#29 作戦開始!

「でも先輩、黒を白に変えるってのは、ちょっと表現はややこしくなっちゃうかも」

「なんでだよ、紅蛙会が、悪党……黒で、俺たちは友達を救おうとする白だろ?」


「そうだけどね。私たちの組織名、黒百合会だからさ。それに友達を救うって大義名分があっても結局安定している一つの街の公的機関を潰して乗っ取ろうってわけだから、やっぱり黒だよ。相手の白を黒に変えて黒百合にするって方が、私たちにはまって、いいでしょ?」


「サヘラ」


 すると、三つ子が私の名を呼んだ。

 タルトから聞いたらしい。

 となると、私の名は多くの人に知られているのかもしれない。


「あなたをボスと呼ぶべき?」

「ううん、サヘラでいいよ。じゃあ、先輩も呼び捨てでいいから」

「いい加減、後輩って呼び名もどうかと思っていたところだ。やろうぜ、サヘラ」


 説得は私と三つ子と先輩、テュア隊長が登壇して行われた。

 結果を言えば誰一人、反対者を出さなかった。

 この状況で言えた者は大した精神力だが。


 言い出してくれた人こそ逃したくはない逸材だが、残念だけどそんな人はいなかった。

 いないから問題である、ってわけでもないのだけど。


 数時間後にタルトが目を覚まし、なにをする気なの、とあのタルトに言われて私は答える。


「フルッフを、助けに行くの」


 タルトは周囲を見回し、ここにいる全員がフルッフを助け出すための仲間だと知り――、

 握り拳と同時に満面の笑みを浮かべた。




 ――作戦が開始される。

 梯子を上って穴を塞ぐ鉄の蓋を押し上げ負け犬通りから帰還する。


 私たちは二つある作戦の一方を任されていた。


 もう一方はフルッフの家族が捕らえられている鉄格子の鍵……もしくは鉄格子を壊せればなんでもいいのだが。

 とにかく家族を救い出せればフルッフが苦しむ縛りをほどく事ができる。


 テュア隊長がタルトに正体を見破られないようマスクをつけ直して、一方のメンバーをまとめて鍵を探しているはずだ。

 その間に私とタルトとその他は、紅蛙会の本拠地に潜入し、下っ端と幹部を会長の元から剥がす事が目的への手段になる。


 会長を一人にする事。

 後は私が――この銃で。


「意外と重たいんだね……」

「お前、よく持てるよなそんな凶器を……」

「そんな事を言ったらタルトはこれ以上の凶器を持ってるよ。特性と言い換えてね」


 腰に巻いたホルダーに銃をしまい、セーラー服で隠す。

 持っている事がばれないように。


 弾は二つしか入手できなかった、と言っていた。

 この銃を持っていたのは三つ子だった。


 どこで手に入れたのかは答えてはくれなかったが、独自のルートでもあるのだろう。


 テュア隊長から貰った簡易的な地図を頼りに紅蛙会の本拠地へと乗り込む。

 手書きで大ざっぱだが、道順に従えばなんとかなる……はず。


 蛇籠会が支配していた時とは違い、会長が大きな建物に住んでいるわけではない。

 ごく普通の建物の一室に会長はいる。

 だから紅蛙会の本拠地と言えばたった三階建ての、周りと変わらない細い建物なのだった。

 ……そのため、暗い事もあり、場所が分かっても見つけにくい。


「はッ、まさかそれが狙いで……っ!」

「おいサヘラ、いやがった――ありゃ下っ端共だな。

 本拠地じゃねえが、この裏亜人街の通路自体、もう紅蛙会の敷地ってわけだ。油断するなよ」


「先輩、勝算は?」

「どうだろうな、俺は信頼があるわけでも口が上手いわけでもねえ。反逆者だって言われて捕まるのがオチかもな」


「でも、やけに自信満々だけど?」

「ああ、期待させるのは不思議と上手いんだ、これが」


 そして、先輩は物陰から出て行き黒マントを被る下っ端たちの元へ近づいた。

 その隙に私たちは監視の目があるはずだった道を素早く通る。

 かなりの大所帯だったが、先輩が引きつけてくれたおかげで一人もばれる事はなかった。


「今、危なかったね!」

「嬉しそうに言わないで……心臓に悪いよこれ……」

「お前ら――なんだ、なんの集まりだこれはッ!」


 ほっとしたのも束の間、ばったりと出くわした下っ端に異常事態だと判断された。

 いや、まだ言い訳は利くか。

 怪しい事この上ないが、苦しくても取り繕えないわけでは……、


 しかし、後ろから跳んだ三つ子が三人で一人の下っ端をノックアウトさせていた。

 一人一人の攻撃力は大した事がなさそうだったが、急所に入ればダメージは倍以上に跳ね上がる。


 というか、やってくれた。

 誤魔化しが利くかもしれなかったのに倒してしまったら――、


 だって近くにはたくさんの下っ端がいると気配で分かっていたのだから。


「――な、なんの真似だこれは! 我ら紅蛙会への反乱だと――、お前ら、負け犬通りの負け犬共か!」


 ほら、こうなった。


『もう負け犬じゃないよ』


 三つ子が耳と八重歯を見せつけ言う。


『負け犬通りの勝ち犬だっ!』


 足音で数が予測できてしまう。

 今ここにいる私たち以上の下っ端がいるし、連絡をされ増援が来れば、数で勝ち目が一気に無くなる。

 しかし好都合とばかりに三つ子は私とタルトに先へ行けと促した。


「増援が来た方がいいでしょ」

「その分、会長はがら空きになるし」

「ここは任せて行って」


 周りの仲間もうんうんと頷いてくれた。

 ――道が開く。


 無理やりこじ開けてくれた道だ。


「うん、分かった。――行くよ、タルト!」


 多くの仲間をその場に置いて、私たちは先へ進む。

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