霜月十一郎とメイド
「はあ…疲れた…」
あれから誤解を解くために奔走したが、三空には逃げられてしまった。
学校で広まるのはとても嫌だが、幸い見たのは三空だけみたいだったし、大丈夫だろう、
後で口止めをしておけばなんとかなるはず…
とにかく今はまっすぐ帰宅しよう…
「おかえりなさいませご主人様ー!今日はなんかお疲れですね?」
「え?」
歩いていると野生のメイドさんと遭遇した。
ヤバイ、ちょっと可愛い…
「そんなお疲れのご主人様にはたっぷりサービスしちゃいますよ!さあさこっちです!」
「え、あの、ちょっと待って!?」
腕を引っ張られてお店まで引きずられる。
あかん、このメイドさん見た目とは裏腹に力強っ!
「待ってごめん!君みたいな可愛い子に誘われて嬉しいんだけど、今日はやめとくよ!お金もあんまりないし、それにこんな場所初めてだから…」
「あら、ご主人様は意外と初心なんですね!かっこいいとは思ってたけど、緊張してるところがとても可愛いです!そんなご主人様のために、今日は私がサービスいたしますので、お代は結構ですよ!」
「いやいや、流石にそういうわけにはいかないよ!お金はきっちりと払うから!君は頑張る側なのにお代はいらないなんて言っちゃダメだから!」
「……」
い、いかん、言いすぎたか?
いや、でも流石にお金は払わないと!
この娘達にだって生活があるはず。
お金は大事なんだ!
「ご主人様かっこいい…私、キュンってしちゃいました…」
「は?待って、どゆこと?」
「決めました!ご主人様には何がなんでもお店に来てもらいます!さあさこっちです!」
「ちょっと待って!?俺の意思は!?」
俺はなぜかこのメイドさんに連れられて、もとい腕を組まれて連れてかれる。
ヤバイ、ほんとに力強いこのメイドさん。
そうして連れてかれ、待ち構えていたものは、
「「「おかえりなさいませ!ご主人様ー!」」」
大量のメイドさんだった。
ざっと見てみると、ここのメイドカフェレベル高いな…
そしてそのメイドさん達もまじまじと俺の方を見つめる。
あかん、ちょっと気まずい…
「さあさご主人様!こちらの席へどうぞー!」
「え、あ、はい…」
急に声をかけられ、変な返事をしてしまう。
いかん、緊張してきた…
「ご主人様!こちらメニュー表です!決まったら呼んでくださいね!」
席についた俺にメニュー表を渡し、バックへと戻るメイドさん。
うう、いたたまれない…
「ちょっとミオ!あのご主人様かっこいいんだけど!よく連れて来れたわね!」
「でしょでしょ!しかもあのご主人様、初めてで緊張してるんだって!もー、可愛いの!」
「あの顔でそれは反則でしょ!きっちりもてなしてあげないと!」
バックの方ではメイドさん達が何やら騒いでいるが、こっちの方までは会話の内容は聞こえない。
手っ取り早く何か頼んで帰るか…
「エリちゃんちょー可愛いね!このお店に来たかいがあったよ!」
「ふふ、ありがとうございますご主人様!」
何やら向こうは向こうで盛り上がっているようだった。
だけど気のせいだろうか、なんかどっかで聞いたことのある声だな…
少し気になるので声のする方をチラッと見てみると、
「エリちゃんの顔見るために毎日きちゃおうかなー!なんて!」
「またまたぁ、ご主人様ってば口が上手なんですから!」
「……」
そこにはメイドさんをナンパしている
俺も人のこと言えた義理ではないけど、何やってんのあいつ…
ってかあいつ昼の罰ゲームで金使い果たしたんじゃなかったのか?
「ご主人様?どうかなされましたか?」
「!!?いえ、何もないです…」
びっくりした…
いくら霜月の方気になっていたとは言え、このメイドさんが近づくことに全く気づくことができなかった。
さてはこのメイドさん、忍者か何かか?
「ご主人様、まだ緊張されてますか?」
「え!?それは、その、はい…」
「うふふ、ご主人様ってば、ほんと可愛いです!メニューはゆっくりお決めになってくださいね?」
「あ、はい、ありがとうございます…」
何か勘違いしてくれてるみたいだが、ひとまずよしとしよう。
あんまり霜月の方見ても不審者扱いされるだけだしな。
ひとまず何か頼んで落ち着くか…ってたっか!?
コーヒー1つ550円もするの!?
うわぁ、ちょっと手出しづらいけど、仕方ないよなぁ…
「あの、このメイドさんのミラクル⭐︎ラテアート1つください」
「かしこまりました!腕によりをかけて作りますので、少々お待ちくださいご主人様!」
鼻歌を歌いながらバックに下がるメイドさん。
何かいいことでもあったのだろうか。
それはさておき、霜月の方はっと、どれどれ…
「聞いてよエリちゃーん、今日さー、トランプでイカサマされたんだよー」
「あらまあ、それは大変でしたねご主人様」
「こっちは正々堂々勝負してたのにさー、ほんとありえないよ」
ど の く ち が い っ て ん だ こ の や ろ う !
あいつ人がいないところでこんなこと言ってやがったのか!
今の会話つい録音しちまったけど、後でみんなに流してやる。
ってか今流す、拡散してやる。
悪は絶対に滅ぼしてやる、そう心に誓った。
「ご主人様、お待たせしました!こちらミオお手製のミラクル⭐︎ラテアートです!」
「あ、はーい…って何これ」
ラテアートで描かれたのはシンプルに猫とハート、それにLOVEの文字だ。
だがビックリしたのはそこではない。
立体なのである。
今の人ってこんなことできるのか…
「こ、これはすごい、飲むのもったいないくらい…」
本来なら可愛いとか言ってあげるべきなんだろうけど、率直に言って凄すぎる。
思わず素で反応してしまった。
申し訳ない。
「そ、そんな…今まで言われた言葉で一番嬉しいです…」
あ、この反応で正解だったみたいだ。
でも問題はここからだ。
聞くところによると、メニューが来た後はメイドさんの「おいしくな〜れ!モエ⭐︎モエ⭐︎キュン♡」なるおまじないが待ち受けているはず。
見てて少し恥ずかしい気もするが、郷に入っては郷に従えだ。
メイドさんだって頑張っているのだから俺が目を背けてどうする!
「それではここで一言。ご主人様がいついかなる時も健康で過ごせますよう私たちは祈ります。ご主人様に幸せがあらんことを!」
…あれ?思ってたのと違う…
なんか凛々しい声で一言言ったメイドさんの方を見てみれば、後ろには大量のメイドさんがいた。
どうやら仲間達と一緒に祈りに来たみたいだけど、今のメイドカフェってここまでするの?
規模がすげえな…
「あーんもう、私もあのご主人様のところに行きたかったぁ…」
「エリちゃーん、聞いてよ…今日の昼休みさー…」
ふと霜月の方に視線を向けてみればまだ絡んでいるようだ。
若干ではあるけど、あのメイドさんなんか疲れてるな…
霜月が色々と申し訳ない…
「んー、あの人また来てるよ…」
「今日もエリかー…大変だねえ…」
「あの客がどうかしたんですか?」
「あの人ってばここに来るたびにいつも愚痴ばかりなんですよ。たまには楽しい話もして欲しいんですけどね…」
メイドさん達が何やら話し込んでいる。
なるほど、霜月は迷惑客なのか。
もはやどんまいとしか言えない。
「わ、私、こちらの食器お下げいたしますね…」
「わかったよー!また来てねー!」
霜月のところにいたメイドさんが食器を下げてこちらに向かってきている。
ずっと俯いてるし、あれ相当疲れてるぞ。
「きゃっ!?」
案の定足を引っ掛けて前に倒れていく。
「あ、危ない!」
誰が言ったかわからないその言葉が出る前に体が動いていた。
倒れそうになるメイドさんを受け止め、体制が悪いながらも食器をなんとかキャッチする。
間一髪だった。
「あの、大丈夫ですか?」
慌てていた周りのメイドさんもホッと息をついた。
心配していたとはいえ、こうなるとは思っても見なかっただろう。
対する倒れたメイドさんはこちらの方をじーっと見つめる。
不測な事態とはいえ、急に体を触ったことに対して怒っているのだろうか。
だがそれも杞憂だったようで、
「なんてかっこいいご主人様…素敵…」
なんてことを言っていた。
なんか絆されているけど、もう少し気をつけてください。
「怪我がないようでよかったです。立てますか?」
「あ、はい!ありがとうございます!」
とりあえず何事もなくてよかった。
だがちょっとした騒ぎになったので向こうも気づかないわけがなく…
「エリちゃん、大丈…って睦月!?なんでここにいやがる!」
「それはこっちのセリフだがこの際それはどうだっていい。俺はお前に言いたいことがある」
「な、なんだよ。お店で騒いじゃいけないんだぞ!」
「そうだな、お店では騒いじゃいけないな。だからお前にはここを出てってもらう」
「は?お前に何の権利があって…」
『聞いてよエリちゃーん、今日さー、トランプでイカサマされたんだよー』
『こっちは正々堂々勝負してたのにさー、ほんとありえないよ』
俺は先ほどの会話の録音を突きつける。
これだけでは全然足りないのだが、次の手はもう打ってあるからな。
もうそろ来るだろう。
「おい、なんだよこれ…」
「お前がメイドさん達を困らせていたかどうかの判断はメイドさん達に任せるとして、お前は自分のことを棚に上げて被害者のように振る舞うのはどうにも見過ごせなくてな。ちなみにこの音声は関係者全員に送っている」
「おいバカ!お前、そんなことしたら…」
ガチャっ
「…霜月はクズ野郎」
「貴様はいっぺん死んでみるか?」
「ほんっとうに懲りないね…」
「お前が先に仕掛けてきたことだろうに…」
「僕を巻き添えにしておいて、それはないよ霜月くん」
現れたのは如月、三空、文月、皐月、長月の五人だ。
みんな今朝のポーカーに関わった人物である。
しかも長月に関してはというと、
「君は昼お金ないからという理由で罰ゲームのお昼ご飯を僕と折半したんじゃないか。それなのにこのメイドカフェにいるのはどういうことなんだろうね?」
意外にも長月がかなり怒っている。
長月は変態ではあるものの、基本は物腰の柔らかい人物なのだ。
それを怒らせるのは相当なことである。
「ゆ、許してええええええええ!」
悲鳴を上げながら引きづられる霜月。
「ちょっと待った。霜月、せめて会計は済ませろよ」
「わかった、わかったからちょっと待って!」
「やだ、待たない」
如月が霜月の財布をぶん取り、会計を済ませる。
その間にも引きづられる霜月であった。
実に哀れである。
「すいません皆さん、お騒がせしました…」
すっかり置き去りにしていたメイドさん達に謝罪をする。
「いえ、逆にありがとうございます!」
「正直あの人にはうんざりしていたので!」
「助けていただいてありがとうございます!とっても素敵でした!」
「あのう、もしよろしければ連絡先を聞いても…」
逆に感謝された。
本当に霜月にはうんざりしていたようで、先ほどのメイドさんもとても生き生きしている。
ってか誰だ連絡先聞こうとしてんの。
まあ何はともあれ一件落着か、と思えば…
「そして一夜よ。貴様もここで何をしている?正直に話さねば、その首が飛ぶと思え」
「ひぇ…」
さっきは俺が三空を追いかける側だったのに今度は俺が追いかけられる側になってしまった。
どうやら逃げられそうにないので、諦めてお縄につくことにした。
ちなみにお支払いは如月が霜月の財布から余分に出したため、ほぼタダになってしまった。
ありがたし。
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