第8話

 


(ああ彼女…)


 三年ぶりに挑む迷宮。善悪混合のパーティーは人目のつく場所で集合するわけにはいかず、迷宮の入り口で集まるのが常である。エリスは二番目にそこに着いた。先に待っていたのは長い黒髪の女性。ミリアという善の僧侶だ。


 ミリアは笑顔で声をかけてきた。ふと思い出す。リリスを寺院に運び込んだ時、彼女が付き添ってくれた。


 リリスがロストした時には、その場に崩れ落ちた自分を支えてくれた。初対面で死線を共にした人物。あんなにも殺伐とした中でも優しい女性。

 

 エリスはミリアからどこかナルとの共通点を感じた。

 人間属であることか? 黒髪などの容姿的なものか。ミリアは善でナルは中立だ。


 もしかしたらナルは善よりの中立なのかもしれない。リリスの形見の甲冑を抱えた自分を、パーティー壊滅の報を聞いた彼女が迎えにきてくれた。一緒に泣いていた彼女。いい人なのだろうな、と思う。


 当たり障りのない会話をしながら仲間を待つ。カルラ、ビショップのアルカードと共にトンビがやって来た。そして最後にリョウ。


 聖なる鎧を纏った青年。リョウはロードにクラスチェンジしたと聞いていた。

 

 聖なる鎧。死んでもリリスはそれを離さなかった。


 三年前より遥かにレベルアップしたカルラ。トンビが探してくれたというビショップのアルカードも、まだマスターレベルではないようだが、この城塞都市内で体の空いているビショップの中では高レベルな方なのだろう。そしてトンビは基本的には身を守りつつ、前衛に立つ。比較的、攻撃力のある武器を装備できるミリアが前衛に…という提案もあったが、あえて女性を、さらに主たる回復の担い手を危険に晒すことは属性とは関係なく憚られるものがあった。かといってアルカードもエリスも肉弾戦は全くの素人と言っていい。



 三年ぶりの再会。三年ぶりの地下迷宮。これが探索の最終章なのだろうか。


 数日は体慣らしと新パーティーとしての連携をみることになる。

 そして、戻ったらナルにもう一度尋ねてみよう。


「玄室には行ったの?」と。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る