾った盗聴器にも録音機能があり、しかもリアルタイムで送信されていた。
盗聴器を回収する必要がない。
現物はここにあるが肝心の中身は彼女の元に渡っている。
それが言い逃れできない証拠として世に知られてしまった。
言いがかりなら言い訳も立つ。
だが私たちが、私が人間だと認めた上で相談している声を住民が聞かされれば、どんな言い訳も嘘だと思われ弁解の余地はない。
私を匿っているのがフルッフだという事も既にばれているだろう。
そうなるとこの部屋も危険だ。
窓の外を見れば争う気はないが気になると言った野次馬がこぞって集まっている。
投げかけられる言葉は決して優しくはない。
幸いなのは、直接危害を加えてくる者がいない点だ。
だが、それも時間の問題だ。
「サヘラ、ここにいたら袋小路だ。とにかくまずは逃げよう!」
「逃げるって、どこに!」
「裏亜人街だ! 会長ならサヘラが人間だって知ってるはずだし匿ってくれるだろう。
僕はこうなった原因のあいつを問い詰めなくちゃ気が済まない……ッ!」
これだけ騒ぎになっても気持ち良さそうにぐーすか寝ているタルトを叩き起こす。
手加減する余裕もなく平手打ちを何度も浴びせるがまったく起きないんだけどこいつッ!
すると下に集まる群衆が湧いた。
悲鳴にも似ているが確認する間もなく私たちの部屋に突撃したものがあった。
……瓦礫だ。
丸みを帯びた球体に近い大きな瓦礫が部屋の壁を突き破る。
これで終わり、とは思えない。
二発目が風の流れによって迫っていると分かった。
壊れた壁を素通りして天井にぶつかり破壊する。
崩れた瓦礫の落下地点は、私だ。
「サヘラッ!」
フルッフが押し倒してくれたおかげでなんとか小さな瓦礫を避ける事はできたが――、
しかしそこにはタルトがいたのだ。
瓦礫はタルトに直撃している。
「タルトッ!」
「うー、いったい……ッ、誰だこんな乱暴な起こし方をしたのは! 頬がひりひりと痛い!」
「瓦礫のせいだよ!」
さり気なく瓦礫のせいにしておいて、タルトに状況説明をする。
とは言ってもざっくばらんに襲われている事を端的に説明して、これからの目的を伝える。
噂の事も私が人間だとばれてはならない事もタルトは理解している。
……はずだ、多分。
「難しい事は分からないけど、とにかく裏亜人街まで逃げればいいんだね! ――ちょっと待って、もう一発、来るよっ!」
瓦礫の砲撃が息も吐かせぬ間で迫って来る。
衝突音と共にあっという間に部屋は見るも無残な姿に早変わりした。
フルッフの大切な、情報屋としての道具が全て、壊れてしまっている。
「バカッ。……僕が友達よりも道具を優先させると思うのか。見くびるなよ」
最低限の荷物を持って、フルッフはこの部屋に未練の一つもなさそうだった。
「お前たちを失う方が僕にとっては未練だ。こんな部屋、ただの一時凌ぎであって繋ぎでしかないんだ。未練なんかない。
行くぞ――ここを逃げ延びたらまた同じ部屋を作ってやる」
タルトを先頭に、私を挟んでフルッフが後ろをついてくる。
廊下に出たら見知らぬ男たちが待ち構えていた。
「どれが人間だ!?」
「真ん中だ! あいつのせいで……ッ!」
亜人たちが抱える人間への恨み。
私は向けられる恨みの内側を知りもしない。
しかし敵意と殺意だけは私にしっかりと伝わって来る。
悲痛な表情と共に失った家族の悲しみも――。
武器を持ってはいないが関係ない――、
亜人には武器と変わらない特性があるのだ。
「サヘラは悪くないよっ! みんなの大切な人を殺したのは、サヘラじゃないんだから!」
「ああ、もちろん殺しはしねえよ。だが本当に人間なら、おとなしく捕まってくれよッ!」
タルトの言葉も相手の心には届かない。
説得は元から選択肢に入れない方がいい。
「向こうは力づくでサヘラを捕まえるつもりだ。タルト、やらなきゃこっちがやられるぞ!」
「分かってるよっ――みんな、ごめんね!」
タルトは建物の廊下に向けて大口を開け、炎を吐き出した。
大爆発と共に老朽化していた建物自体が崩壊する。
真下に集まっていた野次馬も崩壊に巻き込まれたかもしれない……怪我人が、出たかもしれない。
今だけはその騒ぎに乗じてこの場から離脱する。
「いっ……ッ!」
「サヘラ、どうし――足ッ、怪我したの!?」
タルトに支えられながら落下した時に、瓦礫と瓦礫に挟まれたらしい。
大怪我ではないが捻ったらしくてまともに走れなかった。
そんな私をすぐさま背負い、走り出すタルト。
「待って――待って待ってタルト! フルッフがまだっ!」
「ええっ!?」
フルッフが野次馬をじっと見つめている。
私たちの呼びかけにも反応しないでなにかを探るようにし、やがてなにかを呟いたと思えば、崩壊に巻き込まれ怪我をした野次馬の間をすり抜けて、一人の人物を押し倒す。
その相手は騒動の原因である、昨日のインタビュアーの彼女だった。
「のこのこと、よくもまあこの場に来れたなぁ、お前はッ!」
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