第3章 初探索! あれ? ここって本当に研修ダンジョン?
城のふもとの、これがダンジョン?!(1)
はっと目がさめた。
ガバッと飛び起きて、慌てて窓を見ると、白く透き通った朝の日差しと、小鳥の可愛らしい鳴き声が朝を知らせてくれていた。
昨晩みんなで話した後、だいぶ気持ちが落ち着いて、部屋に戻ってベッドにごろりとした瞬間、眠ってしまったみたいだ。部屋の時計を見あげる。よかった……いつもと同じ時間。みんなのおかげで、心も身体もベストコンディションで挑めそうだ!
よし! 気合いを入れてベッドから立ち上がる。
顔を洗って、白銀色の髪をとかし、小さな三つ編みのおさげを結った。パジャマを脱いで、部屋のハンガーに手をかける。いつもと同じ緑の長袖Tシャツ、そしてグレーの厚手のタイツに茶色のホットパンツ……でも今日はその上に、エルクさんが見立ててくれた皮の胸当てと、皮の小手を装備する。腰にベルトを通し、一ヶ月間の鍛錬で使い慣れた、刃渡り三十センチ程の鞘に入ったショートナイフを引っ掛けた。そして肩には昨日荷物を詰めたリュックを背負う。
自室の扉を開けて、朝食を取りに食堂へ向かう。部屋を覗き込めば、すでにラーテルさんと、レトが席についていた。
「おはよー!」
声をかけると、二人がくるりとこちらを振り返る。
「アーミー、遅いよぉお〜」「おはようございます。いよいよですね」
「わあ! 二人ともいつもと別人みたい!」
自分もそうなんだけど、いつもと違う服装に声を上げてしまい、二人に「アーミーだって」と笑われてしまった。
レトはいつもの白いローブに私と同じ皮の胸当てと、小手。腰には片手で持てる金属製のハンマー型のステッキ。足はサンダルではなくブーツを履いている。可愛らしいのはふわふわの金髪を今日はポニーテールにしているところ。こう見ると満月の夜じゃないけど、女の子にしか見えない。椅子の下にはいつも以上に膨らんだ肩掛けカバン。今日は特別に薬をもってきてくれたようだ。
で。ラーテルさんの方に視線を移すとぉ〜!
美しいロングストレートの黒髪を、編み上げアップにしている。額にはサークレット。身体の線がくっきり出てしまうけど(ひゃあ)、動きやすそうな黒地のハイネックの長袖シャツに、膝丈のスパッツ。そして同色の膝まである編み上げのロングブーツを履いている。さらに目を引くのは、黒地に白の飾り模様が入ったプレートメール! 女性用なのか、草摺の部分がふれあスカートのように広がっていてかわいい。メイルは腕の部分がなく、その代わり同色の腕当てをはめている。あ! 黒いシャツの首元に覗く白い百合の刺繍。きっと彼女の手作業に違いない。ワンポイントになってさらに彼女のお洒落センスを際立たせている。王立騎士団の女性騎士さんみたいで。かっこいい! 彼女が男性だったらおそらくファンになってたかもしれないなあ。
そんなことを考えつつ、あーだこーだ3人で話しながら朝食をとり、寮の門へと向かう。そこにはすでに、お弁当箱を持ったエルクさんと、ウルカスさんが見送りのために待っていてくれた。
「ほらほら、急ぎなさい。これは昼飯用のスタミナ弁当だ。オウルの分もある」
エルクさんが、四角いお弁当箱を私たちに一つずつ渡してくれる。わあ温かい。中から香ばしいお肉の香りがしてくる。私たちはそれを大切にカバンにしまった。ふふ。お肉大好きなエルクさんらしいお肉弁当なのかな? あとで食べるのが楽しみだ。
「ありがとうございます!」
お礼を言うと、彼女は私たちの顔をかわるがわる覗き込み……イタタタタタ! 一番そばにいた私の頭に大きな手を乗せぐしぐしと撫で、ニカッと笑い、
「皆、顔色も問題ないな。いつも通りにやれば大丈夫だ。しっかり頑張っておいで」
そう元気付けてくれた。ウルカスさんもエルクさんの隣で静かに佇み微笑んでくれている。ああ……なんて心強い言葉なんだろう。
『王都では、私が母親がわりだ!』
初めて寮に来た時、エルクさんは私達にそう言ってくれた。特に両親がいない私にとって、二人の存在はとても大きなものになっていた。いつも優しいけれど、鍛錬の時は厳しいエルクさん。弱音を吐いてしまった時、真剣に聞き、叱ってくれた。それで落ち込んで庭にしゃがんで泣いてると、ウルカスさんが寄り添うようにして、隣でずっと庭仕事をしてくれてたっけ……。
この一ヶ月間、甘えてばかりだったものなあ。二人に「無事に終わりました!」って笑顔で報告できるように、頑張らなくっちゃ!
「くれぐれも気をつけてな!」
「行ってきます!」
私たちの姿が見えなくなるまで、二人はずっと見送り続けてくれた。曲がり角で、一度振り返り、私は大きく手を振った。「いつも通りやれば大丈夫!」心強いエルクさんの言葉を小さく繰り返しつぶやいてみる。
うん。大丈夫!
私は二人に背を向けて、お城のふもとへと歩き出した。
今日はトラムには乗らず大通りを横断し、城のふもとを目指すことになっている。居並ぶ街並みの間を縫って歩道を進むと、お城が立つ丘のふもと、見上げるほど高い漆喰の城壁が姿を現し、私たちの前に立ちはだかった。城の周りをぐるりと一周するように環状道路が整備されている。そこを右往左往しながら、私たちは辺りを見回した。
「確かこの辺だったよね?」
「あ〜! 見てみて、あそこぉ〜! オウルさんだ〜!」
レトが一番に気づいて私の背後を指差した。振り向くと、あ! 城壁の一箇所に青サビがついた小さな金属製の扉がある。そこで手を振っているのは、いつもの服装に、調査用の品物を詰めたリュックを肩にかけたオウルさんだ! そして、その隣にも誰か立っている。赤い鎧を着込んだ王立騎士団の人のようだ。
「おはよう。昨日はよく寝られたかい? 体調はどうかな?」
私たちが駆け寄ると、オウルさんは焦らなくていいよ、といつものように静かに笑いながら、少し屈んで、私たちの顔を見回した。きれいなストロベリーブロンドの髪が肩からサラサラと流れ落ちる。三人で、大丈夫です、と答える。安心したようにゆっくりとうなずく。
「そうか、それは良かった」
そうして、背後にそびえる、十数メートルはありそうな城壁を見上げた。
「見ての通り、王の住まう城は城壁で囲まれている。この壁を抜けてもさらに王城にたどりつくまで2〜3枚同じものが設置され、強固な作りになっているんだ。普段立ち入りは固く禁止されているが、今日は特別許可をもらっているからね」
そう言って扉の前で警備をしているらしい騎士団員さんを振り返った。今日は兜をつけていないから顔がよく見える。濃いグレーの髪に、三角形の大きな耳。少し不機嫌そうな表情をした、色黒の男性……。
「あ」
私は思わず声を出してしまい、慌てて口を押さえた。この人、昨日お店に行く前に、ポストの前で会ったあの団員さんじゃない?
「おはようございます、オウル殿。バルト様から要件は仰せつかっております。さあ中へ」
しかし彼は私の方など見向きもせず、口早にそれだけ言うと、扉のリングノブに手をかけた。錆びた音を立てながら扉があちら側に開く。一瞬、胸がチクリとしたけど、扉の向こうに広がる景色を覗き込むうちに、そんなことなど、あっという間にどうでもよくなってしまった。
私の態度に一瞬、オウルさんは怪訝そうな顔をしたけれど、笑いながら中に入るように促す。扉のかまちをまたぎ、中に入ると同時に、背後でまた扉が閉まる音がした。
目前に広がる王城の敷地内の光景に思わず目を見開いた。
ほへええ〜。アマデトワールのお城の下って、こんな風になっていたんだあ。
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