師走一二菜とのごはん
「今日はなんか濃い1日だったなあ…」
「そうだな。その、なんだ…卯月とのあれは、好きにするが良いぞ」
「だから誤解なんだってば!?いい加減納得してくれ!」
メイド喫茶の帰り道、あれから三空の説教という拷問の後一緒に帰路についている。
なぜメイド喫茶にいたかは説明できたものの、いまだに卯月との一件には取り付く島もない。
「いや、だって、しかし、なあ?」
「だってもしかしもないよ!なんでこういう時だけ聞き分けよくないんだよ!」
「あり得ないとは思いつつもそれもありかと思ってしまう自分がいるでな」
「お願いだからなしの方向でお願いします…」
勘弁してほしい。
というより三空は真っ直ぐな人間だからそういう趣味には無頓着だと思っていた。
案外イケる口だったとは…
そんなことを思いながら歩いているともう自宅が見えていた。
今日も1日が終わるなぁなんて考えていたら、家の前に佇んでいる影が見えた。
小さい女の子だ。
「あ、睦月さんに弥生さん!お帰りなさいです!」
「あれ、師走?なんでこんなところに」
「睦月さん、帰ってきたときはただいまですよ!」
「あ、ああ、ただいま…」
小さい女の子の正体は
一見小学生にも見える外見ではあるが、れっきとした高校生である。
なぜ俺ん家の前にいるのかはわからない。
「弥生さんもお帰りなさいです!」
「うむ、ひーちゃんただいま」
三空は気にすることなく挨拶をする。
ひーちゃんて…可愛いじゃねえかクソ羨ましい。
「どうだ羨ましいだろう。ひーちゃんはやらんぞ」
「心の中を読むんじゃないよ」
「もう、弥生さんはすぐそうやって子供扱いするんですから…」
「すまないな、ひーちゃんが可愛いのがいけない」
むむ、ここに百合の気配が!
と思ったけど、三空が小動物を愛でているような感覚だし、百合にはならないか。
「むむむ、睦月さんも何か変なこと考えていませんかー?」
「心の中を読むんじゃないよ」
なんで俺の周りには読心術できる人間がいるんだ。
油断も隙もあったもんじゃない…
「それはそうとして、師走はなんでここにいるんだ?何か用事?」
「そうでした!すっかり忘れておりました!」
「忘れてどうする」
「はあああ、ど忘れするひーちゃんも可愛い…」
三空…お前キャラ崩壊してるぞ…
この惚けた顔、写真撮っとくか。
リスクは高いが何かに使えるはず。
写真を撮ると案の定三空に睨まれたが、師走は気にせず続ける。
「睦月さん、弥生さん、一緒にご飯を食べませんか?」
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「今日はお母さんがいないからどうしようかと思っていたのですよ!」
「そっか。まあ俺も弥生も同じようなことがあったし、俺らで良ければ大歓迎だぞ?」
「そうだぞひーちゃん。私は365日大歓迎だ」
「それは盛ったろ…」
俺と三空は一度家に帰り、着替えてから師走と合流した。
今回のことを母さんに説明したところ、「ええええ!?今日はいちくんとご飯食べられないの!?ヤダヤダヤダア!」と泣かれてしまったが、ひとまずOKを出してくれた。
母さんは結構寂しがり屋だから、後でケーキでも買ってご機嫌とりでもしよう。
「ところで師走、何か食べたいものはあるのか?」
「食べたいものですか?そうですね「私はひーちゃんが食べたい!」」
「三空は一旦黙ろうか」
「貴様、なんか私に辛辣過ぎやしないか?」
「だったら立ち振る舞いを改めろ!」
どうしてこうなった…
三空は少なくとも、最近まではこんな感じではなかったはずだ。
高校生になったから多少の変化はあってもいいが、これはちょっとひどい。
「まあまあ睦月さん弥生さん落ち着いてくださいです…」
「ぐるるる…」
そこ、唸るな。
獣化してんじゃないよ。
「まあそれはそれとしてだ、どこか行きたいところがあるなら合わせるぞ?」
「そうですねえ…あ!あそこに行ってみたいです!」
師走がパッと見つけて指を差す。
その先にあったものは、先ほどお世話になったメイド喫茶があった。
「「あそこはやめよう!」」
「ふぇ!?な、なんでですか!?」
珍しく三空とは意見があった。
それはそうだろう、ここに入れば厄介なことに巻き込まれるかもしれないという考えに至るからだ。
ここは素通りしていくか…
「あ!さっきのかっこいいご主人様だ!」
「「「何!?あのご主人様が!」」」
「しまった!見つかった!」
「一夜!貴様はひーちゃんと先に逃げろ!」
「おう!いくぞ師走!」
「え、ちょ、ちょっと待ってください!」
ここは三空に任せて俺達はいく!
逃げ切れるかどうかはわからないが、諦めてはそこで試合終了だ。
ありがとう三空…後で骨は拾ってやるからな…
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「またお店に来ていただいて嬉しいですご主人様!」
「は、はあ…」
あれからというもの、俺たちはあっさり捕まった。
三空は健闘をしていたものの、あのパワフルなメイドさん達が大勢でかかれば流石の三空も屈するを得なかった。
その後すぐに俺たちは追いつかれ、ここまで運び込まれたということだ。
本当思うけど、あのメイドさん達はバケモノ級に身体能力が高かった。
正直勝てる気がしない。
「ほほ〜、ここがメイド喫茶なるものなのですね!皆さん可愛らしいです!」
「いや、私からしたらメイドの皮を被ったバケモノとしか思えないんだが…」
通常運転の師走に対して疲弊しきっている三空。
もう何も信じられないと言っているような顔をしている。
すっかりトラウマ植えつけられちゃって…
「もう来ちまったものは仕方ない。とりあえず何か食べよう」
「わかりました!私はこの『ラブラブ♡フワフワ♡オムライス』で!」
「それじゃ俺は『ミラクル☆ラテアート』と『とろけるアイ♡のカルボナーラ』にするか」
「むむ、それでは私は、この『キミもメロメロ♡ゾッコンドリア』を…」
「かしこまりましたご主人様達!腕によりをかけて作りますね!」
思いの外早く食べるものが決まった。
弥生が頼みづらそうにしていたのが見てて面白かった。
「あ、ご主人様!オプションはどうされますか?」
「え?オプション?」
なんだそれ、さっき来たときはなかったサービスだぞ。
「はい!普段ならイベントの時にしかやらないんですけど、ご主人様には先ほど助けていただきましたし、サービスです!如何なさいますか?」
「ああ、なるほど。それならせっかくだし、オプション有りでお願いします」
「かしこまりました!ただいま準備もして参りますので、少々お待ちくださいませ!」
別に恩を売る気はなかったんだけど、使えるものは使ってしまおう。
「…なんかあの店員、私達と一夜の対応がまるで違うぞ」
「え、そうなの?」
「うむ、私達には普通の営業スマイルというやつだが、一夜に対しては何か別の感情が見える」
「なんだそれ。流石に意識しすぎじゃないか?」
「別にそういうこともないんだがな…」
一体何を思い詰めているのか、三空は先ほどから渋い顔をしている。
三空らしいといえば三空らしいが、一度悩み出したらしばらくこうなるのが玉に瑕なんだよなあ…
「おいしくな〜れ!もえ☆もえ☆きゅん♡」
「おお、あれが噂に聞くメイドのおまじないというやつですね!」
「そうだな。実際にやられると気恥ずかしいけど、メイド喫茶って感じするよな」
「ふむ、世の男どもはああいうのがいいのか…」
「私にもやってくれるんですかねえ。楽しみです!」
師走も元々興味はあったのか、とてもはしゃいでいるようだ。
対する三空は相変わらず渋い顔を…って待て、何をメモっている。
メモる要素どこにあるんだ。
「お待たせしました!『ラブラブ♡フワフワ♡オムライス』と『ミラクル☆ラテアート』と『とろけるアイ♡のカルボナーラ』と『キミもメロメロ♡ゾッコンドリア』をお持ちいたしました!」
「おお!私たちのがやってきましたよ!」
どうやらうちらの分が出来たみたいだ。
師走が幼子のようにはしゃいでいる。
これ言ったら怒られるんだろうなあ…
というか料理がとても美味そうで、思わずよだれが出そうになる。
ラテアートは相変わらずすごいし。
「それではご主人様達のためにおいしくなる魔法のおまじないを唱えてあげますね!」
ここで一息吸って、
「「おいしくな〜れ!もえ☆もえ☆きゅん♡」」
メイドさん(なぜか師走も)がおまじないを唱えた。
うーん、メイド喫茶って感じするなあ。
霜月がメイド喫茶に来る気持ちも(少しは)わかる。
「いただきます!はむっ…これはおいひいでふ!」
「ふむ、これは中々、というよりかなり美味いぞ」
「ふふふ、そう言っていただけて光栄です」
「それならよかった。じゃあ俺も…」
「あ!ご主人様お待ちくださいませ!オプションを忘れてます!」
「え?そういえばそんなのも頼んでいたっけ…」
軽くいただきますをして食べようとしたら止められた。
詳しく聞いてないけど、オプションってどんなことするんだろう。
「それではオプションの前にここで一言。今回ご主人様にしていただいたこと、私たちは忘れません!私たちは誠心誠意、貴方様にご奉仕いたします!貴方様の未来が幸せなものでありますように!」
「「?????」」
「あー…」
そういえば忘れてた。
先ほど来たときもなんか違った言葉かけられてたんだよな…
三空と師走に至っては何が起きたのかわからない、という顔をしている。
てか一言って言うけど一言で終わってないんだよな。
そしてメイドさんはフォークを手に取り、
「それではオプションに移らせていただきます!ご主人様、あ〜ん♡」
「「「!!!?」」」
突然の出来事に驚きを隠せなかった。
あれ、メイド喫茶ってこういうサービスやってたっけ?
「あ、あの、メイドさん…?」
「もう、ご主人様ったら!ミオって呼んでください!」
「は!?あ、あの、それは…」
「だって、メイドは他にもいっぱいいるんですよ?ちゃんと名前で呼んでくださらないと!」
なんかこのメイドさんグイグイ来るんですけどぉ!
ちょっと二人とも助け…ってダメだ。
三空はなんか固まってるし師走はなんかすごいキラキラした目でこちらを見ている。
「そ、それは確かに…それじゃ、ミオさん?」
「はい♡如何なさいましたか?ご主人様!」
「その、これは一体?」
もはや聞かずにはいられない。
メイドだからご奉仕なりなんなりあるんだろうけどここはあくまでメイド喫茶だ。
メイド喫茶にきたのは今日が初めてだけど、こういうサービスは本来ないはず。
「あーん、ですか?これは本来イベントがあった際にはご主人様に提供しているサービスみたいなものですよ!」
「そ、そうでしたか…あれ?今日って何かイベントやってましたっけ?」
「イベントはやっておりませんが、ご主人様には全日開放特別サービスとさせていただいております!本当はオプション料金いただいてたんですけど、ご主人様に限り無料とさせていただきます!」
「どうしてそうなった!?」
いや、本当、どうして…
「ええい貴様!何を狼狽えておるか!貴様はこのような女にうつつを抜かすというのか!」
「お前も何変なこと言ってやがる!?どこをどう見てそう思った!?」
「睦月さんってば、意外と初心なんですねぇ…」
「でもご主人様のその初心なところがまた可愛くて!」
なんか収集つかなくなってきた…
とりあえず放っといて食べよう、と思ったけどフォークがない。
「それではご主人様!気を取り直して、あ〜ん♡」
口に放り込まれる。
まさに一瞬の出来事だった。
誰にも邪魔されないよう素早く、なおかつ口の中を痛めないよう優しく口の中に入れてきた。
一瞬ながらもドキドキしてしまい、味を感じない。
「美味しいですか?ご主人様!」
「オ、オイシイデス…」
「ああ!?私ですらしたことないというのに…」
「私もやってみたいです!睦月さん、あーん!」
そして今度は師走が手を伸ばし、俺の口の中に自分が頼んだオムライスを放り込む。
まだ心が落ち着いていないのにこの連撃はヤバイ。
「ああ!?ひーちゃんまで!?」
「あら、この幼女もなかなかやりますね…」
「睦月さん!美味しいですか?」
「オ、オイシイデス…」
三空はもはや涙目になっており、メイドさんは一瞬素が出て、師走はご満悦。
俺はというと、語彙力が完全に低下していた。
もうどうにでもなれ…
「あ…」
ここで師走が何かを思い出したように声を出し、みるみると顔が赤くなっていく。
なんだか様子がおかしい。
「師走?どうかしたのか?」
「い、いえ、そのぅ、なんと言いますか…」
言いあぐねているのか、もじもじしている。
どうしたのだと頭を傾げていると、
「そ、その、間接、キスになってしまったなって思いまして…」
「「……」」
師走から爆弾が投下された。
この時の師走の言葉が衝撃的すぎて、この後のことは何も覚えていなかった。
「この幼女、やりますね…!」
この日の俺と三空(+メイドさん)がそれぞれ抱いた教訓は、
『気を抜くと、やられる』だ。
何にやられるとは、いう必要もないだろう。
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