第5話

 訓練場のマスターたちのナルを見る目には好奇というより困惑の色が浮かんでいた。彼らの持つハイレベルな魔法使いのイメージは、まさしくエリスのようなスペルユーザーだったから。

 

 種族、ステータス共にスペルユーザーの素質を持つエリス。体力以外に取り立てて特徴のない人間族のナル。属性も中立となると上級職も望めない。それでも日々の修行を怠らず、この時代では誰にも扱えないスペルまで行使する。本人にはなんのダメージもなく。禁じ手、失われた秘術には、行使にあたってその威力相応の代償を術者に負わせる。それにも関わらず、ナルは術の行使後、身体的にはなんの問題もなく帰還している。


 ひとりで。


 ナルはサムライとロードに助けを求め、臨時のパーティーを組み、仲間の救助に向かったはずだった。迷宮から戻った時、彼女はひとりで地上に立っていた。迷宮付きの近衛兵たちも、彼女の仲間と救助されるはずだった仲間たちの名前を名簿から読み上げ確認をしたが、「帰ってこられなかったわ。意味はわかりますね?」とナルは答えた。


 それは本人を除いて全滅したことを意味する。

 迷宮に挑む者たちにとってそれはさして珍しいことではなかった。

 

「三人のパーティーではやはり難しかったのですね」


 近衛兵は彼女の心情を慮ったが、


「そんなはずはなかったわ。彼らは十分に強くて。でもわたしの呪文の使い方がいけなかったのです。エレベーターで降りる前でティルトウェイトを使ってしまわなければ…。いいえ、それよりも…」


 迷宮の入り口。地上の地面の感触。夕暮れ近い空。少し先に見えるいつもの城塞都市。

 ナルは彼女の様子に困惑気味な近衛兵たちがまるで見えていないかのように、ただ正面を見つめていた。



 

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