第11話

 ほんとうのことをいえば


 ずっとわたしのことをみてほしかった。


 男女の機微。そういえば経験していない。かつてのパーティーは自分以外は男性だった。ほとんどのパーティーはそうで、女性の探索者は男性より遥かに少ない。男女比で言えばやはり7:3、いや、8:2。


 そんな中で修行する、戦う意味。


「わたしは心から愛していた人をロストさせてしまったんです」


 そんなミリアの告白は意外だった。エリスは、ミリアが自分より歳が上なこと、彼女の持つたおやかな雰囲気から見て、かつて恋人がいた、もしくはいたとしてもおかしくはないと思っていたが、ロストさせた経験があったとは。


 部屋はナルの私室で、ナルとエリスたち弟子らのマスターでもあるノーム属の老ビショップの館にあるスイート的な部屋のひとつ。エリスもここには通されたことがなかった。

 あくまでシンプルな調度品。飾り気はないが清潔感があり、生活をするには十分な広さと快適さがあった。


 部屋に入ってすぐがいわゆるリビングで、そこに置かれた丸テーブルにナルの.手料理やワインが並べられていた。


 マスターの館が初めてのミリアはエントランスから廊下、様々な部屋の並ぶこの場所に感嘆の声を洩らしていた。その表情から、あながちお世辞でもないようだった。


 そのままナルの部屋で女性三人の晩餐会となっていた。


 ミリアが本音を洩らしたのはワインの酔いも手伝ってのことだったのかもしれないが、これまでパーティーでは中堅の様な立場と年齢、さらに新しく編成されたパーティーの中でも年長であることもあって、彼女よりさらに年齢が上のナルに安心したためだろう。


 それは告白だった。

 エリスはやや動揺した。長年同じパーティーにいれば恋愛感情が芽生えることもあるだろうが、死と隣合わせの迷宮において恋愛感情は自身とパーティーの崩壊を招く。ロキのパーティーではそんなことはなかったが、痴情のもつれで解散、全滅したパーティーの話はいくらでも聞いたことがある。それでもこれまで…三年前のヴァンパイアロードによる襲撃までパーティーが機能していたことを考えれば、そこはミリアも弁えていたのだろう、とエリスは納得した。


 そんな迷宮の常識をナルはひっくり返してしまう。


「ミリアさん、あなたの好きな人ね。何があってもその人のことは守るべきよ。目的を達成したって好きな人がいなくなっちゃったらその後の人生ってなんなの?」


 どこまでも予想を超えてくれる姉弟子だとエリスは思った。


ほんとうのことをいえばずっとわたしのことをみてほしかった。


 それが本心ならそうなるようにしなさい。



「迷宮探索なんて人生のごく一部よ。目的を達成したってその後も呆れるくらい人生は続くのよ。嫌でも悲しくても。好きな人がいなかったらどんな偉業だって霞むのよ。楽しいことがあっても目の前はグレイよ。ダークゾーンみたいに何にも見えないなら諦めもつくし開き直ったりもできるけど、グレイって中途半端に視界が利くうえにすべてが薄暗いのよ。楽しくないわ。見通しのない人生。今まで頑張ったことはなんなのって思うわよ。だったらパーティーより好きな人を取るべきだわ」


 食えない姉弟子である。







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