#23 見つけた!

 タルトと麺を分け合い腹ごしらえが済み、空になった紙の容器を捨てる。

 フードを被ったままで正体の分からない三つ子も遅れて容器を空にしていた。

 テーブルにつく全員が食べ終わったところで金髪ツンツン頭が偉そうに話し出す。


「偉そうじゃなくて、偉いんだよ。新入りのお世話を任されてる人なんだし」

「でも下っ端じゃないの? こんな雑用みたいな事を任されるって事はさ」

「……新入り、全部聞こえてるぞ」


 まずい、陰口が聞かれた! 

 タルトの声がひそひそ声なのに大きいせいだ。


 若い子も打ち解けさせるなんてさすがですねー、というテュア隊長のフォローでなんとか誤魔化せたようだ。

 下っ端らしいちょろい性格で助かった。

 褒めたら気分を良くし、直前の新入りの失言も忘れてくれる。


 笑みが零れるほどの上機嫌。

 なので先輩の口は回る回る。

 今ならなんでも答えてくれそうだ。


「具体的に先輩の偉さってどのくらいなの?」


 直球で聞いたタルトの質問にも、先輩は嫌な顔せずに答える。


「お前ら二人の想像通りに下っ端だな。組織の末端だよ。でも俺だってそこそこ下っ端の中では慕われてる方なんだからな。組織図を見ると幹部もそう多くはないし……」


 下っ端が多いのが紅蛙会の特徴だった。


 表亜人街の法的組織と言えば市役所であり、街の頭は市長になる。

 裏亜人街の法的組織は紅蛙会となり、街の頭は会長になるのだと先輩は言った。


 裏亜人街での市役所の役割をしているのが紅蛙会なのか……。


 会長の下には幹部が、知られているだけで言えば二人いる。

 会長を常に守っている、戦闘に特化した、正体は見えないが存在だけが先行して知られている人物。

 そして表も裏も網羅した、情報を収集している若い人物。


 私とタルトはそこでぴくんと反応したが、今はまだ声には出さない。

 紅蛙会は会長である男と二人の幹部、と、いるかも分からない他の幹部たちで構成されていると言っていい。

 下っ端は紅蛙会の一員ではあっても、会長は仲間とは認めていないのかもしれない。

 それくらい下っ端と幹部との心の距離は遠く、接する事も少ない。


 下っ端が連絡を取りたくても、誰だが分からない……いや、誰でもないかもしれない合成音声でやり取りをするだけなのだ。

 先輩は、会長の顔はもちろん知っている……しかし会った事はなかった。

 遠目から見た事があるとも言ったが、近くには寄れないような威圧で眺める事しかできなかったらしい。


「でも格好良かったぜ、赤いスーツで右目に斬り傷があるんだ……あれこそ男が憧れる男って奴の風格だ」

「スーツを着て右目に傷で、男は格好良いって思うの? 私には分かんない……」

「斬り傷って、攻撃避けられなかったのかな」

「お前ら茶々を入れるなよ、あいつ気持ち良さそうに喋ってんだからさあ」


「……俺、新人からバカにされ過ぎてる気がする……」


 落ち込んでしまった先輩に三つ子の一人が固いパンをあげていた。

 食後にそれはどうかと思ったが、先輩は嬉しがって食べていた。

 ……見た目に反して先輩は良い人だと思う。


 そんな先輩は、


「……俺も、あの中に混ざりてぇんだ、格好良いあの人の後ろに並んで歩いてみたいんだよ。今は群衆の中のちっぽけな下っ端だ。けど、いつかはこの力で登り詰めてやるんだよ。格好良い男に、俺も――って悪いな、勝手に興奮しちまって。冴えない男の独り言だ、気にすんな」


 無理やり笑いながら言った。


「私も」


 私は、放っておけなかった先輩に自然と声をかけていた。

 保証もできないくせに自分勝手な我儘を。

 だけど言いたかったから、後悔はない。


「そんな先輩になら、着いて行ってもいいと思えたよ」

「へへっ、なんだよ照れるじゃねえか。そんな事を言ってくれるなんて――おい?」

「サヘラ、どうしたの?」


 私は先輩の事など忘れて立ち上がる。

 座っていた椅子が音を立てて倒れた。

 次に駆け出そうとした私の腕を取ったのが、タルトだ。


 焦る心を落ち着かせてから、タルトの目を見る。


「……フルッフが、今あそこにいた」

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