夜空を仰いで、一致団結!(2)
「アーミー!?」
突然横から声をかけられて、私は驚いて顔を上げた。すると、そこには、眉を八の字にして、心配そうに口を歪ませたレトが立ってるじゃないか。わわわ、いつの間に。びっくりしたあ!
「レト!? どうしたの一体?」
「アーミーこそぉ」
レトは白いダブッとしたパンプキンパンツのパジャマを着て、サンダルを引っ掛けて立っていた。白いふさふさの尻尾は、私と同じようにお腹にくるりと巻いている。あはは。その表情を見るだけでわかる。お互いきっとここにいる理由は一緒なんだろうな。彼より年上のくせに、かなり不安になっていることを知られるのは恥ずかしいけど……私はへへへと舌を出し照れながら、
「緊張して寝れないんだよねぇ……」
素直に答えた。レトは小さくうなずく。でも……あれ? 特に笑うでもなく真面目な顔をして、彼はその場にしゃがみ込んだ。どうしたんだろう? 珍しく神妙な様子。心配になり私もレトの隣に座った。
「アーミー。ボクねぇ。ほら。弱虫で怖がりでしょ〜? 初めて二人に会ったあの夜、悪魔に襲われた時、泣いて震えてるだけで何も出来なかったし。ソロルって子にアーミーがペンダントをとられかけた時もラーテルさんみたいに助けられなかった。そのあとラーテルさんがすごく怒っちゃった時も止められなかった……」
私は無言で瞬きした。驚いた。レトがそんなことを気にしていたなんて。
「でもレトは一番年下だから……」
「でも、この中でオトコの子なのは、ボクだけなんだよ〜」
そうフォローしようとした私は、エメラルド色の瞳を大きく開け、真剣な表情のレトに見返され、思わず口ごもってしまう。
「最初はボクも年下だからって思ってたよ。でも、そんなのずるいって思ったんだぁ。何よりボクにとって、二人はとっても大切なオトモダチなんだよぉ。だから、だからね……明日ダンジョンに入って、何か怖い敵が出てきたら。逃げないでボクも絶対戦うよ……!」
しかし、その目はだんだんと潤んでくる。今にもこぼれそうなほどいっぱいの涙がためられて……。
「こ、コワイけど……」
そう続けた。そうだよね、それが本音だよね! 私はレトの話を胸が締め付けられるような気持ちで聞いていた。私だって怖い。だけど友達の二人は絶対助けたい。ついさっき私が思っていたことを、レトも思っていてくれていたなんて。
「レト、ありがとう! すごくうれしい。前言ったかもしれないけれど、私レトやラーテルさんみたいな、仲のいい友達って今までいなかったから。だから私もね、頑張る! だから無理しなくて……」
「アーミーも、ラーテルさんだって無理してるじゃない〜! ボクだけがんばらないのはダメだよぉ。それに、そういう自分はカッコ悪くて、もうイヤなんだ」
レトは、涙を手の甲で拭うと、私の方にグッと身を乗り出して、深く深く頷いた。
「ボク、明日がんばる! 二人がケガしちゃってもぉ、治してあげるし〜! も、もちろんケガさせないように戦う〜! だから。アーミー、怖がらないでぇ、大丈夫だからねぇ!」
「レト……」
私はレトの頭をそ〜っとなでた。うれしい。うれしくて、言葉がうまく出ないよ。
「私もね、レトと同じ。今とっても心配な気持ちなんだ……。私ほら、ソロルのときも、今日のヘルマさんにも、厄介者みたいに言われてるじゃない? よく考えれば騎士団のバルトさんにも、さらにその前は村の人たちにもあまり好かれていなくて。そういう星の下に生まれて、その因果で自分が何かなっちゃう分には、しょうがないかなって思えるんだ。でもね、もしレトやラーテルさんをトラブルに巻き込んじゃったらって思うと怖い……。ううん、そのうち二人にもそう思われちゃうかなって」
「そんなことないよ! ボク、アーミーのこと絶対にそういう風に思わないもん!」
「そうですわ、アーミー! そんなことありません! 私はあなたに会えたこと、毎晩、神に感謝しているくらいですもの」
突然背後から凛とした声が投げつけられ、私とレトは驚いて振り返った。
「ラーテルさん!」
いつの間にか巨大な動物の皮が張られた木槌とを片手に、髪をアップにして、私たちが武術の訓練をするときに着た白い道着に身を包んだラーテルさんが、そこに立っていた。その後ろには、エルクさんと、ウルカスさんまで?
「ラーテルに、お前たち大切な友人を守りたいから厳しい稽古をつけてくれと言われてな。私とウルカスでみっちり仕込ませてもらった。元々彼女は能力が高いのもあり、一ヶ月で見違えるほど上達したぞ。大丈夫。何があっても君たちを守ってくれるだろう。それに……ラーテル、わかっているな?」
エルクさんが腕組みし、満足そうに微笑みながら、ラーテルさんに念押しした。ラーテルさんはエルクさんを振り返って、
「はい。二人を守りたいならば、まず自分を守ること。それを忘れないようにします!」
そう、はっきりと答えた。エルクさん、そしてウルカスさんは顔を見合わせてニッコリと微笑む。
「そうだ。それさえきちんと理解していれば、恐れなど不要だ。研修は必ずや成功するだろう」
「レト。そして……アーミー。何があっても大丈夫です。あなたがもし仮にトラブルメーカーだったとしても、そんなの問題ありません。私が二人を守ります。ですから、やり遂げることだけを考えましょう。必ず研修を成功させましょうね」
ラーテルさんは前みたいに、ずどーんと音を立てて木槌を放ると、私たちの肩に手をかけた。なんて優しい言葉なんだろう。それに何も聞いていなかったけれど、私たちの知らないところで、そんなに頑張っていてくれていたなんて……。彼女のその気持ちがうれしくて、なんて返したらいいかわからなくて、私はラーテルさんを何も言えずに見つめ続けた。私こそ、こんな素敵な友人に会えて、神様に直接お礼を言いたいぐらいだよ……!
「ありがとう。ありがとう二人とも。私、グダグダ悩まないで、がんばるよ! みんなで、一緒に頑張ろうね!」
「うん! 頑張ろうねぇ〜!」
やっとそれだけ伝えられた。気づくと、ポロポロ涙がこぼれてしまう。でも不思議、悲しいという気持ちは少しもない。ただただ温かくてうれしくて、その気持ちがあふれて涙になってしまったような気持ちなのだ。そんな私の頭を、今度はラーテルさんが優しく撫でてくれた。
「……そのチームワークは何物にも変えられぬ武器となるだろう……」
いつも無口なウルカスさんが、そう静かにつぶやく。私たちは顔を見合わせて微笑みあった。
頭上にはいつの間にか、天の川からこぼれ落ちた、たくさんの星が瞬き輝いている。一瞬目の端に、尾を引き流れる星を見かけたような気がして、私はそっと目を閉じた。
お父さん、お母さん、そしておばあちゃん、見守っていてね。
私は首のペンダントを握りしめながら、そう流れ星に、心の中で願いをかけた。
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