#34 イカサマ・ロシアンルーレット
フルッフがサイコロを転がしている間にも、会話が続く。
「もしも俺がこのゲームを提案しなくとも、お前がどうにかして持ち込んだんじゃねえか?
相手を自分の土俵に上げる……お前はそういうタイプだろ?」
「多分したかもね。でも、丁半ゲームではないかもしれないけど」
「もしも外で馬鹿みたいに力比べをしている奴らに合わせていたら、お前に勝ち目なんてねえもんな。……特性の持たない、お前じゃあな」
「そりゃあね。だって私は、人間だし」
「おっ、あっさり白状するか、こりゃ意外だな。隠し通すと思っていたが」
「いや、フルッフが教えてるでしょ。それに、フルッフを通さなくてもある程度の情報を網羅している気がする。
……フルッフ頼りだとさすがにダサいしね」
「くっくく、俺もそりゃああるぜ、独自のルートがな。それでもお前が人間なのはフルッフからのタレコミだがな」
ふーん、とサヘラからの視線に手元が多少狂ったフルッフ。
責める気はないが友情を疑うような視線に罪悪感が押し寄せてくる。
「お、今度も俺の勝ちだな。いいぜ、今日は運がある」
「……え」
声を漏らしたのはフルッフだ。
ペース良く勝負が回っていた。
イカサマを観察するあまり本来の勝負の先行きすら見えていなかった。
今のところ四回勝負をして、サヘラの白星は最初の一回のみ。
残りの三つの黒星はルール通りの弾丸となって拳銃に込められる。
目の前に並ぶ三丁の拳銃が、サヘラの頭を撃ち抜く可能性があるのだ。
――おい、サヘラ、なにか、勝算があるんじゃ……っ。
心配するフルッフの気持ちは届かず、最初のセット、最後の勝負が行われる。
「私は、半端の半」
「俺は、丁度五回目だからな、丁度の丁だ」
出た目の総数により、結果は丁になった。
最後の弾丸が込められる。
「五丁の拳銃の準備はいいな? それを手元の袋に入れろよ?
そうだな、互いに入れ替わろうか。イカサマをされても面白くねえ」
サヘラと会長は互いに場所を入れ替え、それぞれの拳銃を麻袋に入れる。
中でよく混ぜ、机の上に置き、元の場所へ戻った。
「一丁を選び、頭を狙って引き金を引け……そうだな、どっちから引く?」
「じゃあ、私から」
「待て待て待てッ!」
麻袋に手を突っ込んだサヘラの手を掴んで止める。
馬鹿なのかコイツはと思うしかない。
「お前な、分かっているのか……? 五分の四でお前の頭に弾丸が撃ち込まれるんだぞ!? ここは普通に後攻にするだろ! 可能性は低いが向こうは五分の一で、頭を撃ち抜いて自滅するかもしれないんだ。少しでも死なない可能性を上げるべきだろ!」
「死なない可能性を上げるよりも私は勝つ可能性を上げるべきだと思うけどね」
フルッフの忠告も聞かずにサヘラは一丁の拳銃を選び取る。
引き金に指をかけ、自分の側頭部へと銃口を当てた。
「いいのか? フルッフの言う通りに俺が先攻でもいいんだが……」
「私が先攻でいいよ。先攻だからこそいいの」
先攻だからこそ……?
疑問に思うも、考える間もなくサヘラは引き金を引いた。
カチ、という音が残り、弾丸は発射されなかった。
さり気なく五分の一を引き当てた事にフルッフはほっと胸を撫で下ろし、会長は、ほお、と運の良さに感心した。
次にサヘラは麻袋に入っている二丁めの拳銃を取り出し、躊躇なく引き金を引いた。
「え、おいッ――」
再び、カチッ、という音。
――弾丸は、発射されなかった。
「…………あれっ?」
フルッフは反射的に目を瞑ったが、拍子抜けした音に頭の中が真っ白になる。
五丁の中の一丁が弾を吐き出さないのは分かる。
弾を込めていないのだから。
しかし、残り四丁の内の一丁が弾を吐き出さない理由が分からない。
弾を込めたのはこの目で見ていた。
会長だって確認していた。
込めていなければそこで指摘したはずなのだ。
なのに……、
こうして実際に弾が吐き出されていないのは――なぜ。
「……偶然の不発だろう? 運が良い……わざと二丁めを撃ったのは理解できないがな」
「じゃあ、三丁めは?」
サヘラは繰り返す。
そして四丁めを引き終わったところで、最後の一丁を手に取る事はしなかった。
フルッフも会長も、サヘラの行動から予測する事は同じだった。
一丁を残した。
その一丁には弾丸が入っているから、と予測できる。
――会長とサヘラの集めた拳銃の袋を、すり替えた。
会長の冷静な表情が次第に崩れていく。
まだ取り繕っているが、理解したら体は正直だ。
自分の目の前の麻袋に入っている拳銃の、五分の四に、弾丸が入っているのだ。
「次は会長の番だよ、ほら、早く」
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