第16話



 暗がりから鈍色の空間。それは変わらない。姉弟子は異空間を行く。

どこへ?



 エリスはいま、自分が夢を見ているのかと思った。でも違う。そうではないことだけはわかる。リリスの意思が語りかけてくる時の感じと同じ。


 ナルはその状態で、同じ空間にいないいま、自分の魂に直接何かを見せている。気配は地下10階の、それまでの階とまったく違う禍々しく辛うじて平常心を保てるような空気を纏っている。地下10階に挑めるだけの実力を身につけた者たちにだけ耐え得る不可思議で不気味な大気。


「あなたはわざとこれをわたしに見せているの?」


「最後に会える時はお見送りしてね」


「どういうこと?」


「地下10階は入り口であり出口でもあるのよ」


「あなたは玄室に行ったことがあるのよね」


「そうよ。だからわたしとあなたがここに一緒に来ることはできないの。でも、すべてが終わったら大丈夫。その時は笑顔で見送ってね」


「何をしているの?」


「どうってことないわ。荷物を運んでいるだけよ」


 その声は少し笑っていた。どこまでも混乱させる姉弟子だった。



 もうすぐ玄室に挑む。

 エリスはいま、そのことに集中しなければならなかった。


 17歳から挑んだ迷宮。一心不乱に修行を積んだ日々。失った仲間、そして妹。思いのすべてを迷宮は飲み込むのだろうか。







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