(8)

 僕達の部隊は行軍を始めた……。昼も夜も無い、この世界で「何日」かかっているかは良く判らないけど。

「『地獄』って……魔物にとっても『地獄』だったのか……」

 僕達は、途中の要塞都市で小休止。そこには……。

 いくつもの魔物の死体。

 骨になったものから、真新しいモノまで。

 どれも他の魔物と争って死んだみたいで、体のどこかに深い傷が有るか、どこかの骨が折れているようだ。

 しかも、今の僕達よりも人間に似てる魔物ばかりだ。

 まだ腐敗が進んでない死体は……痩せているものが多い。……あぁ、この「地獄」でも生物が死んだら、腐っていくのか……。

「佐藤の言ってた事が当たってたのか?」

「って言うと?」

「こいつら……食料の奪い合いをやってる内に……」

「殺し合いになった?」

「まさか、食料の奪い合いの結果、人口が……『魔物』の数を『人口』って呼ぶのも変だけど……ともかく殺し合いで人口が減ったのか? 減ってしまった国力に見合う数まで……」

「食料を配布するぞ」

 その時、部隊の指揮官……この指揮官も教官と同じく生粋の「体育会」みたいで、人間の白人の男に似た姿だ。

「食わないのか?」

 木村くんは、佐藤にそう言った。

「まだ抵抗感が有る……。まぁ、この体だと……多少腹が減った気がする程度で済んでるけどな」

「どうした?」

 佐藤の様子が何かおかしい。その事に木村くんも気付いたみたいだ。

「ここの住民はどうなった?」

「いや、だから殺し合いをして……」

「もし、自分の町で突然殺し合いが始まったとしたら、お前ならどうする?」

「どうするって……?」

「殺し合いが一段落するまで、どこかに隠れておこう……とか考えたりしないか?」

「えっ? おい、まさか……」

「もし、生き残りが居るとしたら……」

「食事が終ったのなら、そろそろ出発だ」

 その時、再び指揮官の声。僕達は要塞都市の外に出て、隊列を組み……あれ?

「足りない……」

 僕達の部隊では……いや「体育会系」魔族の軍隊全てが、そうなのかも知れないけど、行軍の時も「隊列のどの場所に誰が居るか?」は厳密に決められている。

 そして、全員が「決められた場所」に並んだ結果……。

 隊列の中に明らかな隙間が有る。

「脱走兵か? 探せ‼」

「全員で探すんですか?」

 何故か佐藤が指揮官にそう言った。

「当然だ、行け‼」

「いいんですか、本当に?」

「抗命は重罪だぞ。判っているのか?」

「じゃあ、もし、何か有った場合の責任は指揮官に有るんですよね?」

「私への脅迫も抗命と見做すぞ」

 やれやれと言う感じで、佐藤も要塞都市の中に戻った。

「どうしたの?」

「この町の連中が生き残ってて……もし、狙いが食料だったとしたら?」

「あっ……」

「今、誰が、この部隊の食料を守ってる?」

「……戦闘力ほぼ無しの輸送兵……」

「あと、捜索に駆り出された奴らの中に、自分も脱走しようと思ってる奴が居たら……」

 その時、要塞都市内の壁や床が震え出した。

「全員戻れ〜‼ 全員戻れ〜‼」

 伝令代りの「大声を出す能力しか無い」魔物の声だ。

「やれやれ……やっぱり、こうなったか……」

 要塞都市の入口辺りまで来ると、指揮官と伝令代りの「大声を出すだけの魔物」が要塞の壁で身を隠しながら、外を窺っていた。

「な……何とかしろっ‼」

 外では、痩せ細った何百人もの「白人」に似た魔物達が、輸送兵を虐殺していた。

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