第17話

 その日は何も変わらなかった。妹の残した甲冑を姉弟子は着せてくれた。

 何も変わらない日。


 何年も続けてきた探索と修行の日々。ただその続き。違うのは今日で終わるであろうというそれだけ。明日の今、果たして自分は生きているだろうか。

 

 姉弟子。ナルは知っている。地下十階の玄室とおそらくその向こうも。彼女は幾度かそこを訪れているようだったから。当たり前の日常のように。そこに、その先にある日常とはどのようなものか。


 玄室に挑む日。エリスはナルにそのことを尋ねた。自分でも不思議だった。誰の過去も目的も興味のない自分が人に関心を持ったことに。


「帰ったらお話ししましょうね」


 彼女はそう言った。




 善悪の混合パーティーは今日も迷宮の入り口で待ち合わせる。

 ひと月ほど共に行動し、この日を迎えた。そのために三年という年月を費やしたため、皆がそれぞれ迷宮を探索し続けたため、このまま目的を果たすことが優先だった。


 目的。自分の目的。


 エリスは時折、思う。目的とは。


 故郷にいられなくなった。妹を亡くした。その先に何がある。


 ナルのように玄室とその先を見れば何かがわかるのか。



 迷宮の入り口が見えた。先に来たのはミリアか。


 行かなくては。


 消失した妹の声が聞こえた気がしたが、今は何も考えなかった。


 今日すべてが終わってそして始まる。




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