(9)

 部隊の数は半分に減った……。

 行方不明になってた奴も死体で見付かった。この要塞都市に住んでた魔族の生き残りに殺されたらしい。どうやら、僕達の部隊から行方不明者が出れば、残りが捜索に駆り出され輸送兵を守る者が居なくなる……と云う事を読んだ作戦だったらしい。

 居なくなった部隊員は、輸送兵を襲った奴らを倒そうとして、返り討ちに会っただけじゃない。

 佐藤の予想通り、この隙に脱走した奴も山程居たのだ。

 あと……輸送兵の数はゼロになった。

 食料の七割ぐらいは持ち去られた。

「やれやれ……やっぱり、こうなったか……」

「おい、佐藤、何食ってるんだ?」

「見て判んないか? 痩せてるけど栄養価はそこそこみたいだ。田中も喰うか?」

 佐藤は、「白人」に似た魔物の腕を僕の方に差し出した。

「お……お前、な……何をしている?」

 指揮官が人間だったなら、青ざめていた所だろう……。しかし、地球の「白人」に似ていると言っても、昔のヘヴィメタ・バンドがやってた化粧みたいな感じの地球の人間には有り得ない「白い肌」なので、「青ざめている」かどうかは判らない。

 とは言え、かなりドン引きしているのは確かだ。

「食事です」

「何で、そんなモノを食ってる?」

「我々から見れば、敵の死体ですよね?」

「い……いや……そうだが……」

 どうなってんだ? 佐藤が指揮官を論破しかけてるのか?

「持って来た食料が奪われた以上、敵の死体を食料にするのも合理的な判断だと思いますが……」

 どこが「合理的」だ?

「……あぁ、確かに『敵の死体を喰うな』なんて軍規も法律も無いな……。別の問題が有る気もするが……。そもそも食えるのか?」

「食いますか?」

「あ……あぁ……ん? 中々、美味いな」

「お……おい……いくら何でも……」

 木村くんも、佐藤にそう言ったけど……。

「地球の人間の魂の成れの果てかも知れないモノを喰うより、この世界の原住の魔物の肉を喰う方が心理的な抵抗は小さい。これも合理的な判断だ」

「あ……あぁ……そうか……」

 合理的って何だ? あと、この「地獄」では、何が「正気」なんだ?

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