第28話 ユーレイ

「……君は来なくていいって言ったのに」


例の階段下で、神田は待っていた。闇が迫る夕方の薄暗がりのなかでそう言いながら、心配を不機嫌な顔でごまかす真音が一緒に来なかったことに少し安心した。神田といると真音が危険に遭う気がする。兄としてのただの勘だけれど。今日は那月と縁が占のお供だ。

「那月?」

那月の器、テディベアは占の手にあるが、那月自身の気配は遠くにあった。

 

7月20日の満月。


「まあ、縁いるし、ダイジョブでしょ。ここから見てる」

「どうしたの。そんな遠くに居ないでこっちに来てよ」

 神田に聞こえないよう小声で。

「……俺、何か邪魔しちゃったみたいね?」

 神田が空を仰いだ。首を傾げる占に続けて言った。

「幽霊連れてるんなら先に言ってよー。ってまあ、言わないか普通。でも賢い子で良かった。西条君の友達なんだろ? ていうか、このクマに『入っている』って感じ? ……おかしいな。この前葉太朗のところに一緒に居たときはそんな気配しなかったけど」

 ――神田が来るたび、皆総出で那月を守っているんだ。ほら、イユード、ベルが最初に気づくでしょう? それから那月はフラワーの中に入って空間を渡って逃げていたんだよ」

 那月に器を貸しているテディベアの本体(ハル、と呼ぶことになった)は言った。この声は神田には届かなかったが。

 いままでに神田が店に来るとき、あるときはテディベアをユノが持って出て、あるときは那月の魂をガラスで弾いて、霊体をフラワーが預かる。先日の木の夢事件でも、神田が帰る夜になるまで葉太朗を守っていたのはテディベア本体のハルだ。神田が居なくなってからは那月の霊体は入れ違いに葉太朗を守りに行っていたらしい。

「君は、一体……?」

 占は思わず聞いた。

「幽霊見えないって言ったけど、あれウソ。めんどくさいからさ、いろいろと……」

 

 続けたかった言葉はそこで遮られた。




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