第12話
「迷宮というのは生き残ることがすべて。生き残らなければなにも成し遂げなかったのと同じ。でも人生は続くの」
ナルは淡々と語る。
「人生はずっと続く。目的を果たしたのなら生き残っているはずよね。だからまた次の日も生きて行かないといけない。その生活に大好きな人がいなかったら辛いでしょう。ずっと好きだった人がいなくなってしまっていたら、その翌日からもう辛いわよ」
「何かあったんですか?」
ミリアが遠慮がちに聞いた。
ナルは笑うと、
「何かあったっていうことでもないのよ。確かにね、仲間を死なせてしまったけど…恋人とかではなかったし。それでも罪の意識はいまだにあるわ。いまだに」
と続けた。
そして改めてエリスを見る。
「わたしもねいろんな魂を抱えていると感じることがあるの。命も心も自分ひとりのものではないと。いまのあなたと同じに」
立ち上がるとラックから新しいワインとグラスを取り出した。ミリアとエリスの前にグラスを置くとゆっくりとワインを注ぐ。ほんのりとした白色。「赤がよかった? ごめんね、わたしこれしか飲めないのよ」と付け加える。
エリスは黙ってワインを口に含む。まだナルの話は終わっていない。それにまた、自分の中にあるリリスの意思が胸の奥底でもぞりと動いた気がした。
「どれだけ仲間を見殺しにしたかわからない。迷宮ではやむを得ないことだけど、なぜ自分はまだ生きていられるのかとか思うこともあった。挙句、術を行使して仲間を巻き込んで、また自分だけ生き残る」
初対面のミリアには事の詳細は掴みきれないが、かつては迷宮に挑んでいたナルのこと、彼女にも苦い経験やトラウマのような記憶があるのだろうと想像できた。
「エリスもミリアさんも、もっと我儘になっていいわ。あなたたちの魂も心も記憶もあなたたちだけのもの。大事な人は大事と言っていい。いちばんは自分の命とそして心。どんなに身近であったとしても深いところまでは本人以外には触れられない。エリスは完全に”自分”に戻れるまでもうすぐよ。だから必ず生き残ってね」
エリスの奥底でもうひとりの自分が蠢く。
「ミリアさんも、大事な人はなによりも優先してね。人生ってずっとずっと続くの。生きながらえる限り。いつまでも続く後悔に潰されないように、生き残って、ずっと生きて」
奥底でリリスが囁く。
(遺言を伝えてるわ)
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