#24 追跡は二手に分かれて

 見間違いかもしれない、会いたいと思う私自身が見せた幻覚かもしれない。

 だからと言って、どちらも追いかけない理由にはならない。


 追いかけた先の細い通路の行き止まりは遮光カーテンにより塞がれている。

 入り口と同じように切れ目からカーテンを割って外に出る。

 ……外は真っ暗闇、ではなかった。


 点々と吊るされた燭台があり、周囲をほんのりと照らしている。


「でも、空は見えない……」

「うわっ、ほんとだ、星の一つもないね」


 吊るされた燭台で見えるのはその周囲であり、遠くの先は分からない。


「今更だけどさ、亜人街って包囲壁、だっけ……? で囲われているんでしょ? それで亜獣を侵入させないって説明されたけど、空が見えるのは、ダメなんじゃない?」


 上からの侵入を許している事になる。

 だが、すぐに否定したのは追いかけて来たテュア隊長だ。


「許しているわけじゃないな。包囲壁には糸を張る亜獣が棲みついているんだ。そいつにとってあたしらは、食べるのは嫌いで娯楽としても興味の惹かれない対象らしい。ヤツはあたしらを狙う亜獣を狙って包囲壁に巣を作っている。そいつのおかげであたしらは見上げれば空が見れるわけだが――ヤツも完璧じゃあないとは言っておく」


 まるで、過去に亜獣を亜人街に侵入させた事があるとでも言いたげだった。


「空が見えないのは今いた場所と同じで遮光されてるんだ。今度は裏亜人街を丸々囲っているんだよ。音は無理だがこれで裏亜人街で起こった事は表には見えない」


 昼間であれば音のせいでばれそうではあるが、そもそも昼間は活動を自粛している。

 なので音が出たとしても寝静まった夜中であれば、視界の悪さも含めて若者が遠くでバカ騒ぎをしているようにしか思われないだろう。


 表から繋がる隙間通りからさらに奥へ進んでやっと辿り着けるのが裏亜人街なのだ、音も住民に届く頃には勢いがなくなっている。

 ばれていないこれまでの歴史が、街を覆う遮光カーテンの優秀さを証明していた。


 と、自分の保護者代わりが説明してくれているとは知らず、タルトは軽い相槌だ。


「へー。……って、それよりも。サヘラ、フルッフはどっちに行ったの?」

「分かんないよ、こんなに真っ暗だと。音だって聞こえないし……」

「フルッフ……、――フルッフだと?」


 隊長が前のめりになった。

 私の手を引っ張り、顔同士を近づける。


「(フルッフって、タルトの友達のあのフルッフだよな……あいつがなんでここにいる?)」


「(私とタルトはフルッフが紅蛙会に弱みを握られているんじゃないかって思ってここに来たの。さっきの話を聞く限りは幹部の一人っぽいけど……、隊長はなにも知らないの?)」


「(幹部に関してはあたしもまだ全然なんだよ。潜入した後に話を聞いたり、盗み聞いたりはしているが……)」


「二人とも仲良さそうだね。そっちの人は、三つ子とは別だよね……?」


 タルトが隊長に興味を持った。

 フードを覗こうとするタルトをなんとか顔を背けて対処する隊長だったが、その行動はタルトのモチベーションを上げるだけで、やがて二人の速度が上がっていく。

 軽くだが、汗が垂れそうな組手が始まったので隙を見て私は間に割り込んだ。


「はいストーップ。それは後でねタルト。今はフルッフを追ってみよう」

「本当にフルッフなの?」

「ん? タルトにしては珍しい。フルッフかどうかが分からないと動かないの?」

「それもそうだね」


 タルトは指差し、じゃあ私はこっちを探す、と駆けて行ってしまった。

 元から二手に分かれるつもりではあったので手間は省けたが、必然的に私は残った方を探しに行く事になる。


「テュア隊長もタルトの方に行っていいよ、心配でしょ?」

「いや、あたしはお前に着いて行こう」


 どうして? と顔に出ていたらしい私に、隊長が溜息を吐いて言った。


「だってタルトの姿がもう見えないし」

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