#21 潜入、紅蛙会!

 通称、隙間通すきまどおり。

 名の通りに建物と建物の隙間を差す道の事だ。


 人一人が通れる程度の道幅であり、明かりが灯されていない。

 先が見通せない闇の中だが、壁に手をつき伝って行けば、迷う事もなかった。


「タルト、どこにいるの?」

「こっちこっち! 前にいるよ!」

「わ、分からない……っ」


 私たちは黒い色のマントを羽織りフードを被って全身を黒色に染めていた。

 闇に紛れているために誰にも見つかりにくいが、しかし同時に味方さえも見つけられない欠点もある。


 道幅が膨らんだ空間に出た事でタルトの気配が後ろから隣には移動したが、顔を見合わせていても相手の顔がよく見えなくて分からなかった。


「明かり点ける? 一応光量を抑えた電気ランプは持ってるけど……」


 道の先を照らす事はできないが手元の手紙を読むくらいの光は持っている。


「使ったら一発で見つかりそうな気がするよ。ここまで真っ暗だと少しの明かりでも一発で不審者だって思われる」


 私もそう思うけど、まったく見えないとなると先へ進むにも効率が落ちる。

 いっその事、見つかる事を前提に明かりを点けて走り去ってしまうのが一番なのかな?


 いつまで経っても、この闇に目が慣れてくれない。


「……ん? 良い匂いしない?」


 タルトが鼻をすんすんと音を立てて気づいた。

 ……匂い。


 音もなく目も闇に慣れない今、匂いというのは道中を示す指針としては役に立つ。

 私は分からないがタルトは敏感にも気づいているし、頼りにするのも悪くはない。


 こういう分担こそが二人パーティのメリットだ。


「タルト、ゆっくりね」


 音もないとひそひそ声も足音も強く響く。

 あるかも分からない視線をさっきからずっと感じている。

 被害妄想な気もするが、見えていないのだから警戒するのも必要か。


 タルトに連れられ向かった先には光があった。

 遮光カーテンで覆われ光を一切逃さない空間が目の前にある。

 人の出入りする入口のカーテンの切れ目から見える僅かな光でなんとか見つけられた。


 切れ目が閉じてしまえば再び闇が景色を一律に溶かしてしまう。

 見失う前に、入るべきか、しかしこれって敵の本拠地に堂々と真正面から行くようなものではないのか。


「サヘラ、行こうよ」

「待って。……大丈夫?」


 見るからに怪しい私たちが入っても大丈夫だろうか。

 裏亜人街に住む住人の条件が現市長への反対思想であるため、入る分にも誤魔化しが利くとは思うのだが……。


「――おい、新入り、こんなところでなーにやってんだ」

「っ!」


 後ろから声をかけられ戸惑ったが、私たちではなかった。

 同じように黒マントにフードを被った数人と、顔を晒している一人の男がいた。


 攻撃的な金色ツンツン頭。

 見せる肌にはタトゥーが入っている。

 螺旋に見えて中には蛙マークが見えた。


 色は赤――そう、紅。

 紅蛙会。


「なんだ、入りづらいのか? ったく、俺が案内してやっからよ。二、三、四……ありゃ? 思ったよりも多いな。ちっ、しゃあねえ、またツケといてもらうとするかね――」


 さり気なくマント集団の後ろに混ざる私とタルト。

 なんとかばれなかったけど、こうなるともう後には退けなくなった。

 紅蛙会の下っ端として、このまま潜入するとしよう。


「(サヘラ、これ大丈夫なの? 打ち合わせとかしなくていいの!?)」

「(タルトにそんな器用な事できるわけないじゃん! いいからテキトーに言って。後は私が上手い事合わせて相手が納得できるように会話を組み立てるから!)」


 自分で言って、苦労で泣きそうになる。

 タルトの尻拭いを私がしなければならず、しかも失敗をすれば裏切り者としてどう扱われるのかも分からない。

 裏と表でどんな対立があるかも分からない勉強不足の状態で敵本拠地に乗り込むのは早過ぎたか……。


 しかし調べている時間があるなら私たちは動いていた。

 だからこそここにいるわけだ。


「(お前ら、ここでなにしてる)」


 と、いきなりマント集団の一人に声をかけられた。

 緊張で口が開きづらい、錆びたロボットのように油を差さないと潤滑しない口を無理やり動かす。


「(今の市長が嫌になったのよ。だからここの噂を聞いて混ざりたいなって――)」


「お前、潜入する気まったくねえな!」


 声を抑えながらもお腹を抱えて快活に笑うマントの中身。

 フードを覗くと目元だけ隠れるマスクをしており、口元は見えている。

 ……ついこの前、見たばかりの口元だった。


 女性だろうマントの中身は、しー、と人差し指を唇に当て、


「タルトには言うな。あいつはあたしを見れば、でなくとも演技なんてできそうにもないしな……。お前も大概だが指示を出せば上手くやる器用さがあると見える」


「……あっ、あなた――っ」


 私の口を抑えるマントの中身は再び、しーっ、と強く忠告をする。


「あたしも任務なんだ、邪魔をされても困る。だが、保護者として子供とその友達を見捨てる気にもなれないんだよなあ。どうせ帰れと言っても帰らないだろうしな。……ついて来い、少しはあたしも話を合わせてやるよ」


「調査隊、隊長……っ」


 そして、タルトの保護者でもあるはずだ。


「隊長って呼ぶなよ。呼ぶならテュアだが、それも今はやめてくれ。――ここで呼ぶならプロロクだ。ついでに広めてくれると助かるな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る