貴方だけを

月花

第1話 ほどよい距離

(あ、いた!)


通学電車の中、同学年の間宮君が、私の視界に入る。


(やっぱり、カッコいいなぁ)


これだけの人混みの中にいても、間宮君の存在は、光輝いてる。本当に申し訳ないけど、周りの他の人達みんな、芋にしか見えない。本当に申し訳ありません。


それだけ、間宮君の存在って、群を抜いてるんだよねー。もちろん、175センチ以上ある長身ってこともあるけど、それだけじゃなくてね。フレームの細い眼鏡に、理知的な整った顔立ち、ゆったりとした所作、低いけど、少し甘い声……。


こんな高校生いる!?絶対好きになっちゃうじゃない。あぁ~今もね、カバーのかかった文庫本を片手に、ドアの側に立ってるの。見てるのが、スマホじゃないっていうのが、ポイントなのよ。


私も、もっと若い時はね、何かこう、クラスのいかにもリーダー的な「俺俺!」タイプが好きだったんだけどね。


一周回って、間宮君みたいなタイプの良さに気づいたって感じ。まあ、年齢と共に、嗜好って変わるっていうじゃない?食べ物の好みと同じでさ。って、ともちゃんに言ったら、「アンタ、いくつだよ?」って突っ込まれたけどね。


(あっ……)


今、間宮君が、こっち見た!


さっきまでみたいな、斜め横顔も好きだけど、正面の顔も、やっぱりカッコいいー!

深く憂いを帯びたような黒い瞳。その瞳が、離れた場所にいる私を見つめている。


何か物を言いたげな……でも、何かを言う訳じゃなく、言ったとしても、この距離では届かない。


そんな風に視線が交わるのは、ほんの一時で、彼はまた、手にしている文庫本に視線を落とした。


(やっぱり、ドキドキする……)


何度見つめられても、あの瞳には慣れそうにない。


ああ、あと一駅。学校への最寄り駅に、間もなく到着する。彼は、文庫本を学校指定のカバンにしまうと、次に開くドアに向かって、完全に背を向けた。


そして、アナウンスと共に、電車は最寄り駅で停車する。間宮君の背中を遅れて追うように、私も電車を降りた。


ここからは、学校まで徒歩で向かう。自転車に乗らなくても行ける距離。私は、もちろん間宮君についてく。


ついて行くって言っても、こっそりと少し離れて、彼の麗しい姿を見つめながら登校するだけなんだけどね。ウフフ。


残念ながらクラスが違う私達の超貴重な時間が、登下校の時間。


えっ?だったら、一緒に登下校しちゃえって?いや、そこは恥ずかしいじゃん、やっぱり!?


いっつも偶然を装って、「おはよ♪」とか言って、隣を歩いちゃうっていうのもありだけど、何か軽いストーカーっぽい感じだし。ほどよい距離が、今はいいんだ。


間宮君の背中を見つめながら、一緒に歩いていると、同じく登校中の女子達が、彼を見ながらざわついている。


「間宮先輩、今日もクール!」


「あの眼鏡が、イイ~」


「いや、眼鏡を外す瞬間が最高なのよ!」


みんな好き放題に、盛り上がってる。


ああ……もうっ、私の間宮君なんだからね!!手を出したら、許さないから!!……って、私の彼でもないけどね。とにかく超絶モテる間宮君の登下校だけでも、軽いイベントのようなものだ。


そんな熱い視線に、ハラハラする一方で、さすが私の間宮君だわ、と再認識しながら、私達は学校に着いた。


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