(6)

 僕達は、縦横に綺麗に並ばされた。前後左右に居る奴との距離は、かなり近い。

「盾、構えっ‼」

 僕は盾を頭の上に掲げる。隊列の端に居る奴は上だけじゃなくて、前や横にも盾を構えているらしい。

 なるほど、それが「エリート」だと手が何本も有る理由か。

 そして、隊列や盾の隙間から槍が前に向けて突き出ている。

「前、進めっ‼」

 敵からすれば、盾で前と左右と上を覆った無数の槍兵が突撃してくるような……、つまり……あれ?

「うわあぁぁぁぁぁぁぁっ‼」

 早速、どこかの列が盛大にコケた。

 当然ながら、端以外の奴は視界が極端に悪い。いや、デカい盾が前や横や上に有るので、端だって視界は良くないが、端以外だと、他の兵隊が周囲に密集してるので、視界は「悪い」と云うより「ほぼ無い」。

 その状態で、歩調を合わせて突撃しないといけない。

 そりゃ、何か起きる。

「あの……軍楽隊みたいなモノは無いんですか?」

 佐藤が手を上げて、そう言った。

「他の世界には、そんなモノが有るらしいな。だが、何の役に立つ?」

「例えば、後の方で太鼓か何かを叩いて、その太鼓の音に歩調を合わせるとか……。そうすれば、こんな事が起きる確率を減らせるんじゃないですか?」

 えっ?……ああ、ひょっとして、運動会の行進の時の音楽って、その為のモノだったのか?

「良い考えだな」

 おいおい、異世界転生したら、本当に異世界転生モノのラノベみたいな事になってきたぞ。

「だが、コストの問題が有ってな……」

「あの……ひょっとして、この部隊って、いつ死んでもいい、使い捨て部隊ですか?」

「良く判ったな。そんなモノの為に、わざわざ、お前の言う『軍楽隊』を作る必要が有ると思うか? 人員の無駄だ」

 ああ……やっぱりここは地獄な訳か……。

 ところで、えっと……今更だけど……地獄で死んだら、どうなるんだろ?

「ほら、立て。やり直しだ。整列っ‼」

 2回目が始まった。

 まだ、僕達の部隊は、整列するまでにも、結構な時間がかかる。

「盾、構えっ‼ 前、進めっ‼」

 どっしゃ〜ん。

「整列‼ 盾、構えっ‼ 前、進めっ‼」

 どがどが……どっしゃ〜ん。

「整列‼ 盾、構えっ‼ 前、進めっ‼」

 どがどがどがどが……どっしゃ〜ん。

「整列‼ 盾、構えっ‼ 前、進めっ‼」

 どがどがどがどがどがど……どっしゃ〜ん。

 どれだけの時間が過ぎただろう。そう言や、この「地獄」には昼や夜は有るのか? 明るさが全然変んないんだけど。

 とは言え、段々と、歩調は速くなり、突撃開始からコケるまでの時間は長くなった……。が……同時に、ほぼ全員が、ある事に気付き始めた。

 どがどがどがどがどがどがどがどがどがどが……ど……どっしゃ〜ん。

「何で、その列ばかりコケる?」

 渡辺が居る列だった。……あぁ、そうだ……そう言えば……。

 いじめっ子3人組の中で、あいつだけは、小学校の頃から一緒だったんで知ってるけど……。運動会の行進の練習の時なんかにも、あいつ1人だけ歩調が合ってない事が良く有って先生に怒られていた……。

「その列の奴は、全員、返品だ」

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